猫は、適切な生育環境であれば20年以上生きることも珍しくない生き物です。
しかし、屋外で暮らす野良猫は、四季の変化がある日本では、厳しい環境で生きていかねばなりません。
過ごしやすい春や秋以外に、夏は高温多湿、冬は夜間の気温が氷点下となるような、生き物にとっては備えがなければ辛い時期があります。
猫は砂漠地方原産の生き物で、寒さが特に苦手です。
生き延びるために、時には人間が手を差し伸べてあげることも必要です
今回は、地域で暮らす野良猫がどのようにして冬を越しているのか、また、野良猫が少しでも冬を快適に過ごせるように私たちにできることはないのか、方法を探っていきましょう。
取り組める範囲で、ぜひ実践してみてください。
野良猫はどうやって冬を越している?
寒さが苦手な猫は、冷たい風をしのげる場所や、少しでも温かい場所を探すのが得意です。
飼い猫は、ヒーターの前を占領したり、こたつの中から出てこなかったりと、家の中で温かい場所をよく知っています。
では、野良猫はどのような場所で冬の間過ごしているのでしょうか。
日中は、日が当たる暖かい場所で日向ぼっこをしたり、冷たい風をよけるために倉庫や屋根のある駐車場を利用したり、また、エンジンの熱で温かくなっている車やバイクのそばにいたりします。
場合によっては、車のボンネットの中に潜んでることもあり、冬場は注意が必要です。
また、エアコンの室外機や給湯器のそばなども、温かい風が出てくるため、野良猫が集まりやすくなります。
体熱を逃がさないようにじっと丸まって、または複数の猫が身を寄せ合って、冬の寒さに耐えているのです。
子猫やシニア猫にとって冬はとっても危険
日本の冬の寒さは、大人の猫でも体力を奪います。
身体の未熟な子猫や、体力が落ちているシニア猫、また持病がある野良猫にとって、冬の寒さは命を落としかねない問題です。
子猫は身体が小さいため、寒さに熱を奪われやすく、低体温症で亡くなる可能性が高くなります。
シニア猫は、徐々に筋肉が落ちるため、どうしても若いときと比較して代謝が低下します。
熱を作りにくくなって免疫機能も低下し、病気にもなりやすくなってしまうのです。
また、寒さによって筋肉がこわばり、関節炎を起こしやすくなります。
子猫やシニア猫を屋外で見かけたら、特に気にかけてあげましょう。
野良猫の寿命は何歳?
さいたま市によると、野良猫の寿命は平均して3~4年だといいます。
それに対して、飼い猫の平均寿命は、2024年の調査で15.92歳でした。
参照:さいたま市|猫は繁殖力の強い動物です
参照:一般社団法人ペットフード協会|全国犬猫飼育実態調査 Ⅲ.主要指標 サマリー
野良猫と飼い猫の平均寿命には、なんと、4~5倍近くの差があるのです。
この結果からだけでも、野良猫がいかに過酷な環境下で生活しているかがわかります。
飼い猫は、エサも寝床も確保されており、病気になればほとんどの家庭ですぐに治療に取りかかるでしょう。
しかし野良猫は、エサは人間の出すごみをあさるか、鳥やネズミ、虫などを捕まえて食べ、寝床は自分で探さなければなりません。
場合によっては縄張り争いで負けたり、人間に追い出されたりする場合もあります。
猫が寒さから身を守る仕組み
猫自身は、体温を保つためにどのような仕組みがあるのでしょうか。
一般的な猫の毛は、ダブルコート構造になっており、ある程度の防寒機能はあります。
さらに毛を逆立てて空気の層をつくり、身体を丸めて熱を逃がさないようにして、寒さから身を守るのです。
また、人間と同じように、身体を震わせて熱を作り出そうとします。
しかし、もともとが砂漠地方原産の生き物であるため、犬などに比べると寒さへの耐性は弱いといえます。
猫が寒がっているサインは?
猫が寒がっているときには、以下のような様子がみられます。
- 食欲不振
- 頻繁になく
- 姿を隠す
- 毛づくろいの回数が少なくなる
普段と様子が違う、動こうとしないといったときには、猫が寒さを感じている可能性があります。
寒さから体調を崩していないか、気にかけてあげましょう。
冬の寒さで引き起こされやすい病気は?
猫は、寒さによって活動量が低下することで、以下のような病気や症状を引き起こしやすくなります。
- 風邪(咳、鼻水、くしゃみ、目ヤニなど)
- 消化不良(食欲不振、嘔吐、下痢)
- 尿路結石
- 膀胱炎
- 便秘
- 皮膚炎
- 低体温症
寒さによって体力が低下することで免疫機能も低下し、風邪をひきやすくなります。
風邪が悪化して発熱したり、肺炎へと発展したりする可能性もあるため、早めの治療が肝心です。
猫は、腎臓の病気を発生しやすい動物です。
寒くなると水を飲む量が減ることで、尿量が減ったり、尿が濃くなったりします。
水を飲む量が減ることで、便秘にもつながります。
また、乾燥から皮膚トラブルも発生しやすくなるため、注意が必要です。
地域の野良猫を寒さから守るために私たちにできること
野良猫たちが少しでも快適に冬を越せるように、私たちにできることがあります。
おうちにあるものを活用することで、お金をかけずに対策できるため、できることから取り組んではいかがでしょうか。
今回は、4つの方法をご紹介します。
防寒ハウスを作ろう
段ボールや大きめの発泡スチロールの容器を使って、簡易的にできる防寒ハウスをつくることができます。
用意するものは、
- 段ボールもしくは大きめの発泡スチロールの容器
- 毛布
- (あれば)使い捨てカイロ
- ガムテープ(補強が必要な場合)
作り方はいたって簡単で、段ボールもしくは発泡スチロールに、猫が出入りしやすいように入口を作り、その中に毛布や使い捨てカイロを入れるだけです。
防寒ハウスは、設置する場所に気をつけてあげましょう。
人目につきやすい場所だと、猫が警戒して入らない場合があります。
人目につきにくい猫が隠れやすい場所、またはいつも猫が集まっているような場所に設置します。
冬場は風が強い日も多いため、飛ばされないような場所に置くか、中に重しを置くなどの工夫をしましょう。
段ボール製の防寒ハウスは、雨や霜に濡れない場所を選びます。
数日設置してみて使っている形跡がなければ、設置する場所を移動させることも考えます。
また、使い捨てカイロを入れる場合は、毎日取り替えてあげることが必要です。
ビニールハウスは、冷たい雨風を防げるだけでなく、保温性にも優れています。
ご自宅等に園芸用の小さなビニールハウスがある方は、ビニールハウスを防寒ハウスとして利用することも可能です。
日当たりがよい場所に置いてあげることで、猫にとって過ごしやすい空間となります。
ハウスの中の一隅だけでも解放してあげると、野良猫が利用できるでしょう。
毛布の設置
倉庫や車庫などの屋内であれば、毛布を設置してあげるだけでも防寒になります。
その際、床に段ボールや発泡スチロールなどを敷いてあげると、床からの冷気を遮断してくれます。
また、冬はエサの確保も難しくなる時期です。
可能であれば、毛布のそばに水やエサなども置いてあげましょう。
猫バンバン
冬に気をつけたいのが、車やバイクの暖気を利用して温まろうとする猫です。
車の下にいて逃げなかったり、ボンネットの中で眠っていたりする場合、気づかずに車を発進させると動力部に巻き込まれてしまい、猫がケガをする原因になりかねません。
走行中はエンジンをはじめボンネットの中はかなりの高温になり、死亡事故にもつながります。
また、猫が事故に巻き込まれてしまうことで、エンジンの故障にもつながり、修理代が必要になることもあります。
冬の間は、車のエンジンをかける前に、ボンネットを叩いて猫を逃がす習慣を心がけましょう。
叩く際は、軽く音がする程度で構いません。
あまり強くたたいて驚かせてしまうと、特に子猫の場合、さらに奥深くへ侵入して、出られなくなってしまうこともあります。
ちなみにこの「猫バンバン」は、日産自動車が発祥で、登録商標されています。
猫がボンネットに入り込んでいる頻度
JAFによる報告によると、2023年12/1~12/31の期間に、猫がエンジンルームに入り込んで救援要請を受けた数は、全国で24件にも上りました。
雨の日や風が強い日などは、猫の泣き声や動いたときに発生する音が聞こえにくくなるため、特に注意が必要です。
ドライバーは、「まさか入り込んでいないだろう」と思わず、出発前にボンネットを軽くたたく習慣を身につけましょう。
参照:JAF|猫がクルマに入り込んでしまったトラブル1カ月で24件! 1年通して発生するトラブル、暖かくなっても引き続きご注意を!
冬だけでなく年間を通して注意が必要
じつは、猫がエンジンルームに入り込んでしまったとの救援要請は、冬だけではありません。
同じくJAFの報告によると、もっとも救援要請が多かったのは6月で、なんと343件でした。
これは、12月のおよそ14倍にあたります。
この時期は、子猫が活発に動き回る季節です。
身体の小さな子猫が車の中に入り込んでしまい、動けなくなって泣き声をあげて気づくことが、意外と多くあります。
保護も検討する
ご自宅等で猫を飼育できる環境が整っているのであれば、野良猫を保護してあげるのもよいでしょう。
野良猫が安全かつ健康に暮らすには、よりよい方法です。
保護する際に無理矢理連れてくると、その後の脱走につながりかねません。
いきなり捕まえるのではなく、エサやりなどを利用して少しずつ慣らして、野良猫にこの人は安全だと理解してもらってから、保護に踏み切ることが重要です。
保護したあとも様子をみて、必要に応じてゲージを利用するなど、野良猫と信頼関係を築けるようになるまでは、脱走しないように気をつける必要があります。
野良猫は、思わぬ病気を持っていることも考えられます
落ち着いたころをみて動物病院で検査を受けるとともに、検査結果が出るまでは、ご自宅等で先住のペットがいる場合は感染に気をつけましょう。
動けなくなっている猫を見つけたら
野良猫が冬場にぐったりと動けなくなっていたら、低体温症や風邪・肺炎、空腹などが原因として考えられます。
なるべく早い対処が必要です。
ご自身で対応できるとき
安全な場所に移動させ、毛布やバスタオルなどでくるんで、温めてあげましょう。
使い捨てカイロなども利用できます。
ご自宅に連れて帰れる場合は、電気カーペットやヒーターなどを利用するか、猫を濡れないようにビニールなどでくるみ、温めたお湯で保温する方法もあります。
この際、猫が驚いて暴れたり、爪でひっかいたりしないよう、注意が必要です。
目ヤニや鼻水などで顔が汚れていたら、やさしくふき取ってあげましょう。
必要に応じて水や、お湯でふやかしたドライフードなどを与えます。
猫によっては食べない場合もあるので、無理に食べさせる必要はありません。
その後は、なるべく早く動物病院で検査・治療をしてもらいましょう。
また、冬場はエサが少なくなる時期でもあります。
空腹や栄養失調で動けなくなっている場合もあるため、ペースト状のエサなど、食べやすいものを与えてみましょう。
自力で食べることが難しい場合は、動物病院で処置をしてもらいます。
空腹が長く続くと低血糖を引き起こす場合があります。
- 震え
- 動悸
- パニックになるなど
- ぐったりする
- 痙攣する
- 失神
- 自力で動けなくなる など
これらの症状がみられたら、猫にとって危険な状態です。
なるべく早めに動物病院に連れて行きましょう。
ご自身での対応が難しいとき
ご自身で野良猫の対応が難しいときは、地域の野良猫の保護団体や保健所、動物愛護センターなどに連絡して、保護してもらいましょう。
いずれかの家で飼育されている猫の場合は、これらの連絡先では対応が難しくなるため、飼い主に連絡することが必要です。
まとめ
私たち人間にとっても、日本の冬は厳しいものです。
人間は温かい建物の中で、温かな食事をお腹いっぱい食べることができますが、野良猫は毎日が生きるか死ぬかの環境でもあります。
冬の寒空の下でたくましく生きている野良猫に、少しでも快適な環境で過ごしてもらいたいものです。
ほんの少し私たちが手を加えるだけで、救える野良猫の命があります。
今回ご紹介した野良猫の防寒の方法は、どれも簡単で、費用も掛からないものばかりです。
無理な押し付けはしませんので、ぜひ取り組めるものがあれば実践してみてください。