飼育環境や栄養状態の改善から、ペットの平均寿命はどんどん延びています。
共に暮らす家族として、長生きしてくれるのはとても嬉しいことですが、長生きであるがゆえの問題も発生しています。
その一つが、ペットの高齢化によって、ペットが起き上がれなくなったり、寝たきりの状態になったりして介護が必要になることです。
ペットも年齢を重ねると、筋力の低下や病気などにより、徐々に起き上がるのが大変になってきます。
しかし、筋力は使わなければどんどん衰えていきます。
起き上がって動くことができるうちは、無理のない範囲で動く方が、ペットの健康維持に役立つことは言うまでもありません。
飼い主である我々は、できる限りのサポートをしてあげましょう。
今回は、老犬にフォーカスし、老犬が起き上がりやすいベッドにはどのようなものがあるのか、お話しします。
老犬が起き上がれなくなる原因は?
はじめに、老犬が起き上がれなくなる原因についてみていきましょう。
老犬が起き上がれなくなる原因は、加齢と病気が考えられます。
それぞれ、どのような特徴があるのでしょうか。
加齢が原因の場合
高齢になってくると、筋力や体力が少しずつ低下していきます。
筋力が低下すると、まずは後ろ足がうまく動かなくなります。
うまく立てなくなり、立ち上がることはできてもふらついたり、まっすぐに歩けなくなったりするのです。
さらに筋力の低下が進むと、起き上がることが困難になり、寝たきりの状態になってしまいます。
加齢による筋力や体力の低下は、進行がゆっくりであるため、気づきにくいのが特徴です。
しかし、筋力低下のサインは日常生活でしっかりと犬を観察することにより、見つけることができます。
筋力低下のサインは、以下のようなものがあります。
- 散歩中に立ち止まる
- 歩くペースがゆっくりになる
- 階段や段差を上がることが難しくなる
- 排泄の際にふらつく
- 以前とくらべてよく眠るようになる
- 遊ぶ量が減る
- 食事を座って行う
- 以前ほど量を食べなくなる
このような症状がみられたら、無理をさせず、犬が楽な姿勢で生活できるように工夫してあげましょう。
犬の年齢は人間で言うと何歳?
犬は、人間よりも成長が早く、老化も早いです。
犬と人間の年齢の比較は、以下のとおりです。
病気が原因の場合
犬が立てなくなる病気は、大きく以下の3つに分類されます。
骨・関節の病気
- 変形性関節症
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高齢犬に発症しやすい病気で、12歳を過ぎると約45%の犬が罹患するといわれています。
関節は、骨と骨の間に軟骨がありクッションの役割をしていますが、この軟骨に負担がかかることによって、関節の変形が起こり、痛みや動かしにくさが生じる病気です。
加齢以外にも、外傷や遺伝によって発症する可能性があります。
変形性関節症の初期症状は、足を引きずる、階段や段差を嫌がる、運動するのを拒む、筋肉がこわばるといったものです。
予防するには、肥満にならない、栄養バランスの整った食事を与える、適度な運動を心がけることが有効です。
脳・神経系の病気
- 脳腫瘍
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頭蓋骨の中にできる腫瘍の総称です。
高齢犬で発症しやすく、ゴールデンレトリバーやフレンチブルドッグ、ボストンテリアなどでよくみられます。
腫瘍がある部位や大きさ、犬の年齢や体力を考慮し、外科手術や化学療法によって腫瘍を取り除く方法と、生活の質を保つ保存療法から治療方法を選択します。
脳腫瘍ができた場合にみられる症状は、以下のようなものがあります。
- 食欲不振
- 痙攣発作
- 姿勢や歩行の異常
- 眼振、視力低下など目に関する異変
- 眠り続ける
- 大量によだれが出る
- 変形性脊髄症
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脊椎の可動域が狭まる病気で、高齢犬や外傷、遺伝によって引き起こされます。
発症すると、動いたときに痛みが生じるため、動きたがらなくなるのが特徴です。
悪化した場合は、立ち上がれなくなることもあります。
痛み止めやコルセットの着用などの治療を行います。
- 椎間板ヘルニア
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椎間板とは、骨と骨の間でクッションの役割をする組織です。
椎間板ヘルニアは、椎間板が本来ある位置から飛び出たり、完全にはみ出したりして、脊髄を圧迫した状態をさします。
変形性脊髄症と似た症状がみられ、痛みによって動けなくなることや、圧迫が長期間にわたると、神経が麻痺して歩行困難になります。
年齢のほかにも、肥満や無理な運動によって引き起こされる症状です。
- てんかん
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脳の神経細胞が、過剰に興奮することにより引き起こされる脳の病気で、痙攣発作が起こります。
てんかんには前兆がみられ、鼻を鳴らしながらクルクル回る、そわそわし、甘えてくる、よだれをたらすなどの症状がみられます。
治療方法は、抗てんかん薬の投与か、手術による切除です。
平衡感覚の異常
- 突発性前庭疾患
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耳や脳に障害がおこり、めまいやふらつき、眼振などの症状がみられる病気です。
多くは加齢や犬種による遺伝が原因となりますが、原因がはっきりしない突発性のものもあります。
外耳炎や中耳炎が慢性化している犬では、耳の内部で内耳炎を起こしていることがあり、それが原因となる場合もケースとして見られます。
起き上がりやすいベッドの選び方
次に、起き上がりやすいベッドの選び方を見ていきましょう。
起き上がりやすいベッドのポイントは、「高反発」、「適度な幅」、「介助のしやすさ」の3つです。
ポイント①高反発
起き上がるときには、ふんばりがきくことが重要です。
犬が伏せた状態から起き上がるときには、後ろ足に重心を置き、前足で身体を引き起こします。
前足で身体を起こすときに、上半身の重みが、ぐっと前足にかかります。
また、横になった状態から起き上がるときには、そのままでは起き上がれません。
一度「伏せ」の状態にしてから、身体を横に90度起こすことが必要です。
身体を伏せの状態にするときには、体側の筋肉を使って身体を起こします。
これらの動作を行う時に、土台であるマットレスが柔らかいと、ふんばることができません。
起き上がるためには、ある程度の硬さのあるマットレスがおすすめです。
しかし、マットレスが硬すぎても、老犬の身体にとってはよくありません。
老犬になると、若い時よりも眠っている時間がずっと多くなります。
老犬になると、やはり筋力の低下から、若い頃ほど寝返りを打たなくなり、同じ体勢で眠り続けることが増えるのです。
マットレスが硬いと、一番下になっている部分に圧力がかかり、その部分に負担を多くかけてしまいます。
マットレスは、高反発かつ体圧分散式のものを選びましょう。
低反発マットは、じわーっとやわらかく身体が沈み込むため、心地よい寝心地を得られることがメリットです。
デメリットは、そのやわらかさゆえに寝返りが打ちにくいことです。
長時間眠る場合には、あまり適していません。
高反発マットは、身体の沈み込み過ぎを防止し、寝返りを打つのに適しています。
体圧を程よく分散してくれ、通気性にも優れているのが特徴です。
横になる時間が長い場合には、床ずれの防止にも適しています。
程よい反発力があるので、起き上がるときにふんばりがきいて楽なのも、高反発マットです。
ポイント②適度な幅
犬は、狭い場所を好む傾向にあります。
ベッドも、広すぎると落ち着かず、あまり使用してくれないことがあるのです。
しかし、眠っていることが多くなると、あまりに狭い場所では寝返りを打てない場合や、寝返りを打った際にベッドから落ちてしまう場合があります。
犬の身体の大きさにあったベッドを用意してあげましょう。
ポイント③介助のしやすさ
筋力が落ちてくると、犬だけの力では起き上がれなくなることがあります。
そのようなときには、人間が起き上がるのを手伝ってあげましょう。
しかし、大型犬、超大型犬は体重が重いため、犬の身体を手で支えて起き上がらせるのは一苦労です。
そのようなときに、ベッドに取っ手がついていれば、横向きに寝ている場合、ベッドを引き起こして体勢を変えてあげることができます。
起き上がりやすいベッドの紹介
上述したポイントを踏まえて、犬が寝ている状態から起き上がりやすいベッドを3つ紹介します。
芦屋バティーズ 床ずれ防止マット ホームナース
動物病院とメーカーが共同開発したマットレスです。
寝ているときには程よく体圧を分散して床ずれを防ぎ、表面に畝状の凹凸があるため、起き上がるときもふんばりがききます。
特殊ポリエステルの立体構造で、へたりにくい素材を使用しています。
マットレスの内部はほとんどが空気なので、通気性がよく年中使用でき、また水洗いもできるので衛生面も問題ありません。
ペティオ zuttone 床ずれ防止ベッド
正方形のベッドで広々と寝転ぶことができ、それぞれの角の部分に持ち手がついています。
犬の体位を変えたいときには、この持ち手を引っ張ることで、寝返りの補助が可能です。
横向きに寝ている状態から起き上がるときに、持ち手を利用することで介助が楽になります。
ウレタン2層構造で、体圧を分散してくれるので、ずっと同じ体制で寝ていても、下側になる部分の圧迫を軽減してくれるベッドです。
素材についての高評価が目立ちます。ただし一方で、サイズ感が少し小さい、値段が高めなどの低評価も見られるためこのあたりについての確認をよく行うことをおすすめします。
EMME 高反発犬用ベッド
高反発ウレタン素材を用いており、寝返りを打ちやすく、起き上がるときもふんばりがきくベッドです。
こちらのメーカーから出ているベッドには、辺の部分に枕がついているため、顎をのせて眠ることができます(3面枕付きの商品は、枕の高さが高めであるため、中型~大型犬の使用に適しています)。
枕がついていると、知らない間に犬の身体がベッドから落ちていた、という心配が少なくなります。
防水カバーでお手入れがしやすく、カバーのみの別売りもされているので、洗い替えの用意が可能です。
ほかの商品と比べると価格がお手頃なので、購入しやすいのもポイントです。
起き上がりの介助を手助けしてくれるグッズ
犬が自力で起き上がるのが大変な場合は、介護用のベストを使って起き上がりの補助をしてあげましょう。
介護用のベストには、上半身を引き起こしやすくするためのベルトが両前足の付け根部分についていて、そのベルトを引き上げることで、起き上がりを補助します。
こちらの商品は、起き上がるときだけでなく歩行補助のためのベルトと、お座りを補助するためのベルト、計3種類のベルトがついていて、日常の場面ごとに使いわけることが可能です。
素材もコットンなので、季節を問わず使用できます。
特に大きな犬は、なにもつけない状態で人間が身体を起こそうとすると、犬の体重が重いため、うまく介助ができず犬に苦痛を与えてしまう場合があります。
介護用ベストを使用することで、犬も人間も、お互いの負担が減ります。
普通のベッドではいけないのか
動きが鈍くなった犬に少しでも楽に寝てもらうには、介護ベッドの使用をおすすめします。
筋力の低下や関節の状態が悪化すると、長時間同じ体勢で眠ることが多くなります。
そうすると、床ずれが起きやすくなったり、ベッドが柔らかいと動いたときに体勢を崩してケガをしたり、状態が悪化したりする原因になりやすいのです。
介護ベッドは、長時間同じ体勢で寝続けることや体勢を容易に変えられるように作られたものが多いため、安心して眠らせることができます。
また、介護ベッドの多くは防水加工や防水カバーが用意されているため、掃除がしやすく、衛生面でも安心です。
寝たきりを予防するために今からできること
加齢や病気で筋力が低下するのは仕方のないことですが、将来寝たきりになることを予防するために、動ける間に継続して行いたいことが3つあります。
体重管理
肥満は、動くのを余計におっくうにさせるばかりか、動いたときに体重を支えきれなくなって、ケガの原因にもなります。
動けなくなってから体重管理をすることは大変なので、日ごろから気をつけてあげましょう。
筋力低下の予防のための運動・散歩(認知症予防にも)
無理のない範囲で運動させることで、筋力の維持に役立ちます。
また、外の景色を見たり触れたりして刺激を受けることで、認知症の予防にもなるのです。
楽な体勢で日常生活が送れる工夫
動けなくなってから介護の体制を整えるのは大変です。
犬の年齢や健康状態に合わせて、普段から身体に負担がかからないよう、生活環境を整えてあげましょう。
さいごに
犬は人間とくらべると、若いうちから睡眠時間が多い生き物であるため、快適な睡眠環境を整えてあげることはもちろん重要です。
犬も人間と同様、長く生きているとどうしても身体が衰えてきます。
場面に応じてできる限りのサポートをし、なるべく楽に生活できるようにしてあげたいものです。
今回紹介したベッドは、寝たきりの状態をサポートする商品が中心ですが、その中でも起き上がりやすさにフォーカスして商品を選びました。
なぜなら、犬はいきなり寝たきりになるのではなく、徐々に動けなくなる過程を経て寝たきりになるからです。
その途中には、やはり動ける範囲で動きたいという犬の意思があります。
それをサポートしてあげるのが、飼い主としての務めではないでしょうか。
一緒に暮らす犬にとって、少しでも快適な生活を送るための手助けになれば幸いです。