「エキゾチックアニマル」という言葉を聞いたことがありますか?
エキゾチックとは風変わりな、奇妙な、などの意味を持つ言葉です。
その言葉の通り、風変わりな姿をしたエキゾチックアニマルと呼ばれる動物が、日本ではペットとして人気を博しています。
その少し変わった、でも愛らしい姿は人々の心を惹きつけて止みません。
しかし、エキゾチックアニマルの飼育の難しさや密猟による野生動物の捕獲など、想像以上に多くの問題を抱えているということをご存知でしょうか。
意外と知らないその生態や、彼らがどこからやってきたのかなど、分からないことだらけのこの動物たちについて一緒に勉強してみましょう!
エキゾチックアニマルとは?
皆さんの身近にも、うさぎや鳥、フェレット、チンチラ、レオパードゲッコーなどといった動物を飼っている人が居るのではないでしょうか?
このように、家庭で飼育されている少し変わった動物がエキゾチックアニマルと呼ばれるものです。
このエキゾチックアニマルという定義は曖昧ですが、この記事では犬猫以外のペット(飼養動物)の総称をエキゾチックアニマルとします。
(今回は哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類にのみ言及しています。)
日本におけるエキゾチックアニマルを取り巻く環境
エキゾチックアニマル人気に拍車がかかっている昨今ですが、日本人とエキゾチックアニマルの関わりはどういう歴史を辿ってきたのでしょうか。
江戸時代から2000年代まで
環境省の報告によると、日本では江戸時代から国内の野鳥や金魚、ハツカネズミなど小動物を飼育しており、明治時代にはウサギやハムスターも飼育されていたようです。
その後、高度経済成長期にはペット事業が登場し、以後カメやインコ、爬虫類、熱帯魚なども飼養されるようになります。
そして、近年ではフェレットやプレーリードッグといった様々な種類の動物が飼われ、また近代的な飼育技術を伴う爬虫類ブームが再来しました。
エキゾチックアニマルの普及と日本の現状
今までのエキゾチックアニマルブームは、テレビや雑誌などのマスメディアによる影響が大きな要因でした。
しかしインターネットによるソーシャルメディアが発達した現代では、個人での飼育個体も広く認知されるようになり、より多くの人々がエキゾチックアニマルに興味を持ち、飼育するようになっています。
エキゾチックアニマルは小さくて飼いやすい、世話の手間も飼育の場所も取らない、などといった文言をよく見かけますが、本当にそうなのでしょうか。
現在、日本はエキゾチックアニマルの一大消費国、輸入大国などと呼ばれています。
このように呼ばれていることは、決して名誉なことでは無いのです。
代表的なエキゾチックアニマルとその特徴
先述のように日本国内で飼育されるエキゾチックアニマルは多種多様ですが、以下に哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類に分けて、代表的なものとその特徴を紹介します。
哺乳類
どの種類もふわふわで愛らしい姿が人気の哺乳類ですが、その生態は様々。草食、肉食、夜行性、昼行性…。
一見姿が似ていると思っても、その種類によって飼い方は全く異なるので注意が必要です。
例:ウサギ、フェレット、モルモット、チンチラ、ハリネズミ、モモンガ、サル
鳥類
鳥類、特にインコ類は頭が良く、人間によく懐きます。
しかし、頭が良いがゆえに精神疾患を患ったりするなど繊細な面を持ちます。
鳥類の中でもラブバードと呼称される鳥は社会性が非常に高く、愛情を込めて接すると大変懐くため、人間の良い相棒となるでしょう。
長寿の鳥はなんと50年以上生きることも!
とっても長生きなんですね。
例:インコ、オウム、文鳥、フクロウ
爬虫類
変温動物である爬虫類は、飼育環境が整っていないとたちまち病気になってしまいます。
食餌も様々で、カメは基本的にペレット(固形飼料)や野菜で飼育できる種が多いですが、ヘビは冷凍されたヒヨコ、ネズミが必要であったり、トカゲは餌としての昆虫も飼育する場合があります。
例:ヘビ、カメ、トカゲ、トカゲモドキ、カメレオン
両生類
水の中で暮らす両生類は皮膚からの感染症も多く、こまめな掃除が必要です。
また、爬虫類と同じで変温動物であるため、飼育するに当たって温度調整など繊細な飼育環境の管理が必要です。
例:カエル、ウーパールーパー、イモリ
エキゾチックアニマルを飼育するために理解しておかなければならないこと
エキゾチックアニマルはその飼育環境の特殊さ、特異的な病気、病気になった際の対応など、知っておかなければならない情報が山のようにあります。
下記が全てではありませんが、その一部を紹介したいと思います。
1. その動物種にとって整った飼育環境とは何か
温度、湿度、照明、音、匂い、ケージの広さ、床材、食餌、飼育頭数など、その種にとって何が一番適切なのかを知っておく必要があります。
エキゾチックアニマルは、間違った飼育環境(食餌含む)に起因する病気や体調不良がほとんどを占めるということを覚えておきましょう。
2. 懐かず、凶暴になることもある
野生の習性が色濃く残っているため、人間に懐きにくい場合があります。
小さなときは警戒心が薄くても、大きく成長すると警戒心が身につくこともあるため注意しましょう。
また、動物に噛まれたり引っ掻かれたりすると、人間側がさまざまな病気に感染する危険性もあります。
3. その動物に好発する病気が何かを知っておく
その動物がかかりやすい病気(例:ウサギー胃腸うっ滞、歯の不正咬合 鳥ー過発情、メガバクテリア症 等)を知っておくことは、その病気の予防や対処に役立ちます。
4. 診察可能な動物病院を確認しておく
エキゾチックアニマルを診察することのできる動物病院は年々増加していますが、住んでいる場所の近くにあるとは限りません。
実際に病気になってから慌てて探すのではなく、事前に診察をしてくれる動物病院を探しておくことが大切です。
エキゾチックアニマルにとっては、外出することもストレスになってしまうため慎重になるべきですが、必要であれば適切なケージ選びや保温などの対策を行い受診を検討しましょう。
5. 加入できるペット保険を確認しておく
その動物が加入することのできるペット保険を探しておくことも重要です。
人間の医療費と違い、動物の医療費は動物病院ごとに自由に価格設定ができるため、専門性が問われるエキゾチックアニマルの医療費は高額であることが多いのが現状です。
6. 絶対に遺棄しない
こんなはずじゃなかった、飼えなくなった、などといって飼育放棄したり遺棄してはいけません。
その動物が不幸になるだけでなく、逃げ出した外来種の動物が野生化することによって生態系が壊されたケースは後を絶ちません。
日本での代表的な事例だと、アライグマやミシシッピアカミミガメなどが挙げられます。
野生化した外来種は日本国内に天敵が居ないことが多いため、すぐに繁殖拡大し日本の在来生物を脅かします。
そうして繁殖した外来種は駆除対象となり、罪のない命が駆除されてしまうのです。
エキゾチックアニマルが入手できる場所
もしもエキゾチックアニマルを飼おうと思ったのなら、その動物の専門店やエキゾチックアニマル販売店、また、個人のブリーダーからも入手することが可能です。
身近なペットショップで販売されている事もありますし、人間に飼いならされ品種改良が盛んな動物(ウサギやフェレットなど)は販売店が多く存在します。
ウサギはネザーランド・ドワーフやミニレッキス、ロップイヤーなどの品種があり、日本国内にもブリーダーが存在します。
フェレットは、アメリカやカナダなどのファームと呼ばれる場所で生まれた個体を輸入する場合がほとんどで、日本国内でのブリーディングは極めて少ないのが特徴的。
マーシャル、パスバレーといったファームが有名ですが、そのファームの違いによって性格や見た目が違ってきます。
しかし明確な品種というものはなく、出身ファームごとの違いや、毛色による区別がある程度です。
フェレットは古来より狩猟の相棒として、またネズミ退治を行う役割として、人間と共に過ごしてきたといいます。
野生のエキゾチックアニマルの輸入について
ウサギやフェレットは飼育の歴史が長く「家畜化」されていると言えますが、家畜化されていない野生のエキゾチックアニマルは、外国からの輸入に頼っている場合が多くあります。
そんな野生個体の輸入経路について見てみましょう。
日本における野生動物の輸入の現状
WWF(世界自然保護基金)ジャパンの報告では、日本では近年、年間40万頭もの生きた野生動物を輸入しているといいます。
その輸入された野生動物のうちワシントン条約などで取引が禁止、または規制されている種が多く存在しました。
WWFジャパンによる、2007年から20018年までの日本の税関による差止め記録を確認した調査によると、多くの野生動物はアジア諸国から密輸されたと判明しました。
その多くは爬虫類が占め、哺乳類、鳥類と続きます。
さらに、アジア諸国から日本に輸入される動物の中にはアフリカや南米などに生息する動物も含まれていたといい、その空輸経路は複雑なものとなっています。
日本ではエキゾチックアニマルが高値で取引できることから、個体数が少なく絶滅の恐れがある生き物も流通する事態になっているのです。
エキゾチックアニマルを購入する時に気をつけなければならないこと
生き物の分類方法として(特に人間が飼育する場合において)繁殖個体(BC:Captive Bread)、野生個体(WC:Wild Caught)という分類があり、特に爬虫類、両生類の販売時には必ずこの記載があります。
エキゾチックアニマルを購入する際には、この分類にも着目しなければなりません。
輸入が禁止されているにも関わらず販売されていたり、野生個体であるにも関わらず繁殖個体だと偽っていたり、野生個体であることを隠している場合があるからです。
また、繁殖個体を作り上げるために野生個体を繁殖に供することもあります。
近親間で交配を続けていると遺伝病などのリスクが高まることから、野生個体を導入しそのリスクを軽減するのです。
野生個体の違法な流通を抑えるため、繁殖個体を代替的に流通させるという目的もあり、エキゾチックアニマルの国内繁殖は容認的な意見も多くあります。
しかし、繁殖個体だからといって密猟・密輸に加担していないとは言い切れないということも念頭に置いておかなければなりません。
エキゾチックアニマルの輸入・販売に関する条約や法律について
先述のような過度な野生個体の流通を規制し、種の安全を守るために制定されている条約や国内外の法律があるので簡単に紹介します。
ワシントン条約:絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES、サイテス)
国際的に定められているものがワシントン条約です。
これは絶滅のおそれのある種の取引について定めているもので、ペットとしての商業的な取引についてはその規制内容を以下の3段階に分けています。
附属書Ⅰに記載の種:取引を完全に禁止
附属書Ⅱに記載の種:禁止はしていないが輸出国の輸出許可書が必要
附属書Ⅲに記載の種:禁止はしていないが輸出国の輸出許可書もしくは原産地証明書が必要
このワシントン条約に記載される動物種は必要に応じて増減し、かつ附属書Ⅲから附属書Ⅱへというように、規制度合いが引き上げられることもあります。
日本で人気がある動物も、ワシントン条約で取引が規制されている種が多く存在します。
ペットとして人気を博していたコツメカワウソは商業的な取引が禁止されている附属書Ⅰに分類されていますし、チンチラも附属書Ⅰに記載されているため、現在流通しているものはすべて国内外で繁殖された個体です。
そしてリクガメはなんと全ての種が附属書Ⅰ、Ⅱのいずれかに分類されています。
日本国内における法律
国際的な取引を規制している日本国内の法律として、感染症予防法(感染症の予防及び感染症の患者にする医療に関する法律)や狂犬病予防法があります。
これらは人間にも感染してしまう人獣共通感染症(動物由来感染症、ズーノーシス とも)の蔓延を防ぐ目的で制定されており、他国の野生動物を輸入することで日本国内に新たな病原菌を持ち込むことを防いでいるのです。
こういった日本国内での法律があるように、日本以外の各国にも種の取引に関する法律があります。
ワシントン条約で規制されておらず、生息国でのみ保護されている種の輸入は規制の目をかいくぐりやすく、一度生息国を通過してしまうと、日本では合法的に流通してしまいます。
さいごに
ただ可愛いから飼いたい、珍しいから飼ってみたい、そんな気持ちがエキゾチックアニマルが抱えている問題に拍車をかける要因となってしまいます。
私がエキゾチックアニマルを診療対象とする動物病院で働いていた際、来院する動物たちは確かに可愛らしく、興味をそそられる珍しいものばかりでした。
しかしそう感じると同時に、その動物たちが本来暮らしていた環境でのびのびと生きる姿を見ることが出来たら、どんなに素晴らしいだろうとも思いました。
安易に飼うのではなく、その動物を取り巻く環境を正しく理解し本当の幸せを考えることができるのならば、日本がエキゾチックアニマルの一大消費国などという呼ばれ方をすることはなくなるでしょう。
そして、一度飼い始めた動物に対しては、その種について正しく理解し、最期の時まで愛情を込めて飼育しましょう。
動物は、人間のコレクションの対象であってはなりません。
動物を飼うということは、その命、ひいてはその種が抱える問題や保全状況にまで責任を負うことになります。
今回の記事が、エキゾチックアニマルが直面する問題に対して考えるきっかけになれば幸いです。