自然保護の指標ともいわれる野鳥は、非常に繊細な生き物です。
わずかな環境の変化で棲み処を変え、また繁殖(子育て)をやめてしまうこともあります。
デリケートな野鳥の棲み処を守り、人間との共生に努めている団体は日本各地にいくつもありますが、今回はその中からいくつかの野鳥保護センターをピックアップして、歴史や具体的な活動内容などをご紹介します。
野鳥保護センターのおかげで、多くの鳥たちの数が増え、生息地も確保されているのです。
今回ご紹介する施設は、いずれも一般公開されています。
興味があれば、野鳥の保護活動に参加してみてはいかがでしょうか。
なお、身近な野鳥を取り巻く環境の変化については、こちらの記事をご覧ください。
今も野鳥との共生に尽力する3つの保護センター
日本には数多くの野鳥がいます。
その中でも、トキ・コウノトリ・タンチョウの三種類は、日本人であれば誰でも聞いたことがある鳥ではないでしょうか。
現在、これら三種類の野鳥は生息地で観察できるようになりましたが、かつては乱獲などによって数が激減し、中には国内で絶滅してしまったものもいます。
そこまで個体数が減ってしまった野鳥が自然下で確認できるまでに回復できたのは、種を守ろうと、保護センターが懸命に取り組んできたからです。
もちろん、保護センター単独でできることは限られているため、さまざまな機関と連携しながら野鳥たちを守ってきました。
個体数が回復した今も、引き続きケアを続けています。
これらの保護センターが、過去にどのような取り組みをしてきたのか、また現在はどのように活動しているのかを詳しくみていきましょう。
絶滅を避けるために尽力した「佐渡トキ保護センター」
佐渡トキ保護センターは、新潟県佐渡市にある「トキの森公園」の中にある施設で、トキの飼育と繁殖に取り組んでいる施設です。
トキの森公園は一般開放されていて、大型ケージの中で飼育されているトキを間近に見ることができます。
そのほかにも、トキに関する資料の展示や、観察回廊から佐渡トキ保護センターで飼育されているトキを見ることも可能です。
トキってどんな鳥?
トキはペリカン目トキ属に分類される野鳥で、日本だけでなく韓国・中国やロシアの極東部など、広い範囲で生息が確認されていました。
しかし、日本同様に乱獲を行ったせいで、韓国やロシアでは1980年ごろを境に、その後の目撃がありません。
トキは全長70~80cm、翼を広げると130cm程度になる大きな鳥で、ドジョウやミミズ、カエル、昆虫などを食べます。
木の実などを食べた記録はないとのことで、肉食に分類されます。
トキの特徴といえば、「トキ色」と称される、春から夏にかけてみられる朱色がかったピンク色の美しい羽毛です。
トキ色の羽毛は風切羽や尾羽に見られ、羽をひろげて飛んでいるときに、その美しさを実感することができます。
また、トキのもう一つの特徴は季節によって羽の色が変わることです。
繁殖期である1~6月は、頭から背中にかけて黒っぽい色へと変化します。
繁殖が終わり子育ての時期(7~12月)になると、また白っぽい色へと戻ります。
このような色の変化は、鳥類の中ではトキだけに見られる特徴です。
トキの保護の歴史
絶滅したと思われたトキは、1932年に再発見!
かつて日本各地に生息していたトキは、明治時代以降の乱獲によって数が激減し、1920年代には全く目撃されなくなります。
1932年に再発見されて以降、少しずつ保護活動が始まり、やがて新潟県トキ保護センターが1967年に設立されます。
しかし、そこから数の減少に歯止めをかけることはできず、1981年には全鳥捕獲によって野生のトキは全滅、国内のトキは5羽のみとなりました。
1998年に中国から2羽のトキが寄贈され、翌年、人工繁殖に成功します。
その後、中国からレンタルしたトキが順調に数を増やし、2008年に佐渡島で放鳥することができました。
4年後の2012年には野生化での繁殖が確認され、少しずつ数を増やしています。
佐渡トキ保護センターの役割
佐渡トキ保護センターは、環境省が設置した施設で、新潟県が管理・運営している施設です。
設立当初は旧新穂村清水平にありましたが、施設の老朽化にともない、1993年に現在の場所へ移転しました。
トキ保護センターの目的は、いわずもがな数が減少し続けていたトキを保護して、繁殖させ、やがて野生復帰させることです。
しかし、トキの人工繁殖は容易ではなく、成功したのは保護センターができてから32年後のことでした。
ちなみに中国でも同様にトキの保護は行われており、こちらでの人工繁殖は1989年に成功しています。
トキの数は少しずつ増え、センター内での飼育だけでなく、佐渡で野生復帰をさせるめどがつきました。
現在は、佐渡におけるトキの野生復帰だけでなく、本州においてもトキが定着できるよう、取り組みをスタートしています。
2007年には野生復帰ステーションを設置して、自然に近い環境下で、トキたちが生活できるように慣らしていきます。
野生下でトキが暮らしていくにあたってもう一つ大切なことがあり、それはトキの生活環境を整えることです。
トキの数が激減した理由に、乱獲ともう一つ、開発による生息域の破壊が考えられています。
トキ保護センターで大きくなったトキを自然に放鳥しても、エサを取ったり安心して羽を休めたりできる場所がなければ、生きていくことはできません。
トキが暮らすための環境整備は、行政や、そこで暮らす地域の方の協力が不可欠です。
佐渡トキ保護センターが中心となって呼びかけ、少しずつ環境整備を実施しています。
トキの森公園では、入園時に協力費を集めています。
協力費は全額トキの野生復帰に使用されるため、トキの森公園を訪れるだけでも、トキ保護の役に立つことができるのです。
- 大人(高校生以上) 400円
- 子ども(小学生以上) 100円
また、佐渡市へのふるさと納税でトキの保護活動を支援することもできますし、佐渡トキファンクラブに入会することで、トキの保護活動を応援することができます。
佐渡トキファンクラブの入会費・年会費は無料なので、気になる方はぜひ登録しましょう。
田園で飛ぶ姿を再び見るために「兵庫県立コウノトリの郷公園」
兵庫県豊岡市にある兵庫県立コウノトリの郷公園は、保護の二大柱「保護増殖事業」と「野生復帰事業」のうち、「野生復帰事業」を成功させるために設立された施設です。
山のふもとに飼育ゾーン、教育・研究ゾーンを設け、すそ野に広がる広大な田んぼを「コウノトリ育む農法の田んぼ」として有しています。
コウノトリとは?
コウノトリは、コウノトリ目コウノトリ科コウノトリ属に分類される大きな鳥で、全長約1.3m、翼を広げると約2.2mにもなります。
白い身体に黒っぽい風切羽が特徴です。
コウノトリは本来渡り鳥で、夏などにはロシアの極東部などで生活し、冬になると日本にやってきて越冬していました。
湿地に生息し、トキと同じように水辺の生き物をエサに生活しています。
身体の大きなコウノトリが生息するためには、豊富な生き物が必要です。
コウノトリが生きていくためには、広大な湿地と、巣をつくるための谷があるという、二つの条件がそろっていなければなりません。
豊岡市はその条件がそろった、コウノトリが生きていくのに適した数少ない場所だったのです。
コウノトリ保護の歴史
コウノトリの保護のスタートは、1965年に豊岡市の現保護増殖センターでの人工飼育
1965年ごろには、コウノトリの数は数えられるほどしか残っていませんでした。
そして1971年、野生のコウノトリは絶滅してしまい、残ったのは施設で保護されていたコウノトリだけになってしまったのです。
人工繁殖はやはり困難で、1989年になってやっと、ロシアから譲り受けたコウノトリがヒナを産みました。
コウノトリの野生復帰計画は1992年に立案され、翌年、コウノトリの郷公園が開園します。
それまでも、郷周辺では減農薬・無農薬農業への取り組みが行われていましたが、2002年に郷周辺の農家によって環境にやさしい農業が実践され始めました。
環境整備が功をなし、その年に野生のコウノトリが豊岡に飛来します。
2005年には試験的に放鳥が行われ、2007年には野外繁殖が確認されました。
2020年には野生下で200羽の生息が確認され、その後は淡路島や福井県でも野外コウノトリのヒナの誕生が確認されるなど、着実に保護活動の成果が表れています。
兵庫県立コウノトリの郷公園の役割
コウノトリの郷公園は、コウノトリの野生化だけでなく、野生復帰を通じて人々に人と自然との共生の普及啓発活動を行う役割も担っている施設です。
公園内の湿地を利用して環境学習の実施や体験学習、コウノトリの郷公園以外で行う出前講座なども実施しています。
公園の取り組みはYouTubeでも配信されていて、活動の様子を視聴することが可能です。
コウノトリの郷公園の教育・研究ゾーンなどの一部は一般開放されており、施設内でコウノトリの飼育の状況を観察することができます。
私たちがコウノトリ保護のためにできることは、寄付だけでなく、目撃情報の報告もあげられます。
コウノトリは渡り鳥です。
豊岡市で放鳥した個体も、日本各地だけでなく韓国や中国に飛来しているのが確認されています。
コウノトリの姿を確認した場合に報告することで、放鳥後にコウノトリがどのように生活しているのかを把握して、研究や保護に活かすことができるのです。
寄付を行う場合には、ふるさとひょうご寄附金に申し込みます。
また、コウノトリの郷公園を訪れた際には、こちらも協力金を募っています。
任意で100円となっているため、施設を訪れた際にはぜひ協力しましょう。
タンチョウが優雅に舞う姿を守る「阿寒国際ツルセンター」
釧路市にある阿寒国際ツルセンターは、オープンは1996年と新しいものの、阿寒町が人工給餌発祥の地として長い歴史を持つ町であるため、その経験を生かしてタンチョウの保護・研究に力を入れています。
日本唯一のタンチョウのための施設です。
タンチョウはつがいが一生添い遂げる鳥であり、阿寒国際ツルセンターはそのタンチョウが見られる場所として、なんとデートスポットにもなっています。
施設内にはタンチョウだけでなくマナヅルも飼育されていて、一年中その様子を観察することが可能です。
夏の間には、施設の裏手にあるビオトープが解放されていて、そこでも北海道固有のエゾシカやキタキツネ、数多くの野鳥を観察することができます。
私たちにとって、タンチョウの魅力を間近で感じながら保護活動の実態も知ることができる、重要な施設といえるでしょう。
タンチョウとは
タンチョウは、ツル目ツル科ツル属に分類される、日本ではなじみの深い鳥です。
かなり大型の鳥で、全長約100~150cm、翼を広げると240cmほどにもなり、頭部(頂)が赤い(丹)ことからタンチョウの名がつきました。
越冬する渡り鳥で、おもに湿地や河川などで生息します。
ただし、日本においては約半数のタンチョウが留鳥で、釧路湿原付近で生活していることは、大きな特徴です。
トキやコウノトリと異なり雑食性で、魚や昆虫だけでなく、植物の葉や茎、果物なども食べます。
寿命が長く、野生下で約30年、飼育下では約50年も生きるそうです。
タンチョウは、開拓された北海道において、必ずしも歓迎される鳥ではありませんでした。
トウモロコシやソバの実などを食べてしまったり、牛舎などの付近に飛来して動物を驚かせることもあったのです。
タンチョウの数が減った理由
タンチョウは、かつては北海道全域に生息していました。
しかし、江戸時代以降北海道の開拓が始まると、生息地の減少に加えて乱獲が行われ、どんどん数が減っていきました。
1920年には絶滅したものと思われていましたが、1924年に釧路湿原でその姿が確認され、その後、保護活動が活発化したのです。
数が増えた現在では、人間との距離が近いことによる事故が原因でなくなってしまう事例が相次いでいます。
また、個体数が増えたことによって生息地が不足するという問題も出てきました。
さまざまなバランスを考慮しなければならない、保護活動の難しさがあらわになったのです。
阿寒国際ツルセンターの取り組み
阿寒国際ツルセンターでは、自然に近い環境でタンチョウを飼育することで、生態の研究を行い、保護活動に生かしています。
冬場の毎日の給餌によって、厳しい北海道の冬をタンチョウは安心して乗り越えることができるのです。
この人工給餌に、多いときには150羽以上のタンチョウが飛来するそうです。
阿寒国際ツルセンターでは、タンチョウの研究を行うと同時に、センターでの展示や体験学習などを通じた保護活動の啓発も実施しています。
さまざまな経験を通じ、自然と共生できる社会のあり方を考える機会を、私たちに提供してくれているのです。
釧路市タンチョウ鶴愛護会を通じて、タンチョウ保護の支援が可能です。
会員になることで、会員証が発行され、タンチョウの保護活動にボランティアとして参加したり、会報誌などを手に入れたりすることができます。
また、寄付金も同会宛に送ることが可能です。
野鳥保護の保護活動をする団体は日本全国に
日本における代表的な野鳥三種の保護活動を紹介しましたが、これら以外にも、保護やケアが必要な野鳥は全国にいます。
特に、大型の鳥は元々の数がそんなに多くなく、一羽当たりの生活範囲が広くなければならないこと、子育てなどに繊細であることから繁殖が難しく、また固有種の場合は今まで天敵がいなかったことから身を守る術が不十分で、数が減りやすい傾向なのです。
紹介した以外にも、以下のような野鳥の保護団体があります。
- 猛禽類医学研究所
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タンチョウと同じ釧路市にあり、天然記念物の事故などに遭ったオジロワシのレスキューを実施
- 信越自然環境事務所(野生生物課)
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長野県にあり、高知に生息するライチョウの保護活動を行っている
- 山階鳥類研究所
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小笠原諸島聟(むこ)島で、アホウドリの繁殖サポート・繁殖地の形成を実施
- やんばる野生生物保護センター
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沖縄の固有種ヤンバルクイナやノグチゲラを保護するための活動として、ロードキル対策や密猟・外来種対策、さらには犬・猫対策まで実施
このほかにも多くの野鳥が絶滅危惧種としてレッドリストに記載されており、保護団体によって守られています。
野鳥保護活動に興味を持ったら、まずはお住まいの近くの保護団体を訪ねてみるとよいでしょう。
有名な日本野鳥の会は全国に支部があり、各エリアごとの野鳥保護に努めている団体です。日本野鳥の会は、手続きを踏めばどなたでも気軽に入会できます。
また、支援したい野鳥保護団体があれば、最近はふるさと納税や寄付を活用している団体も多くあります。
活動はできなくても、金銭的に支援することも、立派な保護活動の一環です。
まとめ
これまでに野鳥の絶滅や、数の激減する原因を引き起こしたのは、少なからず人間の活動が絡んでいます。
一方的な乱獲や生息地を破壊してきたことによって、多くの野鳥が棲み処を奪われ、絶滅の道をたどったことも事実です。
現代においても効率化や実用性を求め、自然環境が破壊されてしまうことも多々ありますが、この土地は人間だけのものではないことを認識し、共生できる世界へと進化していくことが必要です。
ぜひ、野鳥だけではなく身近な生き物に目を向けてみてください。
一人ひとりが少しずつ気を配りながら、共に生きやすい世界をつくっていきましょう。