動物愛護から考える乗馬の重要性と私たちにできること

向かい合う女性と馬
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乗馬は、人馬一体となって取り組めるスポーツです。

長きにわたる歴史を持ち、多くの方から愛されているスポーツの一つといえるでしょう。

しかし、中には「馬を走らせるのに蹴ったり鞭でたたいたりしてかわいそう」「馬をケガする可能性のあるスポーツに参加させるなんて野蛮だ」という声も聞かれます。

果たして、乗馬は人間のエゴで成り立っているスポーツなのでしょうか。

今回は、動物愛護の視点から、乗馬について考察していきたいと思います。

目次

乗馬は動物愛護にかなったスポーツ

乗馬を楽しむ少女

乗馬で活躍する馬を増やすことは、日本における動物愛護に役立ちます。

日本での乗馬用の馬の多くは、競馬を引退したサラブレッドたちです。

競馬を引退したサラブレッドは、以下のような進路のいずれかをたどります。

  • 繁殖用として利用(おもに成績優秀馬)
  • 乗馬に転向
  • 養育牧場で余生を過ごす
  • 食肉として肥育牧場に送られる

使用価値がないと判断されると、多くの馬は食肉用として肥育牧場に送られてしまいます。

乗馬用として馬を転向することで、第二の馬生を送ってもらうことができるのです。

競走馬の人生

毎年、多くの馬が競馬用として生産され、ほとんどの馬は2~3歳でデビューします。

その後のスケジュールはタイトで、中央競馬では3歳の秋までに1勝でもしないと、その後も活躍することは難しく、最初の進路転換を迫られるのです。

地方競馬に移るか、障害馬に転向するか、もしくは引退のいずれかです。

中央競馬で活躍できた場合も、多くは5~6歳で引退し、次の馬生を歩みはじめます。

ちなみに、中央競馬での出走最高齢は、オースミレパードの16歳ですが、これは非常にまれなケースです。

乗馬として飼育される馬の数はどれくらい?

2022年度の、日本で飼育されているサラブレッドの数は以下のとおりです。

  • 競馬用の繁殖場として飼育 10769頭
  • 競馬用に生産 7782頭
  • 競馬用に育成(1歳馬) 7353頭
  • 競馬で活躍中 21458頭

また、生まれたときから乗馬用として育成されている馬は297頭です。

乗馬用として使用されている頭数は8667頭で、国内の乗馬施設数は290棟と、決して多くはありません。

参照:農林水産省|馬をめぐる情勢(2022年のデータ)

少しデータが古くなりますが、食肉としてと殺された馬の数は、2004年では19267頭(うち自給率34.6%、5148頭が輸入)でした。

参照:農林水産省|Ⅴ 馬

これらのデータから、競走馬として生まれてきて、その後乗馬用として転向できる馬の数が限られていること、多くの馬が食用という道をたどることがわかります。

競走馬を引退した馬に少しでも長く安定した余生を送ってもらう方法が、乗馬への転向なのです。

乗馬への転向は、馬の動物愛護の観点から、理にかなった方法の一つといえるでしょう。

時代とともに駆け抜ける競走馬たちの生き方(一生や引退後など) | Animal Compassion

乗馬の虐待について

こちらを見る馬

乗馬では、馬を人と同等の選手として扱うため、虐待にあたる行為を厳しく取り締まっています

しかし、中にはなかなか指示に従ってくれない馬もおり、そのような場合にはつい力が入った指示を与えることもあるでしょう。

また、競技大会の会場は、臆病な馬にとっては刺激が大きく、興奮しがちです。

いつもは指示に従ってくれるのに、急に動かなくなって、手に負えなくなることもあります。

馬も生き物ですから、体調が悪くて動きが悪くなる時もあります。

そのような場合には、馬に無理をさせないことも大切なのではないでしょうか。

馬を扱うにあたっては、人が心に余裕を持つことこそ重要といえるでしょう。

ヨーロッパでは、馬に対する虐待はほかのエリアよりも特に厳しく、以下でご紹介する近代五種とポニー乗馬が規制されることになりました。

オリンピックで近代五種がなくなる理由

近代五種は、1912年のストックホルム大会から採用されていましたが、2024年のパリオリンピックを最後にオリンピック競技から外されることとなりました。

近代五種とは、フェンシング・水泳・馬術・射撃・ランニングの五つの協議の合計点を競う種目です。

近代五種の馬術の特徴は、パートナー馬は抽選で選ばれるため、直前まで相性がわからないことにあります。

抽選は競技1時間前に実施され、試乗は約20分間です。

試乗の間にうまく馬の性格や癖などを見抜けなければ、本番で乗りこなすことは困難といえるでしょう。

きっかけは東京オリンピック

今回、近代五種がオリンピックから外れることになったのは、東京五輪がきっかけです。

近代五種のある女性選手が、馬術において馬を動かすことができず、泣きながら鞭でたたいたり、またコーチが馬のお尻などを殴ったりという場面がみられ、多くの批判を呼びました。

道具を使って無理矢理動かそうとしたために、特に動物愛護に厳しい欧州から、虐待とみなされてしまったのです。

初対面の馬をうまく操れるかどうかも選手の力量であり、近代五種の馬術の醍醐味でもあります。

実際に、パリオリンピックで銀メダルを獲得した日本の佐藤大宗選手は、馬術において同条件で減点なしの300点満点を獲得しています。

パリで禁止されるポニー乗馬

パリでは、近年動物福祉の観点から小鳥市や蛇のショーなどが禁止されました。

そして、2025年からパリ市内の公園でのポニー乗馬が禁止されることが決まっています。

ポニー乗馬とは、パリ市内のいくつかの公園で週末実施されている、子どもを対象とした乗馬体験です。

ポニー乗馬については、数年前から議論が繰り返されてきました。

存続にあたり、議題となっていたのは以下の項目です。

  • ポニーが毎週末、ポニー乗馬のために往復数時間かけてやってくること
  • 公園内では屋根がなく、常に炎天下にさらされること
  • 休憩時間もロープにつながれたままで、自由がないこと

ポニーと触れ合うことによる体験自体には評価があるため、今後は乗馬ではなく、ポニーが公園に滞在する条件を整え、ふれあいを大切にした形へと変化するようです。

動物愛護と虐待は紙一重

馬にとって、乗馬が動物愛護なのか、それとも虐待にあたるのかは、扱う人次第で紙一重です。

鞭の当て方、脚での指示の出し方をとっても、馬にとって適切な力加減でなければ、それは虐待にあたるでしょう。

馬の扱いが上手な人ほど、少ない指示で馬を動かすことができます。

馬を大切に扱うためにも、人が馬に指示を出す技術の向上は欠かせないのです。

また、人に乗馬の楽しさを教えてくれる馬の生活環境を整えることも重要です。

一方的な利益にならないよう、乗せてくれる馬への敬意を忘れなければ、馬にとっての快適な環境を整えることも、難しくないのではないでしょうか。

日本社会人団体馬術連盟では、競技に参加するにあたり、馬も人も健康な状態で参加すること馬のウェルフェア(福祉)に反する関係者の行動はいずれの場合も認めないことを明記しています。

そのため、妊娠中やケガ・病気の馬は、もちろん競技に参加できません。

馬が引退するときにも、その後の余生を考えた対処を行うよう、最善の努力を行うことも記載しています。

乗馬は動物と一体になって取り組める唯一無二のスポーツ!

乗馬を楽しむ人々

乗馬の魅力といえば、人馬一体となって取り組めることです。

国際大会などを見ていると、乗り手は馬上で微動だにせず、「いつ指示を出したのだろう?」「馬が自分の意志で動いているのか?」と疑問に思うくらい自然な動きをされています。

実際には乗り手は馬上で指示を出しているのですが、ごく少ない動きで馬が的確に反応してくれるため、周りからは何もしていないように見えます。

もちろん、ここまで到達するには相当の技術が必要ですが、乗り手と馬がお互いに信頼することで、このようなパフォーマンスが可能になるのです。

乗馬は馬もメダルをもらえる!

並べられているメダル

乗馬(馬術競技)は、馬と人を対等に選手として扱う、まれなスポーツです。

大会では馬とともに入場し、入賞すれば人間だけでなく馬もメダルをもらえます。

このメダルはリボンを重ねて作られたもので「ロゼット」といい、ロゼットはフランス語で「小さなバラ」という意味です。

表彰時は、頭絡という馬の頭に装着する馬具の、左耳の下辺り、もしくは胸元にメダルを装着することが多くみられます。

ロゼットは順位によって色が決まっており、日本での色による順位の表示は以下のとおりです。

順位ロゼットの色
1位
2位
3位
4位
5位ピンク
6位

また、国際大会での馬の装備には、国旗がプリント・刺繍されていることが多くみられます。

乗り手の制服にも国旗が掲げられていますので、パートナー馬と一緒に自国を背負って出場することができます。

細かな部分で、馬と人を同等に扱っていることがわかりますね。

馬と心を通わせるコツ

乗馬をするにあたって大切なことは、馬を力づくでコントロールしようとしないことです。

大きさからわかるとおり、人は馬には力では勝てません。

馬の身体の仕組みや馬具をうまく利用することで、馬はスムーズに動いてくれるようになります。

そのために、馬のことを知るのはとても大切です。

また、馬も人間と同様に個性があります。

馬の個性にあった触れ合い方や指示の出し方をすることで、より馬から信頼されるようになるのです。

馬に挨拶をしましょう

馬はとても賢い動物で、よく会う人を認識しています。

馬に会うときは、人と会うときのようにまずは挨拶をかわしましょう。

手の甲をそっと馬の鼻先に差し出してください。

馬は、においで出会った生き物を認識しています。

馬同士も、お互い鼻を近づけてにおいをかぐことで挨拶しています。

馬と人の間でも、コミュニケーションは挨拶がスタートです。

名前を呼びながら、そっと手を差し出してあげましょう。

乗馬の調教はどうやるの?

乗馬用に馬を調教するには、少しずつ環境に慣れさせていきます。

並歩(なみあし)、速歩(はやあし)、駈歩(かけあし)の三通りの歩様を指示に従って適度に使いこなせるように教えます。

まずは馬だけでサークルを指示に従って動かし、慣れてくると人を乗せた調教の開始です。

主従関係をはっきりさせることは大切

乗馬において大切なことは、馬も人も安全性を保ってスポーツができることです。

そのために、馬には人との主従関係を理解してもらう必要があります。

主従関係というと、強制的に指示に従わせるというイメージを抱かれるかもしれませんが、実際はそうではありません。

乗り手の指示に従うことを覚えてもらうことで、お互いに信頼感が生まれます。

何か異変が起こったときに、信頼できる人がそばにいると、とても心強く感じます。

それと同じで、馬がパニックになったときでも、主従関係がうまく構築されていることで、大きな事故やケガを防ぐことにつながるのです。

乗るだけが調教ではない

乗馬の調教は、乗るだけではなく、普段のお世話やふれあい、すべてが調教につながっています。

お世話やふれあいを通して馬と信頼関係を築くことで主従関係が結ばれていき、うまく指示に従ってくれるようになるのです。

馬は身体が大きい分だけお世話も大変ですが、馬とのコミュニケーションを楽しむ気持ちで取り組んでみてください。

リトレーニングは大変?

競走馬として走っていた馬を乗馬に転向させる場合には、全力で走らなくていいことを覚えてもらわなければなりません。

どのような人でも落ち着いた状態で乗せられるようになるには、停止・減速がスムーズにできることが重要です。

停止・減速は、早く走ることが目的である競馬ではほとんど必要ない動きでした。

それを覚えてもらうために、やはりはじめは根気強く取り組まねばなりません。

停止や減速ができたら、今度は小さく動く練習です。

乗馬の馬場は、競馬の馬場よりも小さく、動きも複雑です。

馬場を斜めに進入して方向を変えたり、指示に沿った円を描いたりします。

場合によっては障害も飛べるようにならなければなりません。

馬にとって、覚えることが山のようにあります。

一頭での調教が終わったら、前を走る馬を追い越さず、一列に並んで進むことも覚えなければなりません。

競馬と乗馬は、それまでとは真逆の動きをしなければならないため、慣れるまでは馬も人も大変です。

しかし、乗馬の動きを徐々に覚えて誰でも乗せられるようになると、馬の成長を感じられ、達成感で一杯になります。

日本で馬が幸せに生きるためにできること

のびのび暮らす馬の親子

日本で馬が幸せに寿命を全うするには、競馬から乗馬に転向する際の受け入れ先を増やすことが重要です。

乗馬だけでなく、お祭りなどでも馬が必要とされる場が日本には多くあります。

そのような場で、馬が継続的に活躍できるための支援を整えていくことも大切です。

馬の余生は長い

飼育下での馬の平均寿命は25歳前後です。

日本では、ほとんどの馬が競走馬として生まれます。

競走馬として活躍できる期間は数年で、馬生の中では12~15%程度と非常に短いにもかかわらず、その間に多くの馬の進路が決まってしまうのです。

以前に比べると、引退場を支援する動きが活発化しており、リトレーニング施設や保養施設の数も増え、個人で引き取られる方も増えてきています。

しかし、馬の飼育には専門知識と体力、そして費用が掛かるため、一度に多くの馬を助けるには、ハードルが高いのも事実です。

より多くの方が乗馬などを通じて馬と触れ合うことで、馬の動物愛護に対する意識を改革していくことが重要だといえるでしょう。

保養施設を支援するには

馬の保養施設を支援するには、以下の方法があります。

  • クラウドファンディング
  • ふるさと納税
  • 寄付
  • イベントに参加する など

施設によって支援を募る形態は異なりますが、おもにこれらの方法で施設を応援することが可能です。

クラウドファンディングはいつでも行っているわけではないので、支援したい場合には、気になる施設の情報をこまめにチェックしましょう。

クラウドファンディングサイト CAMPFIRE

さとふる

ふるなび

さいごに

乗馬を楽しむためには、馬の存在が不可欠です。

そのことを忘れず、馬と信頼関係を築きながら、乗馬というスポーツに取り組みたいですね。

良識ある乗馬が広まることは、馬が幸せな馬生を送るためにも理にかなっています。

一頭でも多くの馬が幸せに暮らせるよう、できることからサポートしてみませんか。

【免責事項】Animal Compassionではできるだけ正確な情報提供を心がけていますがご利用者様による正当性の確認をお願いいたします。また医療に関する助言を提供することはございませんので、最終的な判断は適切な医療従事者に個別の状況を確認してもらった上で行うようにお願いいたします。

向かい合う女性と馬

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この記事を書いた人

子どもの頃から動物がそばにいるのが当たり前の環境で育ちました。
大学では家畜の機能形態学・病理学を専攻し、また馬術部に入部し、長年夢だった乗馬を始めることができました。
社会人になった現在も乗馬は継続中です。
大型犬と小鳥と一緒に生活しています。

ペット医療を中心としたジャンルでライティング活動をしています。
こちらのWEBサイトでの活動を通じ、動物と人間がよりよい関係を築くためのお手伝いができれば幸いです。

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