皆様は「ペット共生住宅」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
家というものは、誰もが最も安心して心地よく居られる場所だと思います。
しかしペットを飼育していると、もっとこうだったら良いのになとか、こんなことが起きて困っているという風に、自分が住んでいる家に対して不安や不満を抱いたことがあるかもしれません。
私自身は猫を1匹飼っていますが、とてもいたずら好きで食いしん坊な猫ですので、キッチン周りには極力近づけさせたくありません。
各部屋の扉もロックを掛けられる仕様になっていないことから、外出中は寝室に閉じ込めるほかなく、もっと広々と暮らしてほしいのに…と、歯がゆく思うことが多々あります。
また、特に夏場などは窓を網戸にしておくことが多いのですが、少しでも油断すると脱走の危険性があります。
自分で開けられないように工夫はしていますが、脱走防止のための設備が元々備わっていたらどんなに良いだろうとも思います。
ペット共生住宅は、そんな”あったらいいな”を叶えてくれる住宅です。
今回はペット共生住宅について、ペット可物件との違いやそのサービス内容を紹介していきたいと思います。
ペットはただ単に”飼う”のではなく”一緒に生きる”
近年、犬猫の飼育頭数が子供の数を上回ったというニュースが報じられたことは記憶に新しいと思います。
一般社団法人ペットフード協会が2021年に行った全国犬猫飼育実態調査結果によると、犬猫の飼育頭数は1605万匹程度となっています。
その反面、2021年に総務省が発表した15歳未満の人口は1493万人とのことでした。
これは、日本の少子化の進行を象徴的なものにするニュースであったと思いますが、それに伴って、ペットという存在がどれほど重要になっているかという事実も今まで以上に印象付けました。
このような背景があり、住宅に関しても動物の安全面に配慮した設備や、お互いがもっと心地よく暮らすための設備など、より多様で細分化されたサービスが求められています。
住宅情報サービスのLIFULL HOME’Sに掲載されていた賃貸の物件において、2022年12月時点における関東地域1都3県のペット相談可物件は、18.3%となっています。
2020年には14.0%にとどまっていたとの事ですから、急激な伸び率に驚きます。
(参考:ヘーベルメゾン)
2024年現在では、さらにその数を増やしていることでしょう。
ただ、ペットを飼いたいけど現在飼っていない人の大半の理由は、自宅がペット飼育不可だから、というものが多く見受けられます。
まだまだ動物と一緒に暮らしたいというニーズには十分答えきれていないということが伺えます。
また、求めるほどの設備が整っていないからペットの飼育に踏み込めない、という方も多いのではないでしょうか。
そんな中、近年ではペット飼育可物件とは別の、ペット共生住宅というものの提供が度々みられるようになってきました。
似たようなこの2つの言葉ですが、これらの違いはなんなのでしょうか。
ペット可物件とペット共生住宅
ペット可物件とペット共生住宅は同じような言葉だと思われるかもしれません。
実際のところこれらの言葉に明確な定義はありませんが、大手住宅メーカーなどはこの2つを大きく差別化しています。
世間一般で言われているふたつの言葉の違いをまとめると、概ね下記のようになります。
ペット可物件 | ペット共生住宅 | |
ペットの受け入れ | 積極的でない | 積極的 |
ペット用設備 | 少ない | 設置されている |
入居者 | ペットが嫌いな居住者もいる | ペット飼育に理解がある |
飼育規約 | 定められていないこともある | ほとんどの場合定められている |
ペット可物件は動物を飼育していない前提で、一部の人に対しては動物を飼育することを認めるというスタンスです。
そのため動物のための設備があまり整っておらず、猫や大型犬が飼えない場合が多いなど、制限が多いのが現実です。
また、必ずしも動物好きの方が入居している訳ではないので、ペットを飼育している事によってトラブルが起こる可能性もあります。
しかし、ペット共生住宅はすべての入居者がペットを飼育することを前提として入居者を募っています。
そのため、ペットを飼育することに理解があるどころか、応援してくれる、何かあったら心配してくれるなど、入居者の資質にも大きな違いがあります。
ペット共生住宅では具体的にどんな設備・サービスがある?
さて、ペット共生住宅と呼ばれるものには、具体的にどんなサービス内容が盛り込まれているのでしょうか。
飼い主の方のニーズに答えるため様々なサービスが用意されていますが、その内容はハード面(設備)とソフト面(サービス)の2つに分類することができます。
ハード面(設備)
ペットの飼育が認められている住宅の設備でまず思い浮かべるものは、玄関のリード用フックや、玄関先にある足洗い場などではないでしょうか。
ペット共生住宅では、ペット可物件にも見受けられる設備に加え、ペットと共に暮らすのにあたってさらに嬉しい設備が盛り沢山です。
犬や猫など、動物種を問わず利用できる設備には以下のようなものがあります。
- トイレやフードボウル、ハウスなどを置くことができるペットスペース
- ペット専用棚
- ペットくぐり戸付ドア
- バルコニー手摺/隔板まわり
- フェンス取り付け下地(玄関のペット飛び出し防止)
- 防音に配慮したサッシ
- ハンドシャワー付き洗面台
- グルーミングルーム
- ペット対応の床材
- 床暖房
- イオン発生機
- エレベーターのペットボタン(ペットが同乗していることを他の人に知らせるもの)
ペット共生住宅の設備例としては、ペットが安心できる壁の一部くぼんだ部分にペットスペースがあったり、その上部にペット用品を収納できる専用の棚が設置されていたりします。
ペットがいつでも行き来できるくぐり戸つきドアや、シャンプーやグルーミングがしやすような洗面台などもあります。
また、床暖房や、ペット対応の床材、イオン発生機、防臭機能などが整っており、動物も人も暮らしやすい環境を整えているということもペット共生住宅の特徴です。
わんちゃんには…
特にわんちゃんを飼育している方向けの設備に関しては、以下のようなものがあります。
- 足洗い場
- 玄関のリードフック
- ドッグラン
- 1階や屋上に専用庭を設置
- 汚物処理水洗(入居者共用部)
犬は猫に比べて活発で運動量が多いので、自宅内での運動や、散歩に行った後のケアをフォローする設備、共用ドッグランの設置などが充実しています。
のびのびと暮らすわんちゃんを見ていると、自分自身も嬉しい気分になりますよね。
猫ちゃんには…
もちろん、猫ちゃん向けの設備も整っています。
- 壁クロス見切り
- キャットステップ
- キャッウォーク
猫は散歩を必要としませんが、その代わりに室内で上下運動ができることが最も好ましいとされています。
そのため、後付のキャットタワーやキャットステップを設置されている飼い主様も多いのではないでしょうか。
これらの設備が元からあるというのはとても嬉しいですよね。
また、猫を飼育するにあたって常に頭を悩ませるのが、壁へのひっかき傷です。
猫が爪を研ぐというのは生理的欲求のひとつなので、やめさせることはできません。
どうしても壁紙をひっかかれてしまう可能性はあるので、壁紙の張替えを余儀なくされる場合に少ない面積で済ませられるよう、床と天井の間で仕切りを作っておく工夫がなされています。
これらは、動物の安全を守る設備、動物のQOLを上げる設備、人間の利便性が高まる設備、という風に分類できます。
まさに、こんなのが欲しかった!というものばかりですよね。
ソフト面(サービスなど)
ペット共生住宅が整えている環境は、設備面だけではありません。
さまざまな日常の悩みを解決してくれる相談室などのサービスの提供や、ルール作りが行われています。
ペット共生住宅はペットの飼育規約が決められている場合が多いと先述しましたが、これも大切なソフト面の環境整備です。
特に集合住宅では、この飼育規約が重要な意味を持ちます。
ペットの飼育規約について
入居者の距離が近いマンションやアパートなどの集合型住宅では、ペットを原因とする入居者同士のトラブルが頻発していた過去があり、ペットの飼育規約の策定に至りました。
国土交通省が提示した「マンション標準管理規約」のひな形では、ペット飼育の可否について規約で定めるべきとし、また飼育を認める場合にはいくつかの規定を定める必要があるとしました。
2 犬、猫等のペットの飼育に関しては、それを認める、認めない等の規定 は規約で定めるべき事項である。基本的な事項を規約で定め、手続等の細部の規定を使用細則等に委ねることは可能である。
なお、飼育を認める場合には、動物等の種類及び数等の限定、管理組合への届出又は登録等による飼育動物の把握、専有部分における飼育方法並びに共用部分の利用方法及びふん尿の処理等の飼育者の守るべき事項、飼育に起因する被害等に対する責任、違反者に対する措置等の規定を定める必要がある。
内容を読んでみると分かりますが、マンション標準管理規約では、ペット飼育によるトラブルの防止とトラブル発生時の責任の所在、違反者への措置など大変重要なことを決めるべきと記載されています。
また、2010年に環境省が「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」を作成していますが、その中には以下のような内容も記載されています。
コラム 集合住宅のペット飼育について
一般的にペット飼育可の集合住宅は、以下のような対応をしているようです。
1.管理組合又は貸主(以下「管理組合等という」)
管理組合等としてペットの飼育について議論を行い、可否を決め、許可する場合には飼育条件等を明確にする。
規約・細則を作成する。
飼い主の会(ペットクラブ)の指導・支援を行う。
2.集合住宅管理規約・細則 集合住宅でのペットの飼育に関しては、それを認める、認めない等の基本的事
項は規約で定め、認める場合は手続き等の細部の規定を使用細則で規定することが多いようです。
住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン
国土交通省のマンション標準管理規約の提示を受けて、実際に各集合住宅では規約を定め、ルールに則った動物飼育者の管理が行われてきました。
さらに、2010年の時点で飼い主の会(ペットクラブ)の設立に関しても言及されている点において、この頃から集合住宅でのペット飼育について適正化を推し進めていたということが伺えます。
健康相談やしつけ相談サービス、入居者同士の交流会も
これらの基本的な事項を踏まえた上で、更に入居者のニーズに即したルールやサービスを提供しています。
今回、ペット共生住宅について調べるに当たって、こんなにもサービスが整っているものなのかと私自身も驚きました。
ペットを飼育していると、よく吠えるので困るだとか、言うことを聞いてくれないなどのしつけ面での悩みや、健康上の悩みが出てくることがあると思います。
そんなペットを飼育しているからこその悩みを解決してくれるサービスもあります。
例えば、以下のようなものです。
- 獣医師との相談室
- ドッグトレーナーの出張
- 防災セミナーの開催
- 介護セミナーの開催
- 入居者専用ウェブサイトでお役立ち情報がいつでも閲覧可能
- 動物に関連したオンラインコンテンツ
- 人とペットが心地よく暮らせるライフスタイルの提案
これらは、悩みを解決してくれるということはもちろんのこと、飼い主側の知識向上にも繋がります。
質のいい飼い主の育成にも貢献していると言えるのではないでしょうか。
また、ペットを飼育している入居者同士での交流会やイベントなども開催されているようです。
- 入居者専用のペットクラブ(ペットクラブ会則を制定し自主的に運営)
- ペットを連れての交流会
- オンラインイベント など
交流会を行うことで入居者同士が顔を合わせる機会も増えますし、ペットを介することによってより仲も深まりやすいでしょう。
ほかの入居者と顔見知りになっておくことで、トラブルが起きそうになっても話し合いで解決できるかもしれませんよね。
このように、動物を飼育することによって引き起こる悩みのほとんどすべてを解決してくれると言っても過言ではありません。
今までは自ら外に出向かなければならなかったしつけ相談や健康相談、動物同士の交流会も、自宅に居るまま解決してしまうのです。
入居に当たって必要なもの、こと
動物を飼っている人なら誰もが入居したくなるようなペット共生住宅ですが、どんな人、どんな動物でも入居が可能と言うわけではありません。
ひと家族ごとに飼育している動物がいるということは、入居者の数だけ動物もたくさん居るということなので、感染症の蔓延や、飼い主の不十分なしつけによるトラブルも起こりやすくなります。
そういった事態を回避するために、入居前には必ずペット審査が必要になるのです。
ペット審査では、以下のような内容が確認されているようです。
- ペットの種類、年齢など
- 血統書や獣医師の所見書
- 大きさの条件を満たしていることが確認できる書類
- 鑑札番号
- 狂犬病注射済証
- ワクチン接種証明書
- しつけの状況
- 避妊または去勢済みを証明する書面、またはそれが困難なことを証明する書面(特に猫)
- マイクロチップ挿入済みを証明する書面、またはそれが困難なことを証明する書面(特に猫)
- 飼育できなくなった場合の引取人届け
動物のことが好きな読者の皆さんは、狂犬病のワクチンや混合ワクチン、ノミやダニの予防などを行うことは当たり前だと思っている方が多いと思います。
しかし、動物病院で勤務していた私の経験上、動物に感染予防対策を講じている飼い主の方は思ったよりも多くありません。
完全室内飼いの猫であっても、飼い主である人間側が室内にノミやダニを持ち込むことだってあるのです。
そのため、猫に対してもノミ・ダニ予防やワクチンの接種を義務化している賃貸住宅もあるでしょう。
また、特に猫では避妊・去勢の有無をきちんと確認されることが多いようです。
避妊去勢手術を施していないと、万が一家から脱走してしまった際にその猫が妊娠してしまったり、他の猫を妊娠させてしまう可能性があります。
マイクロチップの挿入は現時点で飼い主の努力義務に留まっていますが、動物の逸走防止や個体管理の観点から、今後は義務化されていくでしょう。
これらの入居時の審査は、動物の状態を確認しているというのはもちろんですが、同時に飼い主の素質も問われているということを忘れないでおきたいものです。
メリット・デメリット
ペット共生住宅は、サービスの点においてはいい事ばかりです。
今まで解説してきたメリットをまとめると、以下のようになります。
- ペットととの暮らしに配慮された設備で、ペットも飼い主も快適に過ごせる
- ペットを飼育している入居者同士の交流が促進され、コミュニティが形成されやすくなる
- ペット飼育に関するルールが明確に定められており、トラブルを事前に防ぐことができる
- 悩みを解決できるサービスやセミナーが提供されることもあり、飼い主のマナーや知識向上に繋がる
入居者同士のトラブルも起きづらく、入居者・動物の質もいいので長期的に安定して住むことができるのです。
これは、入居者のみならず賃貸会社にとっても良いことですよね。
しかし、良いことばかりではありません。
ペット共生住宅にもデメリットとして挙げられる大きなウィークポイントが2点あります。
まずひとつは、なんといっても金銭面。
一般の賃貸よりも家賃や敷金、礼金は高くなってしまいます。
もうひとつは、まだペット共生住宅が浸透しておらず、物件数が圧倒的に少ないという点が挙げられます。
デメリット①お金はどれくらい高くなる?
家賃は通常の価格帯よりも2割増し程度になる場合が多いようです。
それは、住宅自体の設備に通常以上に費用をかけていることや、さまざまなサービスを提供しているなどの理由が挙げられるでしょう。
健康相談やしつけ相談などは会費制などにして別途代金を支払うケースもあると思います。
敷金や礼金は場合によって様々ですが、家賃の3ヶ月程度が必要になる場合もあるといいます。
また、ペット飼育可物件でも同じだとは思いますが、ペットが与えたダメージが大きい場合は退去後に支払わないといけない原状回復費用も高い場合が多いです。
動物を飼っている時点で食費や医療費などかなりお金がかかるものですが、より住みよい場所を選ぼうと思うとそれなりの覚悟が必要です。
デメリット②物件数が少ない
冒頭で申し上げたとおり、ペット飼育可物件は年々増加傾向にあります。
しかし、ペット共生住宅となるとまだまだ浸透していないのが現実です。
都心では数が増えてきていますが、主要都市から一歩足を踏み出すと、ペット共生住宅を見つけることは難しいでしょう。
2024年12月現在、ペットホームウェブという賃貸情報サイトに掲載されている地域ごとのペット共生住宅の数は、以下のようになっています。
北海道・東北 | 甲信越・北陸 | 関東 | 東海 | 関西 | 中国・四国 | 九州・沖縄 | |
ペット共生住宅の掲載数 | 1 | 0 | 26 | 2 | 55 | 0 | 0 |
このように、関東や関西に物件数が集中しており、その他の地域ではかなり物件が少ないということが分かります。
しかし、こちらはほんの一例なので、もっと探してみるとペット共生住宅は他にもたくさんあるでしょう。
ただ今回、全国の物件を調べるに当たって複数の賃貸住宅検索サイトを見てみましたが、実際のサービスはペット可物件程度であるのにも関わらず、ペット共生住宅としてヒットする場合が多々ありました。
賃貸住宅検索サイトによってペット共生住宅の定義が異なっているように感じるので、自身が本当に望んでいるものなのか入念なチェックをすることをお勧めします。
今回参考にさせて頂いたペットホームウェブはペット飼育を前提とした住宅を検索できるサイトで、私自身も初めて利用したのですが、このようなサイトがあるということは、やはり”ペットとのより良い暮らし”はひとつのコンテンツになっているのだなあと実感しました。
まとめ
ペット共生住宅は、まだまだ発展途上の分野です。
現時点では今回紹介した設備がすべて整っている場合はほとんどありませんし、実際の物件を見て思っていたものと違うかった、と感じることも少なくないでしょう。
しかし、こんな家があったらいいな、が徐々に現実的になっているのは確かです。
ペット共生住宅の普及が進むことによって、今までペットを飼育することによって巻き起こっていた近隣トラブルは徐々に解消されていくでしょう。
また、賃貸住宅が提供する各種のサービスによって、飼い主への教育にも繋がるという点に、とても大きな社会的意義を感じました。
更に、悩み相談室のようなサービスの提供の場が新たにできるということは、動物のプロフェッショナルとして働いている人々が活躍できる場も更に増えていくということではないでしょうか。
入居者目線でペット共生住宅というものが魅力的だなと思うのはもちろんのこと、そういった動物に関わる仕事の選択肢が増えていくということがとても嬉しく思います。
また、貸主の方にとっても、駅から遠いなどデメリットに感じられる物件をペット共生住宅にすることにより、空室不安が解消されるなどの利点があります。
もちろん金銭的な面などでデメリットも存在しますが、需要と供給のバランスを取りながら、今後はペット共生住宅というものが徐々に拡大されていくものと思います。
ペットを飼う人、飼わない人がそれぞれ心地よく暮らせるような住宅づくりが更に進むことを期待するばかりです。