「昔と比べて野鳥が少なくなった」
「ツバメやスズメをみることが減った」
そのように聞いたり感じたりしたことはありませんか。
実際に、取り巻く環境が変化したことで野鳥の生息域が変化したり、数が減少したりしています。
何が原因で、野鳥の棲み処が変わってしまったのでしょうか。
また、数が減少していく野鳥を保護するために、私たちにできることはあるのでしょうか。
今回は、消えた野鳥を追って、野鳥を守るための方法を検討していきたいと思います。
身近な野鳥が自然から追いやられている
スズメやツバメといった、私たちの身の回りに当たり前のように飛んでいた野鳥の数が、事実として年々減少しています。
これらの野鳥は、日本の木造建築の家屋や、日本人が営む農業をうまく活用して生息してきました。
しかし、現代では家屋は木造からコンクリートの造りに変わり、田舎であっても農業離れが進み、耕作放棄地が増えたり、埋め立てて宅地にしたりする場所が多くみられます。
そうやって少しずつ、身近な野鳥の棲み処は奪われてきたのです。
また、温暖化やエサの減少なども、野鳥減少の要因としてあげられます。
2021年、環境省によって全国鳥類繁殖分布調査が行われました。
その調査の結果から、1990年代から2020年にかけて、観測地においてどのような野鳥がどれくらい増減しているのかがわかります。
鳥名 | 増減(%) |
ガビチョウ | 1306.7 |
ソウシチョウ | 316.7 |
カワウ | 194.2 |
キバシリ | 193.8 |
サンショウクイ | 151.6 |
ヨタカ | 126.3 |
ヤマゲラ | 105.1 |
サンコウチョウ | 101.5 |
アオバト | 94.9 |
アカショウビン | 82.5 |
クマゲラ | 66.7 |
コサメビタキ | 65.6 |
フクロウ | 60.0 |
クロジ | 59.8 |
キビタキ | 57.8 |
鳥名 | 増減(%) |
コアジサジ | -74.6 |
アマサギ | -67.5 |
コサギ | -61.1 |
ゴイサギ | -60.6 |
ハイタカ | -60.4 |
ササゴイ | -55.6 |
バン | -51.7 |
ハリオアマツバメ | -50.0 |
オナガ | -48.5 |
アマツバメ | -42.1 |
コヨシキリ | -42.0 |
ビンズイ | -41.1 |
ヤマセミ | -37.8 |
イソシギ | -35.9 |
コシアカツバメ | -34.3 |
大幅に数を増やした野鳥もいますが、ツバメはどの種類も減少しています。
おもに身体の小さな、つつましく生活してきた野鳥が減少しているのです。
人と共生してきた野鳥
じつは、人に近いところで生息してきたスズメやツバメ、カラスなどの野鳥も減少しています。
スズメやツバメ、カラスについて詳しくみていきましょう。
スズメ
スズメは、家屋や建物のすき間などに巣を作り、人のすぐそばで生活を営みます。
雑食性で、虫や穀物などを食べ、秋にはせっかく実ったお米を食べてしまうことから、農家にはあまり好かれない生き物です。
スズメは、昔と比べてどれくらい減ったのでしょうか。
2009年には、研究者によって1990年ごろと比較すると2~5割程度に、1960年ごろと比べると現在は1割程度にまで減少している可能性があると発表されています。
参照:J-STAGE|日本鳥学会誌|日本におけるスズメの個体数減少
- 水田や草地などの餌場の減少
- カラスや猛禽類による捕食の増加
- 都市部から空き地が減ったこと
- 感染症などの病気 など
スズメの数が約50年前と比べて激減していることに対して、研究者の間でも意見が分かれています。
- スズメの数が激減したといっても元々の母数が大きかったため、あまり心配はいらない
- スズメの数を正確に把握できているわけではないため、突然絶滅の危機に瀕することがないよう、警戒を怠らないべき
どちらの意見が正しいかという判断は難しいのですが、スズメの数をモニタリングし、数が減少した原因を突き止めることが重要であるといえます。
ツバメ
日本には、人が住む家屋に営巣するツバメのほかに、山間部に営巣するイワツバメ、河川や海岸沿いに営巣するコシアカツバメの三種類がいます。
日本野鳥の会の調査によると、大阪府吹田市に見られたツバメの営巣は、1998年と2010年の調査で、約三分の一に減少したことがわかりました。
参照:日本野鳥の会|ツバメの現状
- 自然豊かな里山や農耕地の減少
- 和風家屋の減少
ツバメは、家屋の軒先などに営巣します。
しかし、近年の洋風の家屋では営巣できる場所が少ないために、数を増やすことができないのではないかと考えられています。
カラス
日本で有名なカラスといえば、ハシブトガラスとハシボソガラスです。
どちらも全身真っ黒ですが、この二種類は名前の通り、嘴(くちばし)で見分けることができます。
嘴の根元から先端まで、がっしりとした太さを持つのがハシブトガラス、嘴が先端に行くにつれて細くなり、体全体もハシブトガラスに比べてスリムなのがハシボソガラスです。
ハシブトガラスはそのがっしりとした身体つきからわかるように、たくましさを兼ね備えます。
元々は森林や山間部を中心に生息していましたが、近年は都会でも多くみられるようになりました。
ハシブトガラスは樹上に巣を作りますが、都会にはなかなか高い木がありません。
そのため、街路樹や電柱に営巣し、雛を育てます。
また、ハシブトガラスは雑食で、人が出す生ごみも彼らにとっては重要なエサとなります。
人が生活している以上生ごみは必ず発生するため、ハシブトガラスは人が多い都会の方がエサを得る機会も多くなるのです。
好奇心旺盛で都会でもたくましく生きていくことができるハシブトガラスの個体数は増加しています。
数が減少しているのは、ハシボソガラスです。
ハシボソガラスの生態は、スズメとよく似ています。
農村地域で人のそばで生活し、作物や虫、果物などを中心に食べます。
高い知能を持ち、作物を食べてしまうことから迷惑がられる存在でもありました。
ハシボソガラスは、平地の林に巣を作ります。
神社のそばにある小さめの森や竹藪などがその例です。
これらの場所は、農地が開けて都市化が進むと、どんどん数を減らしていきました。
巣を作る場所が減り、さらに数が増えたハシブトガラスに追いやられてしまい、ハシボソガラスの個体数は減少しているのです。
野鳥を取り巻く自然環境の変化
野鳥は、自然環境の変化によって生息数が変化しやすい生き物です。
環境の変化に敏感であるため、毎年営巣している場所でも、「ここで子育てや生活するのが難しい」と判断すれば、すぐに棲み処を変えてしまいます。
その要因は、人間による開発だけでなく、温暖化やその地域全体の生態系の変化も影響しています。
野鳥を追いやる人間の活動とは
野鳥をはじめとする自然に変化を与える人間の活動は、「開発」「放置」「介入」の三種類です。
「開発」とは今ある自然に人が手を加えることによって変化をもたらすことです。
具体的には、以下のような行為が開発にあたります。
- ソーラーパネルを設置するために山を切り開く
- 氾濫を防ぐための護岸工事をはじめとする河川の改修
- 道路や宅地の建設・市街地の形成
- 飛行機が離着陸するための滑走路の建設 など
「開発」と真逆の位置にあるのが「放置」です。
戦前の日本は、ほぼ完全な循環型社会が形成されていました。
一部の都市を除き、人を含んだ生態系として自然が成り立っていたのです。
しかし、経済が豊かになるにつれて人は里山から離れていき、それまで管理されていた山や田畑が放置されると、それまで人の生活に依存していた生き物が生きられなくなってしまいます。
田畑の放置以外にも、
- 木々の成長を助ける適度な間伐
- 食性が共通するイノシシやシカなどの活動を抑圧する農業や狩猟
これらの活動も、適切な生態系を維持するには必要なことです。
人間がこれらの行為を行わなくなったことによって、森では日が差し込まなくなるために背が高くなる木が育たず、低木や草などが生い茂ります。
そうすると、野鳥の棲み処がなくなってしまうのです。
そして最後に「介入」です。
「介入」とは、
- 土壌を豊かにするための肥料の投下
- 外来種の持ち込み
- 乱獲
などが該当します。
元々あった生態系に、それまでなかったものを持ちこむことによって、急激な変化が起こります。
生態系や食物連鎖のバランスが短期間で壊されてしまい、たいていの場合はそこにもともと住んでいた生物が棲めなくなってしまうのです。
経済が良くなって人の生活が豊かになることは、決して悪いことではありません。
しかし、それはあくまで人目線でのお話しです。
人を含む生態系全体のバランスを取ることが、野鳥をはじめとする動植物を守ることにつながるのです。
絶滅危惧から保護された野鳥
人間の活動や温暖化などの影響で、絶滅の危機に面したり、実際に絶滅してしまった野鳥は日本にもいます。
続けてお話しするのは、絶滅危惧種となりながらも、保護されたことで個体数が回復した野鳥です。
タンチョウ
いわずと知れたツルの一種です。
タンチョウの個体数は世界中でも3,000羽ほどと決して多くなく、そのうちの約半分が北海道の東部の湿原で生息しています。
タンチョウの個体数の減少は、人が北海道を開拓する以前には見られなかったものが多くの原因でした。
乱獲されたり交通事故に遭ったり、電線に絡まったり衝突したりして、亡くなってしまった個体が多くいるのです。
タンチョウの保護活動は、じつはかなり昔から取り組まれていました。
戦後すぐの1951年(昭和27年)には国の特別天然記念物に指定され、阿寒町や鶴居村での給餌が実施されていたことが記録に残っています。
この当時は、タンチョウの北海道内の個体数は100羽を大幅に切っていたのです。
環境庁によるタンチョウの保護事業は1984年からスタートしました。
保護事業の甲斐あって、2000年以降は個体数を1,000羽以上にキープできています。
参照:数学教育学会誌|タンチョウの個体数変化とロジスティック曲線
コウノトリ
コウノトリは、翼を広げると2mほどの大きさになる渡り鳥で、湿地で生活する野鳥です。
じつは、日本国内に生息していた野生のコウノトリは、1971年に絶滅していることをご存じでしょうか。
江戸時代までは、日本各地でコウノトリの姿をみることができました。
しかし、明治時代以降の乱獲が原因で数が減少し、その後も営巣地の破壊や農薬の使用によって数は減り続けました。
1965年には、国内に野生のコウノトリはたった12羽しか確認できなくなっていました。
人々は何とかコウノトリの数を増やそうと保護して人工飼育に取り組みましたが、1971年、野生最後の1羽が保護された後に亡くなってしまったのです。
人々はその後、なんとか日本国内にコウノトリを復活させたいと活動し、何とか繁殖と人工飼育に成功します。
1999年にはコウノトリの野生復帰を目指し、兵庫県立コウノトリの郷公園を開園しました。
その後、順調に数は増え、2002年には飼育数が100羽を超え、2017年には野外個体数が100羽、2020年に200羽、2022年には300羽を確認することができています。
もう少し早く保護に取り組めていたら、国内の絶滅は回避できたかもしれません。
ライチョウ
ライチョウは、高山部に生息する野鳥です。
日本アルプスを中心に生息しており、目撃することはほとんどないでしょう。
信州大学の調査で、1980年代には3,000羽ほどいたライチョウは、2000年代には2,000羽程度に減少していると報告されています。
ライチョウの数が減ってしまったのは、温暖化が大きな要因だと考えられています。
温暖化によって、以下のようなことが起こりました。
- 捕食者であるカラスやキツネの生息域の拡大
- ライチョウと同じエサを食べるニホンカモシカやニホンザルの生息域の拡大とそれによるエサの減少
- それまでなかった感染症の発生
- 登山客の増加による生活環境の劣悪化
ライチョウの本格的な保護がスタートしたのは、2015年と最近です。
現在は、国内の6つの動物園で飼育と繁殖に挑戦しています。
トキ
トキの学名はNipponia nippon、日本の象徴のような鳥です。
コウノトリ同様、やはり江戸時代までは多くの個体が生息していました。
明治時代になると羽毛を求めて乱獲され、それ以降は繁殖地の破壊や農薬によるエサの減少などが原因で、数が激減してしまいます。
トキの保護は、比較的早くから取り組まれていました。
1967年、新潟県佐渡市にトキ保護センターが作られ、保護・飼育を開始します。
しかし、トキの飼育・繁殖は容易ではありませんでした。
成果をあげられないままトキの数はどんどん減少し、そして、2003年に日本のトキは絶滅してしまいました。
その後、国内での野生復帰を、中国から貸与されたトキによって目指します。
諦めずに取り組んだ甲斐あって、2014年には野生下で60羽の定着を達成することができました。
トキの繫殖はようやく軌道に乗って、2023年には野生下で532羽が、国内の保護施設では約160羽のトキが確認されています。
中国から貸与されたトキは、ヒナが生まれて育つとその半数を返還する約束です。
2024年には、2016~2022年の間にトキ保護センターで生まれた16羽のヒナを返還し、ヒナたちは北京動物園での受け入れが決まっています。
野鳥保護のために私たちができること
自然が豊かであるかどうかを私たちに教えてくれるのが、野鳥です。
野鳥を守るために、私たちには何ができるのでしょうか。
野鳥保護のためにできることは、以下の活動です。
- バードウォッチングなどを通じた環境教育
- 保護活動の啓蒙
- 地域協力して保護区を設ける
- 自然環境を守る
難しく考える必要はありません。
例えば、野鳥は不慮の事故でけがをしたり亡くなったりすることがありますが、少しの努力でこのような事故は減らすことが可能です。
身近なこととして、海や山に出かけたときにゴミを持ち帰ること、釣り針や釣り糸が落ちていたら回収することも、保護活動につながります。
衝突事故が多い窓ガラスにはカーテンを引いたり、光を反射しないシートを張ったりすることで、鳥の衝突を避けることができます。
できることから取り組んでいきましょう。
野鳥保護のための法律
野鳥を保護するために、じつは多くの法律が制定されています。
- 鳥獣保護管理法
- 種の保存法
- 文化財保護法
- 自然公園法
- 自然環境保全法
- 生物多様性基本法 など
また、野鳥はその場所にとどまる種もありますが、季節によって海を渡って国をまたぐ種もいるため、野鳥保護には世界規模での協力が必要です。
- 生物多様性条約
- ワシントン条約
- ラムサール条約
- 二国間渡り鳥条約・協定 など
これらの条約によって、渡り鳥達は守られています。
野鳥保護活動をしている団体
日本で活動している野鳥保護団体を二つご紹介します。
1934年に創立された、野鳥に親しみ、自然環境の保全や人間性豊かな社会の発展を目的とする団体です。
日本野鳥の会では、以下の活動に取り組んでいます。
- 自然保護活動
- 自然観察・保護の普及活動
- 自然系施設の運営
- 収益活動
日本野鳥の会を支援するには、寄付や入会して会員になる、募金するなどの方法があります。
自然保護のため、自然公園などで調査や管理などを行う自然保護活動のプロ「レンジャー」の育成も行っており、養成講座を受けることが可能です。
日本鳥類保護連盟は、1947年に創立された団体で、鳥類をはじめとする野生生物の保護の普及と推進、生物多様性の保全を目的に活動しています。
調査や保全活動だけでなく、身近な活動として巣箱の設置指導やテグス拾いなども行っています。
また、渡り鳥の保護など国際的な協力が必要な事業について、海外での保護活動にも尽力している団体です。
支援するには、連盟への入会をはじめ、寄付やオンラインショッピングなどを利用することができます。
まとめ
野鳥は、自然保護のものさしとも呼ばれています。
野鳥がたくさん生息していることは、自然環境が豊かであることの証明なのです。
野鳥の減少がみられたときには、人は自分たちの活動を見直すべき時期なのではないでしょうか。
自分たちの都合で今ある自然を切り開いていないか、自然に必要以上の負荷をかけていないか、見直すためのよい機会といえるでしょう。
野鳥と人がうまく共存するために、そして自然を守るためにも、私たちは都度立ち止まり、行動を自分たち自身で管理する必要があります。