わたしたちにとって、動物は身近な存在です。
犬や猫を家族として迎え、共に暮らしている方も多いですよね。
動物を身近に感じることが当たり前の生活を送るみなさんに、ここでひとつ質問をさせてください。
日本は動物に優しい国で、動物が生きやすい国でしょうか?
…答えは、この記事を読み終えたあとに考えていただきたいと思います。
こちらの記事では、日本とヨーロッパの2か国を比較しながら動物愛護についてともに考えていきたいと思います。
まずはペット先進国とはなにかをご紹介します。
ペット先進国ってなに?
「動物の権利が尊重されていて、動物愛護の精神が高い」
これができている国をペット先進国といいます。
人と同じように権利が尊重され、安全かつ快適に暮らすことのできる環境が整備されているんですね。
ヨーロッパにペット先進国が存在するとされており、イギリス、フランス、オランダ、ドイツ、オーストリア、スイス、ギリシャ、ドイツなどがそうであるとされています。(参考:ヨーロッパでの動物保護 天理大学)
ここからはわたしが学生時代から現在に至るまで、動物について学ぶなかで特に動物愛護や福祉に関して“進んでいる”と感じたイギリス、ドイツの二か国を紹介していきたいと思います。
そしてこれからお話する中で、動物愛護と動物福祉というふたつのワードがでてきます。
まずはこの「愛護」と「福祉」についてお話します。
動物愛護と動物福祉の違い
「愛護」とは「かわいがって庇護すること」(goo辞書より)
「福祉」とは「幸福な生活環境を公的扶助によって作り出そうとすること」(goo辞書より)
わたしは、愛護は人が動物に対してどう思うのかであり、福祉は動物にとっての幸せを考えていくことだと思いました。
公益社団法人 日本動物福祉協会によると「動物が精神的・肉体的に健康で幸福であり、環境とも調和している」状態を動物福祉と定義しているそうです。
動物福祉は動物目線の考え方で、動物が幸せに暮らすことを示しているということが分かりました。
動物が幸せになるためには、その動物種の生態や習性を理解したうえでできる限り快適に、またできる限り苦痛を感じることなく生活をさせる義務と責任があるんですね。
国際的動物福祉の基本「5つの自由」
①飢えと渇きからの自由
②不快からの自由
③痛み・傷害・病気からの自由
④恐怖や抑圧からの自由
⑤正常な行動を表現する自由(参考:公益社団法人 日本動物福祉協会)
以上が動物福祉の基本で、1960年代にイギリスで定められました。
もともとは家畜の福祉を確保させることを目的として作られたものですが、今日ではペット・実験動物など人の飼育下にあるすべての動物に対する動物福祉の基本として世界中に知られています。
動物愛護と動物福祉の違いを知ることができましたね。
いよいよペット先進国の取り組みについてお話していきたいと思います。
ペット先進国であるイギリス、ドイツと、そして我が国日本を比較していきます。
まずは動物保護に関する法律についてみてみましょう。
動物のために定められた法律、どんなものがあるの?
一見動物のための法律であっても、実は人の生活のために作られたものだったりします。
動物のための法律とはなんなのでしょうか。
動物のための法律~イギリス編~
イギリス人は生まれた時から動物愛護の精神が高いわけでも、ある日突然そうなったわけでもありません。
もともとイギリス人は動物に対し「世界は人のために存在しているため、ほかの種は従属な存在である。ゆえに好きなようにしてよい」という考え方を持ち、動物に対して残酷である国と言われていたそうです。(参考:私に何の関係があるというのだ イギリスの動物福祉)
しかしだんだんと考え方に変化が生じます。
イギリスの哲学者であるジェレミ・ベンサムがのこした有名な言葉があります。
問題は、理性があるか、話す事ができるか、ということではなく、苦痛を感じるということである。
動物の権利
この言葉が動物愛護活動の基礎的な理念となりました。
さらに、いつの日にか法律がいかなる感覚を持つ生物をも保護の対象とするであろうと語ったとされています。
ジェレミ・ベンサムの言葉通りイギリスはどの国よりもはやく動物保護に関する法律を定め、動物愛護活動を始めたのです。
1822年に「畜獣の虐待と不適当取り扱い防止条例」を定めました。(参考:【近代的動物愛護運動】近代的な動物愛護運動の発祥の地ーイギリスー)
これは馬や牛などへの虐待防止を目的とした法律です。
当時は自動車がありませんので人や荷物を運ぶのは馬の役割でした。
炎天下で長時間水分補給をさせず鞭を打ち馬が倒れるまで働かせたり、また労働者階級の娯楽として牛に虐待をすることもあったようです。
そのような虐待行為を規制する法律が世界で初めてできたことは、革命的なできごとであっただろうと想像することができます。
この法律が施行された後も、それを基礎として1875年には屠畜場の環境改善、1911年には動物保護法の制定、2006年には動物福祉法の制定、2010年以降にも動物福祉に関する法律や規制の整備が進められています。(参考:日本貿易振興機構JETRO)
このほかにもイギリスでは動物虐待防止のための法律や動物への痛みを伴う行為に関する法律、動物の展示に関する法律、動物施設に関する法律、動物輸送に関する法律、市場における動物福祉に関する法律、犬法、狩猟鳥獣法、さらには動物のと殺に関する法律など、すべて挙げることができないほどにたくさんの動物愛護や福祉に関する法律が存在します。(参考:環境省「諸外国における動物の愛護管理制度の概要」)
初めて知る法律ばかり、それもものすごい数でとても驚きました。ぜひ皆さんもご覧ください。
そして2020年には「ルーシー法」という法律が制定されました。
繁殖施設から救出・保護されたルーシーという一頭のキャバリア・キングチャールズ・スパニエルがきっかけとなり、世論が法改正までつなげたのです。
ルーシーは5歳まで繁殖施設で暮らし、何度も子犬を産むことを強要され、また酷い扱いを受けていました。
その後保護され、多くの愛を受けながら8歳でその生涯に幕を閉じました。(参考:UKペットライフ・獣医ライフ)
たった一頭の犬がきっかけで多くの国民が声を上げ法改正までこぎつけた、イギリス国民の動物に対する意識の高さが伺えます。
ルーシー法では以下のことが新たに加わりました。
・実質的にペットショップなどでの仔犬や仔猫の販売を禁止(実際にその販売者により育てられた場合を除く)
・生後6か月未満の子犬・子猫の譲渡は保護施設または認可を受けたブリーダーのみ
・ブリーダーは子犬が母犬とともに生活している様子を直接見せなければならない(母犬を見せるため)
また、違反者には最高6か月の懲役または罰金が科されています。
そのほかにも
・生後8週齢未満の子犬・子猫の販売を禁止(参考:BBC NEWSJAPAN)
・生後8週齢以上の飼い犬にマイクロチップの装着を義務。違反者には最高日本円で約78,000円の罰金(参考:INU MAGAZINE)
などたくさんの動物に関する法律が存在します。
また動物虐待に関しては
・動物虐待者には動物虐待罪を適用し、拘禁刑(刑務所での身柄の拘束)は最長5年(参考:日本貿易振興機構JETRO)
となっています。
人本位の法律ではなく、動物へ愛と敬意を持った法律であることが感じ取れました。
さらに
・犬、猫の一時預かり
・犬の家庭での一時預かり
・犬のデイケア
等に関しては法律ではないものの指導、規制があります。(参考:各国の動物の飼養及び管理に関する法規制などの概要)
動物のための法律~ドイツ編~
動物保護に関する法律は、1871年「ドイツ刑法典360条13号」で初めて定められました。
「公然と又は不快感を生じさせるような仕方で動物を意地悪く虐待し又は粗暴に取り扱った者」は、軽犯罪として150マルクの罰金又は拘留の刑罰を受けるもの
ドイツにおける動物保護の変遷と現状
しかしこの法律は動物の幸せのためであったとは思えません。
公然と又は不快感を生じさせるというのは、人に不快感を与えてはならないということです。
ドイツで初めての動物保護に関する法律は、人本位のものだったのですね。
今やペット先進国といわれるドイツです。
では、ここからどのように変化をしていったのでしょうか。
その後ドイツはナチス政権下へと移行、1933年に首相となったヒトラーは愛犬家として知られており、そのためにナチスは動物愛護に熱心だったと言われています。(参考:ドイツニュースダイジェスト)
1933年11月に「ライヒ動物保護法」が施行されます。
ライヒ動物保護法では、動物への虐待行為や痛みや苦痛を伴う動物実験などが動物福祉の観点から禁止されており、1871年に定められた人本位のものとは違うことが分かります。
ですが、ナチス政権下では様々な人体実験を行っておりその比較対象を必要としたために、結果として例外が認められるようになり動物実験と動物保護の間に矛盾が生じることとなりました。
そして戦後、何度かの改正を経て現在は「動物の生命及び健康に奉仕するものである」と明記され倫理的観点が加えられています。(参考:ドイツにおける動物保護の変遷と現状)
犬の保護に関する条例(参考:ドイツにおける動物保護の変遷と現状)では
・生後8週齢未満の仔犬は母犬から離してはいけない(第2条)
・屋外で犬を飼養する場合には天候から守られ、日陰になる断熱された寝床を用意しなくてはならない(第4条)
・屋内で犬を飼養する場合には自然採光を確保しなければならず、窓の大きさは床面積の少なくとも8分の1の大きさでなくてはならない(第5条)
・妊娠後期の犬や12か月齢未満の仔犬、授乳中の母犬、病気に罹患している犬は鎖につないではいけない(第7条)
ドイツでは犬を屋外で散歩させることがすでに法律で決まっていますが、2020年に新たな散歩に関する法案が提出されました。
・1日に2回以上、合計1時間以上散歩させなければならない
改正法案では散歩の頻度や距離について具体的に規定されるそうです。(参考:CNN.co.jp)
そしてドイツは、犬税を採用しています。
一頭飼養するごとに税金がかかるシステムで、支払われた税金は糞など犬が原因となり汚れてしまった街の清掃費用などにあてられます。
犬税を採用することで、安易な気持ちで犬を飼う人を減らし、多頭飼育を間接的に制限することもできるんですね。
また動物虐待に関しては
・動物虐待者には動物虐待罪が適用され、3年以下の自由刑(自由を奪う刑)または罰金(参考:PRESIDENT Online)
となっており、罰金額は所得によって変動するとされています。
ドイツもイギリスと同じように、人本位ではなく動物の幸福を考えた法規制であることが分かりました。
どちらの国もペット先進国と言われる理由が分かりましたね。
動物のための法律~日本編~
環境省が開示している資料「動物の愛護管理の歴史的変遷」をもとに、日本の動物に関する法律についてお話したいと思います。
1949年に獣医師法が、1950年には狂犬病予防法が制定されました。
ふたつは現在も大切な法律として残っています。
獣医師法は獣医師の職務や資格などに関する法律で、狂犬病予防法は狂犬病の発生を防ぎまん延を防止し、狂犬病自体を撲滅することを目的とした法律です。
動物に関する法律ではありますが、どちらも人本位であり動物の愛護や福祉に関するものではありません。
1970年、動物愛護法のもととなる動物保護法案が国会に提出されました。
しかし不成立となります。
それから3年後の1973年に日本初の動物愛護に関する法律「動物の保護及び管理に関する法律」が制定されました。
ここまで長かったですね…。
イギリスやドイツなどのペット先進国が愛護や保護に関する法律を制定する中、日本の関心の低さが伺えます。
現在は「動物の愛護及び管理に関する法律(通称 動物愛護法)」として1973年に制定以降、数度の改正が行われ新たにさまざまな規制が加わっています。
日本では「動物愛護」と「動物福祉」を同義であると定義し、はじめにお話しした「5つの自由」の理念に基づく動物愛護を行うこととしています。
動物愛護法の内容は環境省「動物愛護管理法」によると
・生後8週齢未満の仔犬は販売、並びに販売のための展示をしてはいけない(第7条)
・犬猫販売業者は犬又は猫を引き渡すまでにマイクロチップの装着をしなければならない(第39条の2)
・動物の殺傷に関して最高5年または500万円以下の罰金
となっています。
わたしはここで、強い違和感を覚えました。
動物を虐待したというニュースを見ることがありますが、このような重い刑が科されているでしょうか。
日本では動物を物として扱っている、わたしはそう思っていましたが皆さんはどうでしょうか。
実は動物愛護法が適用されるのは、野良犬など飼い主のいない動物を虐待した場合なんです。
オーナーのいる動物、いわゆるペットは所有者がいるという認識になり、他人の所有物を壊したという扱いをされるため器物破損罪が適用されます。(参考:わんちゃんホンポ)
器物損壊罪 (きぶつそんかいざい)は、他人の所有物または所有動物を損壊、 傷害 することを内容とする犯罪。 刑法 261条で定められている。 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
Wikipedia 器物損壊罪
ペットの場合、器物損壊罪の対象となるんですね。
また、親告罪(被害者の告訴を必要とする)なのでこちらからアクションを起こさなければ警察は動かないことがほとんどです。
告訴をする場合にも犯人であるということを確定づけるための証拠をできるだけ集め、6か月以内に提出しなければなりません。(参考:わんちゃんホンポ)
日本の法律はペット先進国の法律と比較すると、動物愛護や福祉に関しての興味関心も低く感じます。
また人が生活しやすいよう制定された法律のようで、動物ファーストであるとは思えませんでした。
まとめ
みなさんは、日本が動物に優しい国であると感じましたか?
動物にとって、人と同じように権利が尊重され安全かつ快適に暮らすことができる国でしょうか。
わたしは「日本は動物に優しい」とは言えないと思いました。
動物にとって良い国に近づくためにできることはなんでしょうか。
ペット先進国を代表するイギリスとドイツの法に関する取り組みの中を学ぶことができた今、ペットショップで生体を購入しないなど、できることから真似をしていきませんか?
またイギリスのルーシー法のように、世論が法律制定につながることもあります。
ひとりでも多くの人が声をあげることで、幸せになる動物が増えるかもしれません。
動物を愛し大切に思うみなさんと一緒に、一歩ずつ進んでいけたらうれしいです。