冬の厳しい寒さを乗り越えるために、一部の動物は冬眠という方法を取り入れています。
日本では、クマやリスなどが冬眠する動物としてよく知られていますね。
しかし、近年はさまざまな原因で冬眠することができず、いつまでも活動していたり、人間が暮らす地域に下りてきて被害が出たりすることが問題となっています。
動物たちの冬眠を妨げるものはなんでしょうか?
動物たちが安心して冬を越せるために、私たちができることはないのでしょうか?
今回は、冬眠を妨げる原因を中心に、冬眠について理解を深めていきましょう。
なぜ冬眠できない事態が発生するのか

本来冬眠すべき動物が冬眠せず活動している理由は、温暖化が原因の一つとして考えられます。
たとえば、温暖化による影響の一つとして冬に温かい日が続くことによって、冬眠に入るタイミングを逃してしまうことがあります。
北海道に生息するヒグマは気温が0℃、本州・四国に生息するツキノワグマの場合は約6℃が冬眠に入る目安です。
同じく冬眠するリスの場合は日中の気温が20℃を下回ると、冬眠しはじめる個体がいるようです。
人間を含む冬眠しない動物にとって、冬でも暖かい日はメリットがありますが、冬眠する動物にとってはそうではないのですね。
また、温暖化によって雪が降らない・積もらないことによって、いつまでも食べものを手に入れられる状態が続くと、これも冬眠を妨げることになります。
たとえば、動物園で飼育されているクマは冬眠しませんが、これは一年中エサをもらえるからです。
自然界では、クマやリスのエサとなる脂肪分をたっぷり含んだブナやドングリ、クリといった木の実は、雪が降ると採取することが難しくなってしまいます。
しかし、雪が少ないとわざわざ雪を掘って木の実を探す必要がありません。
容易に食べものを手に入れることができるのです。
ちなみにクマは虫も食べますが、虫は寒くなると地中に潜ってしまうため、捕まえることができません。
人間の活動が動物の活動を変化させている?

人間の活動の変化が、野生動物に全く影響を与えていないとは言い切れません。
たとえば人間は戦後、元々生えていた広葉樹を伐採して、材木として利用しやすいスギやヒノキばかりが生い茂る人工林を作りました。
近年、林業の不振や後継者問題などによって、人工林の放置が問題となっています。
密集して生えた木々は日の光が入らず、やがて荒廃していきます。
動物たちのエサとなるような木の実も、生い茂る草もありません。
そのような人工林の放置とは逆に、メガソーラーの設置などによる森林伐採が日本各地で進んでいます。
人間の都合による開発によって、動物たちにエサを提供していた木の実のなる木が伐採されたり、山が切り開かれることによって巣や隠れる場所が失われたりするのです。
ソーラーパネルの設置は、部品に使用されている有害物質が土地を汚染する可能性も否定できません。
北海道では、開発によって荒らされた湿原でタンチョウの姿をみかけなくなったなど、地元の人々が変化に気づいています。
山を切り開いて設置されたメガソーラーが、野生動物にどれくらいの影響をおよぼすのかはデータが不足しているため、どれほどの影響を与えているのか明言することはできません。
また、野生動物の生息数や生息場所などを正確に追跡するモニタリングも、不十分であるといわれています。
しかし、森林は人間だけのものではなく動物たちの生活の場でもあることを忘れず、安易に山を切り崩すようなことはせず、開発は専門家による調査を踏まえながら慎重に行うべきでしょう。
冬眠できない動物によって起きている事件
2023年度(令和5年度)は、冬期にクマが市街地に出没する事件が相次いだ年でした。
環境省の調査によると、2009年~2023年で最も人身被害が多かったのが2023年度だったのです。
参照:環境省|クマ類の生息状況、被害状況等について
被害は、冬眠の準備をする9月~12月にかけて顕著に増加し、地方別にみると東北地方のみが圧倒的に増えていました。
この年は、冬眠するクマにとって重要な栄養源となるドングリが凶作で、エサを求めたクマたちが仕方なく人里に降りてきたと思われます。
被害が大きかった翌年の2024年、クマは計画的に捕獲して頭数を管理すべきと決定されました。
それまでニホンジカとイノシシが対象となっていた「指定管理鳥獣」にクマも追加され、捕獲や個体数の調査をする際に、都道府県は国の交付金を利用できるようになったのです。
参照:農林水産省|指定管理鳥獣の指定
市街地に出没するクマ
市街地に出没するクマを「アーバンベア」と呼びます。
クマが市内のスーパーマーケットに侵入した事件は、記憶に新しいのではないでしょうか。
- 2024年2月22日 岩手県北上市 江釣子ショッピングセンターパルに小グマが出現
- 2024年11月30日 秋田県秋田市 いとく土崎みなと店に体長およそ1mのツキノワグマが侵入
まだ小さい・若いクマの場合、母グマと何らかの理由で別れてしまったことで、冬眠ができなかったのではないかと推察されます。
一度も冬を越したことのない小グマが、いくら自然のメカニズムだからといっても自発的に冬眠できるとは思えませんよね。
やはり母グマに越冬の仕方を教わることでスムーズな冬眠につながるはずです。
しかし、たとえばクマの親子を捕獲した場合、子どもの方は逃がされる確率が高いといいます。
逃がされた小グマは、それまで頼りにしていた母グマがいなくなることで、自分でエサを取ったり棲み処を見つけたりして生きていかねばなりません。
このような場合、間違えて人里に降りてきてしまっても、人間に非がないとは言い切れないのではないでしょうか。
民家や耕作放棄地に出没するクマ
民家や畑に侵入して、木に登って柿を食べるようなクマも複数みられました。
エサが不足すると、放置された山林や耕作放棄地を伝って、山からクマが降りてくることがあります。
庭先に植えてある柿や栗は、クマにとってご馳走となるわけです。
このような被害を防ぐには、
- 空き家や使用していない畑の果樹は切る
- 庭先になった果樹の実はいつまでも放置せず、時期が来たら速やかに収穫する
などの対策が必要です。
人間の側から、クマを呼び寄せない工夫を行う必要があります。
【対策】ヒートマップを確認しましょう
ヒートマップとは、直近90日間のクマの目撃情報を地図上で確認できるようにしたものです。
ヒートマップを確認しておくことで、不用意にクマの生息域に侵入しないようにきをつけることが可能になり、被害を未然に防ぐことができます。
ヒートマップはこちらで確認できます。
また、被害数が他県に比べて比較的多い秋田県は独自にクマの出没情報をまとめており、こちらのサイトで確認可能です。
冬眠のメリット

冬眠は、外気温に合わせて体温が変化する変温動物や、一部の哺乳類に認められる行動です。
世界ではすべての哺乳類の5.7%、日本に生息する哺乳類の33%が冬眠して冬を越します。
冬眠は、究極の省エネです。
冬眠することで、以下のようなメリットを得られます。
- 寿命が延びる
-
冬眠すると、普段37℃前後を保っている体温を、クマでは30℃付近、リスなどでは0℃付近の低体温まで強制的に下げることになります。
体温が下がることで代謝も低下して、熱を作ることを最低限に抑えるのです。
- 放射線の影響を受けない
-
冬眠中、致死量の放射線を浴びても、発がん性物質を与えても強い耐性を示すことがわかっています。
- 感染症に抵抗力を持つ
-
体内に真菌を投与しても、感染症を引き起こさないことがわかっています。
- 身体の機能に変化がない
-
通常、身体は長期間運動していないと筋肉が萎縮したり骨がもろくなったりするものです。
しかし、冬眠前と冬眠から覚めたあとで、これらの機能に何の問題もないことがわかっています。
参照:J-STAGE|蘇生|人工冬眠の可能性
これらの冬眠のメリットをうまく利用できないかと、人工冬眠の研究が進められています。
これまで、仮死状態からすぐに復活して活動できる冬眠のメカニズムはよくわかっていませんでしたが、近年「冬眠特異的タンパク質(HP)」が発見されました。
HPの働きによって、低体温・仮死状態になっても臓器や身体の組織に影響を与えず、春が来ると冬眠以前の活動ができると考えられています。
HPの研究が進められることで、医療において冬眠を活用できる可能性が高まったのです。
日本の冬眠する動物
続いて、日本で生息する動物の中で、冬眠するものをいくつかご紹介しましょう。
ニホンヤマネ

日本の固有種であるヤマネは、冬眠期間がおよそ半年近くもある動物です。
10cmにも満たない小さな身体のヤマネは、外気温に合わせて体温を下げ、仮死状態に近いかたちで冬を越します。
寒い時期には0℃付近まで体温を下げます。
しかし、外気温が氷点下をずっと下回る場合には、そのまま体温を下げ続けるとヤマネ自身が死んでしまう可能性があるため、そのような場合は自ら体温を上げて目を覚ますのも、ヤマネの冬眠の特徴です。
冬の間ずっと眠り続けるわけではなく、数週間に一度目を覚ましますが、その際に食事をするわけではありません。
また、ヤマネは寝るときには体温を下げる特性があり、夏場でも外気温に合わせて体温を下げて眠ります。
エゾシマリス

じつは、リスの中でも冬眠するのはシマリスの一部の種類だけで、日本では、北海道に生息するエゾシマリスが該当します。
冬眠期間は10月頃から翌年の4月頃までです。
北海道の寒い時期は長いため、エゾシマリスの冬眠期間も必然的に長くなってしまうのです。
シマリスの冬眠は、数日間の冬眠のあと一日程度起きてエサを食べてまた眠るというパターンを繰り返します。
体温は約3℃~10℃にまで落とし、呼吸数も低下させて、ヤマネのように仮死状態になります。
クマ

クマの冬眠は、ヤマネやリスといった小動物とは少し異なります。
基本的には一度冬眠に入ると、浅い眠りを継続して、春まで目を覚ますことはありません。
しかし、大きな音や振動などで目を覚ますことはあるようです。
体温は30℃前後をキープして、食事や排泄は冬眠の間ストップします。
クマは冬眠に入るまでに脂肪を蓄えて体重をおよそ30%も増やして、春の目覚めに備えます。
ちなみにクマは、冬眠中の1月~2月に出産する動物です。
出産したあとも母グマは冬眠を続けますが、その間赤ちゃんグマは母乳を飲んで大きくなります。
あえて冬眠中に出産するのは、外敵のリスクから赤ちゃんグマを守るためなのです。
コウモリ

コウモリは、11月の半ば~3月頃まで冬眠します。
これは、コウモリの主食となる昆虫が寒い冬には地中に潜ってしまうため、エサが不足することに由来すると考えられています。
コウモリもヤマネやシマリスと同じように、体温をぐっと下げて呼吸数も低下させ、仮死状態になって越冬するスタイルです。
意外?冬眠しない動物

動物は、じつは冬眠しないものの方が圧倒的に多く、それぞれ秋の間にしっかりとエネルギーを蓄えて、厳しい冬に臨みます。
ヤマネやリスと同じげっ歯類のウサギは、冬眠せずに冬を越します。
ウサギは寒さに強い生き物で、冬の間もエサを探して駆け回り、雪を掘ってその下に生えている草を食べたり、やわらかい木の皮を食べたりすることで越冬するのです。
また、鳥類は哺乳類ではないため、冬眠しません。
種類によっては暖かい地方へ移動したり、スズメやカラスなどは人里近くでエサを探したりして冬を越します。
本当に必要?ペットの冬眠

ペットのなかには、野生であれば冬眠して冬を越す動物もいます。
しかし、飼育する場合は必ずしも冬眠させるべきではありません。
冬眠させることで寿命が短くなる可能性や、不適切な冬眠によって餓死してしまう可能性があるのです。
野生下で冬眠するペットの一例をご紹介します。
ゴールデンハムスター

ゴールデンハムスターは、気温が下がると冬眠する生き物です。
シマリスと同じように、数日の間仮死状態になり、その後目を覚ましてエサを食べ、また体温を下げて仮死状態に戻ります。
野生の状態であれば、冬に向けて少しずつ冬眠の準備を行いますが、飼育している場合は冬眠させる必要はありません。
注意しなければならないのは、冬眠とは異なる「擬似冬眠」です。
これは、冬眠の準備がままならないうちに急激に気温が下がることでいわゆる「低体温症」に陥っている状態です。
疑似冬眠は、放っておくと命にかかわる状態であるため、なるべく早く目覚めさせる必要があります。
室温を上げて、ハムスターをタオルなどにくるんで両手で包み、やさしくさすりながら起こします。
カメやトカゲ

変温動物であるカメやトカゲも、外気温が低下すると冬眠する動物です。
しかし、飼育下では、うまく冬眠できないとそのまま命を落としてしまう可能性があります。
そのため、飼育している場合は無理に冬眠させない方がよいでしょう。
また、小さな個体や高齢の個体も、冬眠によって体力が奪われてしまう可能性が高くなるため、冬眠させない方がよいとされています。
冬眠させる場合は、夏の間にしっかりエサを食べさせて体力をつけておきます。
カメやトカゲに適切な寝床を用意し、冬眠前には消化不良を起こさないためにエサをストップすることが必要です。
まとめ

今回は、冬眠と、冬眠が妨げられた場合に起きた事件を中心に、問題点や対策を探りました。
厳しい自然環境で冬を越す動物たちにとって、冬眠はとても重要な行為です。
特にクマがスムーズに冬眠できることは、人間への被害を減少させることにも役立ちます。
自然環境の適切な管理や、自衛のために敷地内にある作物を管理することで、未然に防げる被害があります。
人間の独りよがりにならず、動物たち全体が自然のサイクルの中でうまく暮らしていける世の中を維持したいものです。
また通常、動物が低体温症や仮死状態になれば、目覚めたあとの機能をそのまま維持することは難しいのです。
脳や筋肉、臓器に、何かしらの障害が残ることが多くあります。
しかし、冬眠はそうはならず、目覚めたあともそれまで通りの身体の機能を維持することができます。
冬眠についてもっとよく知ることで、医療に応用できる可能性が増えていくでしょう。
動物たちのため、医療のために、ぜひ冬眠についてご自身でも調べてみてください。