犬を飼うにあたって、ペットショップやブリーダーから購入するのではなく、保護犬を選択肢としてあげられる方は増えています。
しかし、保護犬を飼育する際にはいくつか気をつけなければならないポイントがあります。
皆さんが犬を飼うといったときにイメージするのは、名前を呼んだり近づいたりすると喜んで尻尾を振ってくれる姿ではないでしょうか。
ペットショップで展示されている子犬たちも、無邪気で愛嬌にあふれていますよね。
しかし、すべての犬がそうとは限りません。
今回は、保護犬の特徴や飼育する上で必要不可欠な道具についてお伝えします。
安易な飼育にならないよう、保護犬の特性をよく理解した上でお迎えする準備に取りかかりましょう。
保護犬の警戒心は野生並み!飼育には優しさと根気が大切

保護犬は、保護されるまで厳しい環境で身を守りながら生き延びてきた動物です。
特に元野良犬や元野犬は、犬とはいっても、その生態はキツネやタヌキと変わらないといってよいでしょう。
警戒心が強く、それまで人間は彼らを捕まえようとする恐怖の対象でした。
当然、捕まえた当初は軽々しく触れることも難しい状態です。
ケージの中で逃げ回ったり、隅で小さく震えています。
そんな保護犬が人に譲渡できる状態になるまでには、お世話をした人たちの並々ならぬ努力があるのです。
実際に譲渡センターなどで保護犬と触れあってみるとわかりますが、名前を呼んで反応してくれる犬は多くありません。
知らない人が近づくと、やはり隅の方に逃げて小さくなっていることが多いのです。
もちろんすべてがそのような犬ばかりではなく、よくトレーニングされている子は、手やおやつを差し出せば近づいてくれる場合もあります。
保護犬を飼育する場合は、ペットショップから連れ帰る場合よりも慣れるまでに時間がかかると思っておきましょう。
保護犬には、根気強く向き合い、優しく接してあげることが大切です。
そうすれば、少しずつ心を開いてくれ、やがて本当の家族として犬の方も受け入れてくれるでしょう。
保護犬を飼育するためのチェックリスト

保護犬を家に迎え入れるにあたっては、以下のような準備が必要になります。
チェックリストで確認しながら準備を進めましょう。
- 犬が落ち着けるスペースがある
- 脱走対策が完了している
- いたずら対策が完了している
- ハウスとトイレの準備ができている
- フードとその器の準備ができている
- おやつやおもちゃを用意している
まずは犬の生活スペースを整えます。
家に迎えたばかりの犬が落ち着いて過ごせる場所を作ってあげましょう。
このときに注意したいのは、犬にとってリラックスできる場所は広い場所とは限らないということです。
見知らぬ家に来たばかりの犬は、とても緊張しています。
部屋の隅で丸くなって様子をうかがうことが多いはずです。
なぜリビングかといえば、犬は本来群れで暮らす動物であるため、離れた場所に隔離されていると不安を感じやすくなるからです。
初めて来た家で緊張してはいますが、一頭にしてしまうと余計に不安を感じてしまいます。
慣れてくれば次第に自分から近寄ることができるので、それまでは犬のペースで、声掛けをしっかり行うなどして距離を縮めていきましょう。
生活に慣れてくると、特に子犬や若い犬は何でもかじってしまいます。
かじられたくないもの、犬にとって危険なものは、犬が入ってこない場所や犬が届かない高い場所に移動させましょう。
犬のスペースづくりに必要なのは、以下のようなものです。
- クレート
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犬の部屋として使用できるだけでなく、持ち手がついているため移動させることができるコンパクトなケースです。
犬の身体の大きさに合ったものを選びます。
- ケージ
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一般にクレートよりも大きなケースで、天井・柵・床で構成されています。
犬が身体を伸ばしてくつろぐことが可能です。
場合によっては移動の際に使用されることもあります。
- サークル
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柵のみで構成されており、犬のスペースを囲むのに使用するのがサークルです。
基本的に移動時には使用しません。
- 滑り止め防止のマットやカーペット
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フローリングは犬が滑りやすく、足腰に負担がかかりやすくなります。
滑らないように対策を施しましょう。
- 毛布やベッド、犬用マットレス
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季節に合わせて、暖を取れるものを用意します。
ベッドやマットレスは、犬の身体にかかる負担を和らげてくれるため、特にシニア犬の場合は必須です。
- 首輪やハーネス、リードがそろっている
- 排泄物を処理する道具を準備している
犬にとって毎日の散歩は不可欠です。
犬の身体のサイズに合った首輪やハーネスを用意し、長さは犬が苦しくない程度に、しかし簡単に抜けない長さで調整しておきましょう。
リードは、長すぎるものは危険です。
これは、保護犬は特に臆病な犬が多く、散歩中の急な音やものや人の動きに驚いてパニックを起こし、制御できなくなる場合があるためです。
容易に引き寄せられない場合には、ケガや事故につながる恐れがあります。
のびのびと走らせてあげたい気持ちはわかりますが、まずは安全第一で散歩ができるように気をつけましょう。
排泄物の処理は、怠ると軽犯罪法違反になります。
犬の散歩に出かける際は必ず、排泄物を処理するものを持参しましょう。
- ごみ箱は蓋つきのものに変える
- すぐ連れていける動物病院をチェックしている
- ペット保険の加入の確認が終わっている
犬を飼育する際、気をつけたいことの一つが誤飲です。
人間には害がなくても犬にとって害のある食べものはたくさんありますし、においがついた包装紙・ビニールなどを飲み込んでしまうこともあります。
食べもののにおいがするごみ箱を勝手にあさらないように、蓋つきのものを用意しましょう。
連れてきたばかりのペットは、慣れない移動や緊張から体調を崩しやすくなります。
すぐに回復が期待できる場合はよいのですが、しばらく安静にしていても元気がない・不調が続く場合は、動物病院で診察を受けましょう。
動物病院で診察を受けた方がよい場合は、以下のような場合です。
- 食欲がなく痩せてきた
- 嘔吐や下痢が続く
- 毛が抜ける、ストレスで手や足を噛む・ずっと舐めている など
また、元野犬や元野良犬の場合、フィラリアなどの病気にかかっている場合があり、定期的な通院が不可欠になる犬もいます。
あらかじめ動物病院を見つけておくことは、犬の健康のために大切です。
ペット保険の加入は必須ではありませんが、年齢が若いうちやシニアになるにつれて病気になる可能性は高くなります。
大きな手術は受けずとも、毎日の投薬が必要になる場合もあります。
そのような場合を見越して保険に入っておくと、かかる費用がぐっと抑えられるため、金銭的な負担が小さくなるでしょう。
すでに持病がある場合やハイシニア犬の場合、保険の加入が難しいことがあります。
ペット保険の選び方については、こちらのコラムをご覧ください。
脱走防止の対策は特に重要

保護犬を迎え入れるにあたって、最も注意しなければならないのが脱走です。
元野犬や元野良犬の保護犬は逃げるのがとても上手で、一度脱走するとなかなか捕まえることができません。
犬が脱走してしまった場合、必ず捕まえられる・自ら帰ってくるという保証はありません。
脱走した犬が無事に帰宅できる確率は、実は高くないのです。
脱走は、屋外だけでなく、屋内にいる場合でも注意する必要があります。
犬が脱走しやすい場合やタイミング
犬は、以下のような場合やタイミングで脱走する可能性があります。
- 大きな音に驚いてパニックになったとき
- 家の窓が玄関が開いているとき
- 屋外での飼育や散歩で首輪が抜けたとき
- 散歩中に手を放してしまったとき
- 車に乗せるとき
- 車に乗せていてクレートに入れていないとき など
屋内であっても、飼い主が窓や玄関が開いていることに気づかず、犬が知らない間に脱走しているケースがあります。
また、大きな音や衝撃、急な動きなどに驚いて逃げようとして、そのまま脱走してしまうこともあるため、どのような場面でも注意が必要です。
散歩は要注意
散歩中は、たとえば犬が動かなくなって飼い主がリードを引っ張った際に首輪が抜けてしまったり、ふとしたときにリードを放してしまったりして、脱走することがあります。
リードを放してしまう場面は、去勢していないオス犬の場合に発情中のメス犬を見つけて、かなり強い力で追いかける場合や、引っ張りが強い犬の場合などです。
狩猟犬の場合、鳥や猫などを急に追いかけ始めることもあります。
大きな音や車、子どもなどに驚きやすい臆病な犬の場合は、なるべく壁側を歩かせましょう。
- 車・自転車・バイク
- こども
- ボールや縄跳びの音
- シャッターが強風にあおられる音
このほかに、自転車カバーなどが風にあおられたときなどにも注意が必要です。
車に乗っているときも注意
車に乗せたりおろしたりするときも、脱走しないように注意しましょう。
なるべくクレートに入れて移動させ、難しい場合は犬から目を離さないようにします。
犬用シートベルトで自由に動き回らないようにするのも、脱走防止に効果があります。
犬が車内を自由に移動できる状態だと、エンジンがかかっているときに窓を開けるスイッチを押してしまい、脱走することもあるのです。
脱走対策に必要なアイテム
脱走対策につながるアイテムをいくつかご紹介します。
ただし、使用したからといって100%脱走を防止できるわけではありません。
日ごろから犬をよく見ておくことが大切です。
(室内)ゲート

出入口にゲートを設置してこまめに閉じておくことで、脱走予防につながります。
ただし、運動能力の高い中型犬や大型犬は、難なく飛び越えてしまうことがあります。
(庭)フェンスや柵、ブロック
庭が障害物なく道路に面している場合、脱走する可能性が高くなるため、フェンスや柵を設置しましょう。
フェンスや柵の途中にゲートを設けている場合、地面が土だと穴を掘って脱走することがあります。
そのような場合は、ブロックを設置することで下からの脱走を防止することが可能です。
(散歩)首輪とハーネスの両方をつける、肩掛けリードを使用する

首輪とハーネスどちらか一方だと、万が一犬の身体から抜けてしまった場合に脱走しやすくなります。
首輪とハーネスは両方使用することで犬を制御できます。
肩掛けリードは、万が一リードから手を放してしまった場合でも犬が離れていかないため、脱走防止に効果が期待できるでしょう。
首輪とハーネス両方を同時につなげるダブルナスカンタイプがおすすめです。
参照:Amazon|[LaLUCA GOODS] 犬 ショルダーリード
保護犬の子犬と成犬の飼育に違いはある?

もちろん個体差がありますが、保護犬の子犬と成犬を飼育する場合、順応しやすいのは社会経験の短い子犬といえます。
成犬の場合、野生での暮らしが長く、その分警戒心が強くなる傾向があるためです。
しかし、子犬には子犬の、成犬には成犬の、それぞれのメリットやデメリットがあります。
それぞれのメリット・デメリットの一例をご紹介しましょう。
- 子犬を迎える場合のメリット
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- 長い年月を一緒にいられる
- 成長を見守ることができる
- トレーニングから楽しめる
- 懐きやすい・慣れやすい
- デメリット
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- 一からトレーニングが必要になる場合がある
- 活動的でいたずらが多い
- 成犬を迎える場合のメリット
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- 比較的落ち着いている
- いたずらが少なめである
- 基本的なトレーニングが終わっている場合がある(例外もあります)
- デメリット
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- 警戒心が強めである
- 以前飼育されていた場合、悪い癖がついている場合がある
- 一緒にいられる年月が短い
- 体力の低下から病気になりやすい・体調管理が必要
飼育を始める前に、しっかりと犬の個性や相性を確認することが大切です。
トライアルを利用しよう

多くの譲渡施設で、トライアル制度が採用されています。
これは、譲渡の契約を結ぶ前に一定期間一緒に暮らすことで犬の性格を見極めたり、相性を確認できる制度です。
譲渡施設で見たときの印象と、実際に飼育し始めて感じる印象が異なることはもちろんあります。
事前にどのような犬なのかを体験して知ることで、飼育開始後のトラブルを避けたり抑えたりすることにつながるのです。
また、既に先住するペットがいる場合、トライアルを利用することで新しく迎える犬との相性を確認することもできます。
お互いが快適に暮らし始めるためにも、積極的に利用したい制度です。
早くおうちに慣れてもらうためにできること

保護犬に早く慣れてもらい、家族の一員であると実感してもらうためには、飼い主側が無理に距離を縮めようとしないことが大切です。
家に来た当初から思い切り撫でたりすると、犬は余計に緊張・警戒してしまいます。
飼い主にとっては歯がゆい期間ですが、保護犬が自分から興味を持ってくれるまで辛抱強く待ちましょう。
慣れていないうちは特に、叱ったり声を荒げたりするのは厳禁です。
無理に犬のスペースから出すことも控えましょう。
嗜好性の高いおやつをあげる、しっかり名前を呼ぶ、明るい声で話しかけるといった行動は、犬との関係を縮めるのに役立ちます。
保護犬を迎える場合は、より深い愛情をもって、関係性の構築に努めましょう。
まとめ

初めて保護犬を目にされた方は、ペットショップなどでよく見る、明るく人懐っこい犬の固定概念を覆されるかもしれません。
しかし、どんな犬でも愛情をかければかけるほど、受けた愛情をそれ以上にして返してくれるようになります。
保護犬の場合は飼育を始めたころのハードルが高くなりがちですが、そのハードルを乗り越えれば、より深い絆をつなぐことができるはずです。
もしも途中で苦しいと感じたら、早めに譲渡施設の方やプロのトレーナーに助け舟を求めましょう。
保護犬を迎えるにあたっては、まずは安易な気持ちで迎えないこと、そして、迎えるための準備はしっかりと行い、愛情深く接してあげることが大切です。
一頭でも多くの保護犬が温かな家庭に迎えられるために、ぜひ犬を飼う選択肢に保護犬を検討してみてください。