野犬増加の原因?猟犬の遺棄・保護問題を知って適切な飼育につなげよう

猟犬の群れ
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日本では、年間2万頭以上の犬が保護や引き取りをされ、そのうち約2500頭が殺処分されています。

飼育が難しくなって保健所に持ち込まれるケースもありますが、保護される犬の多くは野犬や野良犬です。

野犬と野良犬はじつは別々に区別されていて、野犬とは野生化した犬を指し、人とほとんど接触することなく、自分で狩りをしながら生活している犬です。

それに対して野良犬は、人が暮らす場所でエサをもらったり、残飯をあさったりしながら生活しています。

毎年多くの犬が保護されているのに、なお野犬や野良犬の数が減少しないのはなぜでしょうか。

野犬は、もともと山森に住みついていた犬もいますが、飼育放棄によって野生化した飼い犬が繁殖することも、少なくありません。

なかでも猟犬は、狩りをするために訓練された犬であるため、厳しい生育環境であっても生き残る可能性が高くなります。

じつは、猟犬が人間のパートナーとして狩りを共に行える期間は限られています。

狩りができなくなった猟犬を遺棄することで、野犬の増加につながっているのです。

狩猟が盛んな地域の犬の保護センターでは、犬舎が猟犬や猟犬から派生した野犬でいっぱいになることも珍しくありません。

猟犬や野犬は、人慣れさせるためのリトレーニングが重要で、譲渡するまでに時間がかかってしまうことも事実です。

今回は、猟犬の遺棄と、保護された場合の問題について説明します。

目次

止まない放置!猟犬が遺棄される理由

じっとこちらを見る猟犬

猟犬は、狩猟において獲物の位置を知らせてくれたり、獲物を追い込むのを手伝ったり、また仕留めた獲物を回収したりと、狩猟において欠かせない役割を持っています。

安全性を高めながら、成功率の高い狩猟を行うには、猟犬の存在は欠かせないといってよいでしょう。

では、なぜ猟犬の遺棄や放置が行われるのでしょうか。

猟犬が遺棄・放置される理由は、以下のとおりです。

  • 病気やケガ
  • 高齢化
  • 狩猟シーズンの終了

病気やケガが原因で狩猟の役目をうまく果たせなくなることや、猟犬の高齢化によってそれまでのような動きができなくなることは当然あります。

そのような場合、一部のハンターは動けなくなった猟犬を飼育し続けるよりも、新しい猟犬を手に入れるほうが、効率がよいと考えるのです。

また、狩猟シーズンが終わった場合や、ハンターが狩猟を続けなくなった場合にも、猟犬が遺棄・放置される場合があります。

これらの行動は、猟犬を家族やペット、大切なパートナーとしてみているのではなく、「狩猟のための道具」としてしか認識されていないことが原因として考えられます。

また、猟犬をペットとして飼育する難しさも、遺棄・放置の一因です。

猟犬をペットとして飼育することの難しさ
  • 鳥や小さな犬などをみると本能的に追いかけてしまう
  • 人に対して馴れていることが少なく、安易に触るとケガをさせる可能性がある
  • 身体の大きなサイズであることが多く、運動量が必要
  • 室内での飼育に対応させるのが難しい場合がある

猟犬が追ってこないように捨てられている問題

猟犬が遺棄・放置される際に、ハンターが脚をわざとケガさせたり、エサに毒を混ぜて弱らせたりする場合があります。

これは、運動能力の高い猟犬が、飼い主を追ってくることができないようにするために行われています。

残酷なようですが、一部のハンターにとって猟犬は使い捨ての道具としかみられていない事実があるのです。

猟犬として活躍できる期間は短い

獲物のそばで待機する猟犬

犬の健康寿命から考えると、5年前後、長くても10年に満たない期間が一頭の猟犬が活躍できる期間といえるでしょう。

狩猟で使用される、一般的な中型犬や大型犬の寿命は13~14年程度です。

しかし、犬が活動的に行動できる期間は限られています。

一般的に、中型犬では6~7歳、大型犬では5歳を過ぎたころからシニア期に入り、8歳を過ぎると高齢犬として扱われます。

犬によって個体差はありますが、シニア期に入ると少しずつ目が見えなくなったり、筋肉が衰えてきたりします。

また、猟犬はすぐに活躍できるわけではありません。

安全かつ効率的に狩猟をサポートできる猟犬として活躍するには、トレーニングが必要です。

十分なトレーニングを積んで、指示に従った動きができるようになって、狩猟に同行することができます。

子犬から飼育していた場合、生後6ヶ月を過ぎたころから狩猟犬としてのトレーニングを開始し、先輩犬について行きながら狩猟デビューするのが1歳を過ぎたころです。

年々犬の寿命は延びていますが、健康的に活動できる期間は、実は限られているのです。

日本における狩猟シーズン

日本では、狩猟のシーズンは決まっています。

通常は、

  • (本州以南)11月15日~翌2月15日
  • (北海道) 10月1日~翌1月31日

のそれぞれ3ヶ月です。

有害鳥獣駆除の期間は10月~翌4月までと7ヶ月間ありますが、すべてのハンターが参加するわけではありません。

これ以外の期間、猟犬は、もちろんトレーニングは継続しますが、おうちでは普通の飼い犬として暮らします。

遺棄された猟犬が野犬を増やす原因に

立ち尽くす犬

犬は、生命力の強い生き物です。

ハンターが山林に遺棄・放置した猟犬が繁殖することで、野犬が増加する原因となります。

犬の繁殖力は強く、大型の犬ほど一度の出産で多くの子犬を産む傾向が高いのです。

中型犬以上のサイズであれば、一般的に、一度に6頭以上出産します。

犬の繁殖期は一般的に年に2回で、中型犬以上の大きさであれば、生後1年もすれば出産が可能になります。

ネズミ算式に、とまではいわずとも、どんどん数が増えていくのです。

どんな犬が猟犬として使用されている?

獲物を回収する猟犬

猟犬には、獣猟犬と鳥猟犬の2種類があります。

獣猟犬

イノシシやシカ、クマなどを狩猟する場合にパートナーとなる猟犬です。

獲物と一定の距離を置きながら追跡して、ハンターにその位置を知らせるのが獣猟犬の役割です。

賢く勇敢で、活動的な品種が多くみられます。

獣猟犬は大きく2つのタイプにわけられます。

一つはサイトハウンドで、視覚に頼って獲物を追う犬種です。

もう一つはセントハウンドで、嗅覚に頼って獲物を追います。

鳥猟犬

鳥猟犬は、カモやヒヨドリ、キジなどの鳥を狩猟するときにパートナーとして活躍してくれる猟犬です。

鳥猟犬は、吠えて場所を知らせるよりも、静かに伏せて獲物の場所をハンターに教えてくれます。

鳥猟犬は、役割によって4つのタイプにわけられます。

①ポインティング・ドッグ(獲物の位置を教える)

②レトリーバー(獲物を回収する)

③フラッシング・ドッグ(茂みから獲物を追い立てる)

④ウォータードッグ(水辺の猟・漁のサポートをする漁)

一頭の犬が複数の役割をこなす場合もあります。

代表的な獣猟犬

代表的な獣猟犬は、以下のような犬種です。

【洋犬(ハウンド)】

  • アイリッシュ・ウルフハウンド
  • ウィペット
  • サルーキ
  • ジャック・ラッセル・テリア
  • ダルメシアン
  • ビーグル
  • ボルゾイ
  • ブル・テリア など

大型の獣猟犬はイノシシやシカ猟に、小型・中型の獣猟犬は、アナグマや野ウサギ猟などで活躍します。

洋犬の特徴として、よく吠えることがあげられます。

【和犬】

  • 和犬
  • 柴犬
  • 甲斐犬
  • 紀州犬
  • 秋田犬
  • 北海道犬
  • 四国犬

日本古来の和犬の多くは、猟犬として歴史がある品種が多いのが特徴です。

和犬の特徴は、獲物を見つけるまで吠えないこと、忠誠心が高いことなどがあげられます。

代表的な鳥猟犬

代表的な鳥猟犬は、以下のような犬種です。

  • イングリッシュ・ポインター
  • イングリッシュ・セッター
  • コーイケルホンディエ
  • ゴールデン・レトリーバー
  • ブリタニー・スパニエル
  • ラブラドール・レトリーバー
  • ワイマラナー など

鳥猟犬は、賢くフレンドリーで、家庭犬としても愛される穏やかな品種が多いのが特徴です。

ただし、子犬の頃から鳥をみると反応して追いかけようとするなど、狩猟に対する意欲が高いため、しつけをしっかりと行う必要があります。

猟犬として活躍するための訓練

トレーニング中の猟犬

猟犬には、守らなければならないルールと、最低限覚えなければならないルールがあります。

猟犬として必須のルールは、獲物を咬んではいけないこと、追うこと・待機ができること、指示に従って戻ることの三つです。

獲物を咬んではいけない

猟犬を使用した狩猟にあたり、法令で禁止事項が決められています。

猟犬に獲物を咬みつかせることのみによって狩猟をすること、そして、犬に咬みつかせて獲物の動きを止めて、決められた狩猟方法以外で獲物を仕留めることの二つです。

この法令が制定された背景は二つあります。

  • 猟犬が人を襲う可能性を低下させるため
  • 狩猟免許を持っていない者が猟犬を使用して狩猟を行うことを防止するため

猟犬は、獲物を見つけても興奮して飛びかかっていかないよう、訓練する必要があります。

参照:環境省|対象狩猟鳥獣の捕獲等の禁止又は制限を定めることについて

追うことと待機することが指示に従って行える

効率よく狩猟を行うには、ハンターの指示に的確に従うことが必要です。

獲物を見つけたからといって、一目散にかけていくようでは困ります。

的確に待機ができないと、獲物だけでなく人間や飼い犬を襲ってしまう可能性にもつながります。

追うときには追う、待機するときには指示があるまで待つ、この二つの動きをメリハリよく行えるよう、訓練することが大切です。

指示に従って戻ることができる

犬笛などの合図によって、ハンターのもとに帰還することも、猟犬に求められる能力です。

この指示がきちんと守られないと、猟犬が獲物を追いかけて行ったまま戻ってこないというトラブルが生じます。

場合によっては、猟犬が迷子になってそのまま置き去りにされるケースもあるのです。

この傾向はハウンド種に多くみられます。

日本で昔から狩猟に使われてきた和犬は、洋犬と比較すると飼い主のもとへ帰ってくる帰家性が強いのが特徴です。

子犬の訓練はいつから?

子どもと走る子犬

基本的なしつけ自体は、子犬が小さなころから実施してかまいません。

生後3か月を過ぎたころからが、子犬自身がいろいろなことを身につけていきやすい時期とされています。

猟犬としての訓練を始めるには、ある程度身体が出来上がってからの方が、ケガなどのリスクを回避することができます。

その子の体力や成長に合わせて訓練を実施しましょう。

猟犬育成を専門にしている訓練所もありますので、利用するのも一つの手段です。

保護された猟犬はすぐ譲渡できる?

こちらを見つめる猟犬

保護された猟犬をすぐに譲渡できるかどうかは、それまでの飼育環境や生活環境を考慮して判断されます。

よく人慣れしている場合には、比較的早期に譲渡可能となるでしょう。

一般的に猟犬は、よく吠えたり、咬みつき癖があったりして、すぐに譲渡することが難しいのです。

十分にリトレーニングを実施してからでなければ、譲渡したあとに、飼い主やその家族、また周囲の人や犬などに咬みついたり、脱走してしまったりといった原因になります。

猟犬の攻撃性を自制・コントロールできる状態にして、譲渡する必要があります。

引き取った後は、その子のペースに合わせて生活してあげることも大切です。

猟犬は「ペット」とは一線を画します

走るボルゾイ

保護された猟犬を家庭で飼育する場合は、家庭環境が整っていなければ、飼育が難しいことがあります。

猟犬は、もともと運動量の多い犬種です。

保護犬の飼育条件の一つに室内飼いが含まれることがほとんどですが、猟犬の場合、室内のみで過ごすと運動不足からストレスを感じてしまいます。

しっかりと運動量を確保できる環境が必要です。

また、運動能力の高さから、脱走防止の対策も行う必要があります。

猟犬を家庭犬として飼うにはしつけが大切

猟犬を家庭犬として飼育する場合は、万が一の事故がないよう、しっかりとしつけを行わなければなりません。

体格が比較的大きく、力も強い子が多いため、飼い主がしっかりと制御できなければ、お互い快適に暮らすことは難しいでしょう。

猟犬の飼い主のモラル向上をめざした取り組み

申請のための書類

猟犬が「使い捨て」されないよう、県や猟友会などは、さまざまな取り組みを実施しています。

たとえば、

  • 猟犬にマイクロチップを装着する補助金を出す
  • 狩猟者登録の際に飼育、また狩猟で使用する猟犬の頭数やマイクロチップ装着の有無などを確認する
  • 猟犬の放置・遺棄を防止するための呼びかけ(罰金があることを知らせるポスター制作)

などです。

参照:神奈川県HP|猟犬の適切な管理について

マイクロチップ装着の推進は、猟犬の遺棄・放置を抑制するとともに、万が一迷子になって保護された場合に、飼い主がすぐにわかるようにするための取り組みです。

猟犬を遺棄・放置した場合は、「動物の愛護及び管理に関する法律」違反となり、100万円以下の罰金が課せられます。

猟犬を放置する一部のハンターによって、さまざまな問題が起きています。

県や猟友会は、猟犬をパートナーとして、狩猟シーズンが終わっても遺棄・放置しないこと、終生飼養することを提言しており、良識あるハンターが猟犬を伴って狩猟に取り組めるよう、これからも管理体制を整えていくことが必要です。

まとめ

人のそばで待機する猟犬

人間の狩猟を助けるために活躍してくれている猟犬が、ハンターの身勝手な理由で遺棄・放置されることは、これからも厳しく追及していかなければならない問題の一つです。

法制度の厳罰化やマイクロチップ装着の義務化など、人間の努力によって予防できることはまだまだあります。

これから猟犬を飼育しようと考えている人には、猟犬の飼育の大変さ、狩猟の成功率をあげるだけでなく、事故を防止するための訓練の大切さを知ってもらうことも重要です。

万が一、迷子になってそのまま野犬となってしまった場合に、繁殖を防ぐために避妊や去勢を行っておくことも必要な措置の一つといえます(家庭での繁殖を望まない場合)。

一人でも多くの方が声をあげて、飼い主のもとで猟犬が生涯大切にされるような環境を整えていくことが大切です。

【免責事項】Animal Compassionではできるだけ正確な情報提供を心がけていますがご利用者様による正当性の確認をお願いいたします。また医療に関する助言を提供することはございませんので、最終的な判断は適切な医療従事者に個別の状況を確認してもらった上で行うようにお願いいたします。

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この記事を書いた人

子どもの頃から動物がそばにいるのが当たり前の環境で育ちました。
大学では家畜の機能形態学・病理学を専攻し、また馬術部に入部し、長年夢だった乗馬を始めることができました。
社会人になった現在も乗馬は継続中です。
大型犬と小鳥と一緒に生活しています。

ペット医療を中心としたジャンルでライティング活動をしています。
こちらのWEBサイトでの活動を通じ、動物と人間がよりよい関係を築くためのお手伝いができれば幸いです。

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