日本では、現在も年間約22,000頭の犬が保健所に収容され、そのうち約1割にあたる約2,400頭が殺処分されています。
保健所に収容される理由はさまざまですが、この世に生を受けてきた犬たちが、人間の都合で殺処分されている状況は、改善する必要があります。
近年では、NPOやボランティア団体の活動によって、殺処分0を達成する県も増えてきました。
不幸な犬を1頭でも救うために、私たち一人一人ができることはないのでしょうか。
今回は、2024年現在における殺処分の現状と、私たちができることについてお話ししていきます。
殺処分の現状
不幸な犬を救うためにできることの第一歩は、現状をしっかりと知ることです。
2023年度の犬の保健所への引き取りと殺処分の状況はどのくらいだったのでしょうか。
最新の資料を確認しながら、保健所に収容される犬の数、殺処分されている犬の数を見ていきましょう。
2023年度に保健所に収容された犬の頭数
2023年度に保健所に収容された犬の数は22,392頭でした。
これは、一日あたり約61頭の犬が収容されていることになります。
なんとそのうち、飼い主から保健所に引き取りを希望される犬は2,576頭もいます(うち184頭は離乳していない幼犬)。
一日あたり7頭の犬が、飼い主によって保健所に引き取られているのです。
皆さんはこの数を、多いと捉えるでしょうか、それとも少ないと捉えるでしょうか。(参照:環境省|犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況)
保護犬の滞在期間
保健所に収容された保護犬の滞在期間は原則として7日間です。
これは全国共通の期間で、この7日間という短い期間に引き取り手が見つからない場合は、殺処分とされてしまいます。
保健所から処分される犬の割合
続いて、保健所から処分された犬の割合を見ていきましょう。
処分の方法は、返還、譲渡、殺処分の3つに分けられます。
2024年度の全国の保健所での各処分の頭数とその割合は、以下のとおりです。
処分方法 | 頭数 | 割合 |
返還 | 7,947頭 | 約35% |
譲渡 | 11,711頭 | 約52% |
殺処分 | 2,434頭 | 約10% |
返還とは、保健所に収容されたのち、飼い主が判明して引き取られることです。
迷子犬が保護され、無事におうちに帰宅できた割合を示します。
譲渡とは、保護された犬が新しい飼い主、一時的な保護施設へと移動することです。
およそ半分が、譲渡によって保護されています。
そして、殺処分は、保護犬の処分の割合の約10%を占めています。
殺処分された犬のうち、166頭は負傷した状態で引き取られた犬たちです(負傷して引き取られた犬は524頭)。
収容された数と殺処分された頭数の割合から、ケガを負った状態だと、その後の返還・譲渡といった保護自体が難しくなることがわかります。
保健所で扱われる犬の数の変遷
保健所で引き取られ、その後処分される犬の数自体は、年々減少傾向にあります。
年度 | 収容された数 | 殺処分された数 |
2004年度 | 181,867頭 | 155,870頭 |
2009年度 | 93,807頭 | 64,061頭 |
2015年度 | 46,649頭 | 15,811頭 |
2023年度 | 22,392頭 | 2,434頭 |
表を見ると、ここ20年ほどで15%程度にまで引き取り数が減少しているのがわかります。
殺処分の数も減っており、殺処分0を目指して活動されている方々の、たゆまぬ努力の証といえるでしょう。
しかし、我々はこの殺処分の数を0にできるまで諦めることなく、一人一人ができることを模索していく必要があります。
都道府県別の状況
2023年度に殺処分0を達成することができた都道府県はどれくらいあるのでしょうか。
殺処分0を達成した都道府県は全部で8県でした。
2023年度に犬の殺処分0を達成した都道府県は、以下のとおりです(殺処分合計数から引き取り後の死亡を引いて算出)。
- 山形県
- 茨城県
- 神奈川県
- 静岡県
- 石川県
- 福井県
- 岡山県
- 高知県
逆に、10頭以上の殺処分が実施された都道府県は、以下のとおりです(殺処分合計数から引き取り後の死亡を引いて算出)。
都道府県名 | 殺処分数 |
青森県 | 31頭 |
岩手県 | 12頭 |
秋田県 | 29頭 |
福島県 | 56頭 |
栃木県 | 45頭 |
千葉県 | 95頭 |
岐阜県 | 31頭 |
愛知県 | 142頭 |
滋賀県 | 52頭 |
大阪府 | 18頭 |
兵庫県 | 44頭 |
奈良県 | 29頭 |
和歌山県 | 42頭 |
広島県 | 38頭 |
山口県 | 10頭 |
徳島県 | 231頭 |
香川県 | 199頭 |
愛媛県 | 146頭 |
福岡県 | 23頭 |
長崎県 | 206頭 |
熊本県 | 63頭 |
大分県 | 66頭 |
宮崎県 | 28頭 |
鹿児島県 | 36頭 |
四国の3県は、150~200頭前後が殺処分されていました(引き取り後の死亡を除く)。
いまだに他県と比較して殺処分の数が多いのは事実ですが、四国の3県は県をあげて殺処分数を減らす取り組みを行っています。
その結果、2019年度には3県で1861頭だった殺処分の数が、2024年度には839頭にまで減少しました。
引き続き、殺処分0に向かって取り組みが続くことを願ってやみません。(参照:環境省|犬・猫の引き取り及び処分の状況〈都道府県・指定都市・中核市別〉)
統計からわかること
統計を見ていると、自然が豊かな都道府県は、殺処分の数が多いことがわかります。
自然が豊かなことで、野犬の数も多いのでしょう。
無責任な飼い主が山に遺棄する例も多く、見かねた人たちがそれにエサをやることで野犬が増えていくという悪循環も、野犬が増える原因として考えられます。
不幸な犬を増やさないために、まずは飼い主が責任をもって犬の面倒をみることが大切です。
どこから犬を引き取ることができるのか
続いて、収容された犬を引き取りたい場合、どうすればよいのかを見ていきましょう。
保健所に収容・保護された犬を引き取りたい場合、どこを訪ねればよいのでしょうか。
保護犬を引き取るには、次の3つの方法があります。
- 保健所で引き取る
- 譲渡会に参加する
- 里親募集サイトで引き取る
それぞれの方法を詳しく見ていきましょう
保健所で引き取る
保健所に収容された犬の譲渡は、保護団体に委託していることが多く、保健所で直接引き取るという方法は、都道府県によっては推奨されていない場合があります。
委託先の団体で保護されている犬は、多少の訓練によって譲渡可能と判断されている犬がほとんどです。
保健所から直接引き取る場合、病気やケガ、または犬の性格から譲渡が困難とされた犬である可能性も高く、気軽な気持ちで引き取ることはできません。
犬の飼育に関してある程度の知識・経験があり、引き取った犬の生涯に責任を持つという強い覚悟をもつ方に適した方法といえます。
譲渡会に参加する
これから保護犬を飼いたいという方にとって、一番手軽な方法が譲渡会への参加です。
譲渡会では、直接犬と触れ合うことができるため、相性の確認をしやすいのが特徴です。
また、実際にその犬のお世話をしている方ともお話しができるため、犬の性格や性質をつかみやすくなります。とはいえ、その場で全てがわかるとは思い込まずに、丁寧に検討することが重要です。
譲渡会の情報は、インターネットで「譲渡会 該当する都道府県名」で検索することが可能です。
また、環境省の譲渡会等のお知らせから、該当する都道府県の譲渡会を検索できます。
里親募集サイトで引き取る
インターネットの里親募集サイトで、迎え入れたい犬を探して問い合わせることも可能です。
譲渡会では、その場に参加している犬から相性を見定めていきますが、里親募集サイトではあらかじめ犬の情報が掲載されているため、飼いたいと思った犬を見つけやすいのが特徴です。
里親募集サイトや募集を行っている団体をいくつかご紹介します。
ご自身の飼育経験やスケジュールに合わせて、適切な方法で新しい家族を見つけましょう。
すべての犬が譲渡可能なわけではない
保健所に収容される犬には、いくつかの種類に分類することができます。
まずは、飼い主がいる(いた)犬か、そうでない野犬かに分類します。
次に、人慣れしているかしていないか、そして、健康かそうでないかです。
飼い主がいる(いた)犬について見ていきましょう。
例えば迷子の犬は、飼い主のもとに無事に戻ることができればそれが一番の方法です。
保健所に飼い主から持ち込まれる場合に考えられる原因は、住まいの問題、しつけの問題、そして人間のモラルの問題などです。
引っ越しで飼うことができなくなったり、飼い主が亡くなったりして飼うことができなくなることは、現実問題としてあると思われます。
このような場合は、犬は人慣れしている場合が多く、譲渡の条件に合いやすいといえるでしょう。
また、予想以上に大きくなってしまった、子どもをたくさん産んで育てることができないといった、事前に予測・予防できた事態の引き取りもあります。
また、飼っている犬が病気になり飼育できなくなったというケースもみられます。
飼い主の飼育放棄による場合、十分にしつけができておらず、また健康状態も悪いことが多いため、すぐに譲渡に出すことはできません。
場合によっては、噛みついたり暴れたりして人に危害を与えると判断され、殺処分の対象となるのです。
ケガや健康状態が悪く、その後の回復が見込めない場合も、譲渡の対象外とされてしまうことがあります。
保健所に引き取られた犬がその後簡単に譲渡されるものではなく、関わる人の努力によって譲渡が成り立っていることを覚えておいてください。
どのような手順で引き取りが行われるのか
それでは、実際に保健所や譲渡会で犬を引き取るには、どのような手順が踏まれるのかを確認していきましょう。
引き取るにあたって確認すべきこと
保健所や保護団体から犬を引き取る場合、いくつかの条件をクリアする必要があります。
保健所から引き取る場合
細かい条件は各自治体により異なりますが、多くの自治体で共通するのは、概ね以下の内容です。
- 譲渡を希望する自治体がある地域に住んでいること
- 年齢が60歳もしくは65歳以上の場合は、飼育できなくなった場合に飼育を頼める人を立てられること
- 犬を飼育するための経済力があること
- 引き取りにおける責任者が成人であること
- 犬を飼育できなくなった場合、預け先を確保できていること
- 避妊・去勢手術などにより、望まない犬の妊娠を避けるための措置ができること
- ペット飼育が可能な住居に住んでいること
犬を飼うということは、その犬の命を預かることであり、その覚悟なく行ってよい行為ではありません。
上記の条件も、引き取りにおける条件というよりも、犬を飼育するために最低限の必須条件といえるでしょう。
これらの条件が難しいと考えるならば、譲渡はおろか、犬を飼育すること自体が難しいといえます。
譲渡会(保護団体)から引き取る場合
譲渡会を利用して犬を引き取りたい場合には、以下のような、保健所よりもさらに厳しい条件が加わる場合が多くあります。
- 一人暮らしでないこと
- 中学生以下の子どもがいないこと
- 完全室内飼いができること
- 先住犬がいる場合、先住犬が避妊・去勢手術済であること
譲渡会を運営する団体は、不幸な犬を増やすまいという強い意志を持った方々により運営されています。
殺処分から犬を救い、人に譲渡できるまでの状態にするには、相当な根気が必要です。
犬を二度と不幸な目にあわせないため、犬も人も幸せになるために、厳しい条件が課されているのです。
そのほかに気を付けること
その他にも飼育することで気をつけなければならないのは、以下のような内容です。
- 仕事などで犬を長時間放置しないか
- 犬が病気になったとき、ケガで動けなくなったときに面倒をみることができるか
- 病気になったときに費用が掛かることを理解しているか
- 散歩やしつけに時間を割けるか
犬は所有物ではなく生き物だということをしっかりと理解し、飼育するうえではお金も時間も必要だということを、覚えておきましょう。
引き取りの際の料金は?
犬を引き取る際に、料金は必要なのでしょうか。
保健所の場合、保護団体からの場合と、それぞれみていきましょう。
保健所の場合
保健所で犬を引き取る場合には、多くの自治体では引き取り自体は無料で、登録や契約にかかる事務手数料のみ必要な場合が多いです。
しかし、引き取ったあとに狂犬病や混合ワクチンなどの予防接種が必要になること、また避妊・去勢手術を受けさせる必要があるため、引き取り後にこれらの費用がかかることが考えられます。
都道府県によっては、避妊・去勢手術に補助金が出る場合がありますので、引き取りの際に確認しておきましょう。
保護団体の場合
保護団体から犬を譲渡する場合は、1~5万円程度と幅がありますが、一般的には寄付が必要です。
寄付が必要であることには理由があります。
保健所は税金によって運営されていますが、多くの保護団体はボランティアや寄付により成り立っています。
犬を次の飼い主が見つかるまで飼育することには、当然ながらお金が必要です。
毎日の餌代、ワクチン代、病気になったときの薬代、避妊・去勢手術費用、住居費用など、決して安価なものではありません。
行政から補助金が出ているわけではありませんから、これらをまかなっていくにはお金を集めなければならないのです。
保護団体から譲渡される場合は、それまでお世話をしてくれた感謝の意をもって、快く寄付金をお渡ししましょう。
引き取り以外にかかる費用
犬を引き取る際には、保健所での事務手数料や保護団体への寄付金以外にも、おうちでお迎えするにあたり、用品をそろえる費用、上述した各種ワクチン費用、避妊・去勢手術費用などが最初に必要です。
また、飼育するにあたり、毎月の餌代や犬種によってはトリミング費用、保険代などがかかります。
犬を飼育するのに必要な費用の総額の平均は250万円〜510万円ほどとされています。
費用の面からも、安易な飼育は行わないように気をつけましょう。
引き取る際の手順は?
保健所や保護団体から犬を引き取る際には、いくつかの手順を踏まなければなりません。
それぞれの手順を見ていきましょう。
保健所から引き取る場合の手順
多くの保健所で共通して行われる手順は、以下のものがあります。
- 講習
-
犬の飼育にあたり、基本的な知識を習得するための講習です。
1回の講習は1~2時間程度で、受講回数は自治体により異なります。
- 視察
-
飼育環境が適しているかどうか、譲渡前に実際に職員の方が視察を行います。
- トライアル
-
1~2週間、お試しでおうちで一緒に生活をし、問題ないと判断された場合には引き取ることが可能です。
トライアルは保護団体からの譲渡の場合にも利用できる場合がほとんどです。
- 譲渡の申請
-
引き取りたい犬が見つかったら譲渡の申請を行い、誓約書を記入して受理されれば譲渡が完了します。
その他にも、自治体によっては面談をする場合もあります。
保健所からの引き取りの詳細な手順については、居住する自治体へとお問い合わせください。
保護団体から引き取る場合の手順
保護団体や譲渡会を利用して犬を引き取る場合の手順は、概ね以下のとおりです。
- 譲渡会に参加する
- 引き取りを希望する犬が見つかったら里親申請をする(アンケート)
- アンケートの内容をもとに、団体スタッフと面談・交渉をする
- トライアルの実施
- トライアルを終え、問題なければ譲渡の手続きに移る
- 譲渡後の追跡調査
保健所からの引き取りと大きく異なる点は、譲渡後の追跡調査を受けることです。
譲渡先で、犬がしっかり飼育されているかどうかの確認が行われ、万が一不適切と判断された場合には返還しなければならない場合もあります。
厳しいようではありますが、保護団体は常に犬の幸せを考えて活動されているのです。
私たちができること
今回は、殺処分の現状と、保護された犬を引き取るにはどうすればよいかを中心にお話しさせていただきました。
保護犬を引き取るということは、ペットショップやブリーダーから犬を購入する以上にハードルが高く、殺処分がかわいそうだから、ただ犬を飼いたいからという安易な気持ちでは行えません。
収容という、つらく恐ろしい経験をしている犬だからこそ、本気で幸せにしたい、生涯を守り抜くという覚悟をもって引き取る意思が必要なのです。
犬は、人が愛した分だけしっかりと飼い主を愛してくれます。
収容の経験をした犬は、心を開いてくれるまで時間がかかるかもしれません。
しかし、それでも人を信頼して愛してくれる日が必ずやってきます。
そのときまで根気強く待ち続けることができる方は、ぜひ殺処分から犬を救う手助けをしていただければと思います。
たとえ引き取りが難しくとも、ボランティアや寄付といった形でも支援することは可能です。
やがてくる殺処分0を目指し、できることを始めましょう。