愛犬がドッグフードを食べてくれない、好みの味のドッグフードを見つけたのに食べなくなったと、悩む方は多いのではないでしょうか。
愛犬がドッグフードを食べないことには理由があります。嗜好に合っていない、体調が悪い、ストレスがあるだけではなく、愛犬の個性で生まれつき小食の場合があります。
本記事ではペット栄養管理士が食が細く、体重が増えない犬のためにできることを紹介します。
食が細い原因や、栄養が足りているか判断する体型指標、食に興味を示させるご飯の与え方を解説するので、愛犬の偏食や小食にお悩みの方は、ぜひ参考にしてみてください。
食が細い犬の原因とは?
愛犬の食が細い原因は、犬種特有の食生活の違いや、季節による温度や湿度などの過ごしやすさが影響している場合が多くあります。
病気にかかり体調不良の可能性もあるため、なぜ食が細いのか知っておくことが大切です。
それぞれの原因について解説するので、内容を確認してみてください。
犬種特有の食生活の違い
食が細い犬の原因のひとつとして、犬種特有の食生活の違いが考えられます。
原産国や人との共生の歴史、体格、毛質、顎や頭の骨格、疾患の罹患率などが、食事量の違いに関係している可能性があるためです。
一般社団法人 ジャパンケネルクラブによると、世界の犬種は現在、非公認犬種を含めて700〜800あるとし、生存目的や形態・用途による分類が行われています。
家畜の群れを誘導、保護する牧羊犬は、牧畜犬や日本犬を含む原始的な犬、家庭犬、伴侶や愛玩目的の愛玩犬など10のグループです。
寒い地域でソリを引く仕事をするシベリアンハスキーは運動量が多く、脂肪を蓄積しやすい特徴があるため、高たんぱく、低脂質のドッグフードが好ましいでしょう。
また、砂漠地帯出身で毛が生えにくいサルーキは、脂肪が付きにくい細身な体型であり足が細く骨折のリスクがあるため、関節ケアのできるグルコサミン配合のドッグフードが適しています。
現代社会において、犬は愛玩目的での飼育がほとんどですが、犬種別でなくても、愛犬の個性や特徴で、生まれつき小食な犬もいます。
食が細く、ドッグフードを食べてくれないと心配になりますが、愛犬にとって十分な栄養が摂取できている状態であれば、無理に食べさせる必要もありませんので、安心してください。
食が細い柴犬のお悩み
トイプードル、チワワに次いで人気の犬種である柴犬は、飼い主に高い忠誠心を持つ犬です。元々猟犬や番犬として飼育されていた犬種のため、警戒心や自我の意思が強いため、飼い主以外に懐きにくいと感じることがあります。
警戒心の強さから食に対しても神経質であり、好き嫌いがはっきりとしており、環境や気温の変化に敏感でストレスを感じてしまい、食が細くなりがちです。
食事やトイレの時間を合わせた規則正しい生活や、運動量の確保で改善が見込める場合があります。
温度や気候の変化
食が細い犬の原因に温度や気候の変化が関係している場合があります。
人の場合、汗を分泌して体温を低下させたり、服を着て暖をとりますが、犬では、汗をかくための汗腺は肉球にしかないため、犬は体温調整が苦手な動物です。
夏の暑い時期は夏バテ気味になり、食欲が落ちやすい傾向にあり、冬は脂肪を溜め込むために食欲が増加します。また、朝晩と日中の気温差や、梅雨の時期の湿度による不快感もストレスの原因です。
室内での飼育の場合は、エアコンや加湿器を使用し、犬が過ごしやすい18∼26℃の温度、50%程度の湿度に維持しましょう。
日当たりや部屋の広さに合わせて、日向ぼっこやくつろげる場所の確保も重要です。
環境変化のストレスは、引っ越しや旅行など場所の移動や、多頭飼いをする、子供が生まれるなどの同居家族の変化が影響している場合もあります。
急に食が細くなった場合ストレスがかかっている可能性があるため、よく観察して原因を見極めましょう。
体重が増えないのは病気である可能性も
愛犬の体重が増えない理由は、病気であることも考えられます。
食事の量が明らかに減っていたり、下痢や嘔吐の症状が表れたりしている場合は疾患に気付きやすいです。
一方で、疾患のなかには見分けづらいものも。たとえば、普段と同じ量のドッグフードを食べていても、体重が減少する場合は、エネルギーを必要とする疾患に罹患している可能性があります。
健康時よりもエネルギー必要量の高い疾患では、多くエネルギーを必要とし、体重が増えない原因になります。主に悪性腫瘍や腎不全などの疾患は、体重変化に注意が必要です。
愛犬の様子を観察し、痩せてきた、食に興味を示さなくなるなどの症状があるときは、必ず動物病院で獣医師に相談してください。血液検査結果の異常や、獣医師の診察で、体重が増えない理由を追及できます。
ライフステージによる食事量の変化
犬は、ライフステージにより食事量の変化があります。
愛犬のライフステージを理解し、食事量の変化が生理的なものなのか見極めることが大切です。
犬の赤ちゃんの体重が増えないのは危険のサイン
生まれてすぐの犬の赤ちゃんの体重が増えないのは危険です。
母乳やミルクで成長する離乳食開始までの約1か月は、1日ごとに体重が増加していきます。子犬にとって体重は成長の指標を表すため、毎日体重を測り記録していくことが重要です。
犬は誕生するとき、成長後の予想体重の1∼5%程度のサイズで産まれ、生後10日程度で2倍、1か月程度で4倍の大きさになります。
離乳食を終え、普通のご飯が食べられるようになる3∼5か月は、成犬時に比べ2倍以上のエネルギーが必要です。
とくに成長スピードが早く、成犬と同じくらいの骨格に成長します。
食べることが上手ではない3か月までの子犬は、とくに低血糖症になりやすく、栄養不足に陥らないように体重測定を必ず行ってください。
3時間おきの頻回食の場合、低血糖になる確率は低いですが、体温調整のストレスや、細菌や寄生虫による腸内環境の悪化により、十分な栄養を補給できていない可能性があります。
先天的な疾患が関与し、体重が増えない場合もあるため、獣医師に相談し適切な検査を行いましょう。
生後6ヵ月以降は成長スピードが落ち着く
生後6ヵ月以降は成長スピードが落ち着くため、体重の増加が緩やかになります。
小型犬の場合は生まれて8∼10か月で、成犬に近い体重である出生時の20倍程度まで体重が増加しており、食欲旺盛な時期を終えるため食事量が低下するのは生理的な現象です。
大型犬の場合は、1年から1年半の時期に成長スピードが緩やかになります。
生後6か月以降は筋肉や骨格、内臓機能が成長する時期であるため、十分な栄養補給ができるよう食事量やカロリーを補給することが大切です。
大型犬の食事量が減少し、体重の増加が見られない場合には原因の追及をしてください。
成長スピードが落ちついた犬は、飼い主とのコミュニケーションを深める時期です。遊びやしつけをとおして、愛犬の嗜好を見つけながら、食事の楽しさを学ばせましょう。
犬が避妊手術後にドッグフードを食べなくなった
避妊手術後にドッグフードを食べなくなる場合があります。
術後は、手術の痛み、エリザベスカラーや術後服の違和感などのストレスで、ドッグフードを食べなくなる可能性が考えられますが、2∼3日で回復することが大半です。
避妊手術は、一般的に全身麻酔をし開腹して行われる手術のため、日帰りや1泊程度の簡単な手術だと考えられがちですが、犬にとっては多大なストレスになります。
また、慣れない病院での入院や点滴、検査など、子犬が初めて経験する嫌な思い出になる可能性もあります。数日間はご飯を食べなくても、安静にし、体調に変化がないか様子を観察しましょう。
避妊手術後は、ホルモンバランスの変化により、代謝が落ちる傾向にあり、生殖器がない分、エネルギー要求量は低下します。
しかし、本能的に性欲の代わりに食欲が増加し太りやすいため、食事量や内容には注意が必要です。
シニア犬はエネルギーの必要量が減る
維持期(体の成長が止まった後の時期)に比べ、シニア期の犬はエネルギーの必要量が減るため食事量が低下します。
シニア期は活動量が減り、エネルギーが消費されなくなり、たくさんの食事を摂取する必要がありません。また、消化器官の衰えで消化に時間がかかることや、歯や顎の筋肉量の低下で噛む力が弱り食べにくくなることも原因です。
シニア犬に与えるドッグフードは柔らかく消化に良い食材を使用すると良いでしょう。消化に時間がかかる場合は一度のに大量に与えるのではなく、少量ずつ分けて与える工夫も必要です。
人と同じく、動物も健康で長生きをする高齢犬が増えており、シニア期が生涯の中で最も長い期間になる犬も珍しくはありません。
若々しく元気に見える7歳以上の犬からシニア期に分類されますが、シニア期の中でも、愛犬の体調に合わせてライフステージの区分を分けて考えることが重要です。
体重が増えない犬のために気を付けること
体重が増えない犬のために、次の3つに気を付けてください。
- 必要エネルギーの摂取ができているか確認する
- 体調不良になりやすい危険性がある
- 食べることへの興味を持たせる
それぞれ解説するので、内容を確認してみてください。
必要エネルギーの摂取ができているか確認する
体重が増えない犬のために、必要なエネルギーの摂取ができているかを確認することが大切です。
成犬の場合、食事量の判断は体重だけでなく、体格や体型が重要になります。犬種ごとの個体差が大きいため、愛犬の身体を観察してエネルギー摂取が十分であるか判断しましょう。
環境省は「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」で、痩せすぎ、太りすぎにしないためにボディコンディションスコア(BCS)で、犬の体型を判断する基準に使用するよう推奨しています。
BCSとは、犬の見た目と触れた状態から脂肪の付き度合いを段階別で判断する指標です。
飼い主のためのペットフード・ガイドライン
愛犬を上から見た際に、腰にくびれがある、横から見た際に、腹部が吊り上がっている、触った時に肋骨に当たると理想体型といえます。
肋骨が浮き出て明らかに痩せていると判断できる場合には、食事のエネルギー摂取が足りていないか、疾患の影響で必要エネルギー量が増加している可能性があります。愛犬の適正体型を知り、体重の増減がないようにしましょう。
体調不良になりやすい危険性がある
体重が増えない犬は、体調不良になりやすい危険性があります。
必要なエネルギーを摂取できていないため、免疫力が低下しウイルスや細菌を体内で破壊できなくなります。
栄養不足は、低血糖症や貧血、便秘や下痢などの症状や、毛並みが悪くなる、皮膚が荒れる原因です。
また、たんぱく質不足では、筋肉量が低下し、運動機能が衰えるため、散歩を嫌がったり、遊びを拒否したりする行動があらわれます。
運動をしないと筋肉はさらに作られなくなり、運動能力の低下への悪循環に陥ります。最悪の場合、歩行困難や立てないなどの症状になる可能性があるため、注意が必要です。
エネルギー不足が原因の場合、凶暴性が増すことや、食糞や異食などの問題行動に悩まされる原因になります。空腹を感じているのに食が細くドッグフードを食べないときは、ドッグフードの変更や、食事の与え方の工夫をしましょう。
食べることへの興味を持たせる
体重が増えない犬のためには、食べることへの興味を持たせることに気を配りましょう。
食の細い犬は、食欲よりも他のことに楽しみや興味が湧いている場合があります。食べたら褒める習慣を繰り返すことで、食べることで飼い主を喜ばせることができると学習します。
食が細い原因の1つでもある、運動量の不足を解消すると良いでしょう。
食事の前に、散歩に行く、庭や公園で走り回る遊びをすると、空腹感が増します。飼い主と楽しく遊んだ後の食事、食べたら褒めてくれるという習慣づけが食に興味を持たせる際には効果的です。
習慣づけまで上手くいかない日や、時間を要してしまう可能性もありますが、根気よく続けてください。
ドッグフードを食べないからとおやつを与えると、わがままや甘えでおやつしか食べなくなる可能性もあるため、ゆっくりと愛犬と向き合うことが大切です。
食が細い犬のための食事の与え方
食が細い犬のための食事の与え方は、次のとおりです。
- カロリーの高いドッグフードを選ぶ
- 食事の回数を増やす
- おやつやトッピングを使う
- 夏は身体を冷やす食事
- 冬は身体を温める食事
それぞれ解説するので、愛犬に適した食事を与えられるよう、内容を確認してみてください。
カロリーの高いドッグフードを選ぶ
量を食べることができない食の細い犬には、カロリーの高いドッグフードを選びましょう。
ドッグフードは、製品や配合されている食材によって、栄養成分がさまざまであり、高カロリーなドッグフードは、高たんぱく、高脂質の主原材料を使用しています。
ドッグフードは100gあたり平均350㎉程度ですが、痩せ気味な犬には360∼400㎉のドッグフードがおすすめです。
牛やヒツジなどの反すう動物の胃袋であるトライプを配合したドッグフードは良質な高たんぱく質であり、必須アミノ酸や必須脂肪酸、ビタミン、ミネラルが豊富に含まれています。成分表示を確認し、エネルギー源にならない繊維や灰分が少ないものを選択しましょう。
犬がドッグフードを食べないときには、手作りフードもおすすめです。犬の嗜好に合わせた食材を使用し、体温に近い温度で提供できるため、食いつきが良い傾向があります。下記の記事で、おやつしか食べないお悩みに対応した、手作りフードの与え方について紹介していますので、ぜひご参照ください。
毎日の食事を手作りフードのみにするのは、適切な栄養が摂取できない、緊急時に食事提供ができないなどの問題もあるため、ドッグフードと併用して使用すると良いでしょう。
食事の回数を増やす
食の細い犬は、食事の回数を増やして与えます。
食に興味がない場合、食べることに飽きて完食する前に食べることをやめてしまうことがあります。一度でたくさんの量を食べることができないため、1日の食事の回数を増やすと良いでしょう。
成犬の場合、朝夕の2回食が基本的ですが、3∼4回程度に増やすのがおすすめです。
ライフステージや犬種による個体差はありますが、食べてから排出までの消化にかかる時間はおよそ12∼24時間であり、胃内では2時間程度、消化に時間を要します。
2時間以上経過した後に食事を与えることで、胃の空いたスペースに食べ物を入れることができます。
空腹感がないときは、食欲がなく、食べることを嫌がり、さらに食事が億劫なものになりかねません。
無理やり与えるのでなく、15∼30分置いても食べない場合は、細菌が繁殖するリスクもあるため皿を下げてください。皿を下げてから次の食事の時間まで何も与えないようにすると、「出されたときに食べないとお腹がすく」と食べるようになる場合もあるでしょう。
おやつやトッピングを使う
食べることが苦手な食の細い犬は、おやつやトッピングを使うと効果的です。
総合栄養食のドッグフードのみで十分な栄養を摂ることができますが、香りや味に変化をつけることで、嗜好性が高まり、食いつきを良くできます。
おやつやトッピングはなるべく、添加物が含まれない商品を選択しましょう。
市販のおやつは干し芋や煮干し、ドライミートやドライフルーツがおすすめです。
自宅で用意できる場合は、鶏肉や豚肉、野菜を茹でて与えます。小さめにカットし、ドライフードに混ぜ合わせると、上に乗せたトッピングだけ食べることを防げます。
飽き性やグルメの犬には、同じメーカーのドッグフードでローテーションし、1日の食事の内容や味に変化を付けることもおすすめです。
同じメーカーの場合、製法や含まれている材料が似ているため、フード変更に時間をかけなくても、消化不良を起こしにくく、栄養の偏りやアレルギーの発症リスクを抑えることができます。
夏は身体を冷やす食事を
暑い夏は、身体を冷やす食材の利用がおすすめです。
夏の暑い日は、暑さによるストレスで、夏バテのような症状があらわれる場合があります。身体を動かそうとしないことや、冷たい水をたくさん飲むことなど、食欲が低下し、胃腸の消化不良を起こしていることが原因になり得ます。
昼間の散歩はアスファルトが焼けるような暑さになっているため、早朝の涼しい時間帯や太陽が完全に沈んだ夜遅くにし、部屋は27∼29℃を目安にエアコンをつけっぱなしにしましょう。
犬は汗をかく汗腺がないため、舌を出すパンティングを行い体温調整を行います。身体を冷やすための首に巻く保冷剤や、床に敷くマットを活用し暑さ対策の工夫が必要です。
手作りフードを与える際は、身体を冷やす効果のある寒涼性の食材を活用しましょう。豆腐やおから、海藻類、夏が旬のレタスやトマト、なす、きゅうりなどの野菜、いちごやバナナ、すいかが代表的です。
冷たい方が良いだろうと生のまま与えるのは危険な場合もあるため、注意してください。一度加熱し、適温まで冷ましてから与えましょう。
冬は身体を温める食事を
寒い冬は、身体を温める食材を利用しましょう。
冬は脂肪を蓄えるために、食事量が増す犬が多いですが、食が細い犬は、脂肪がなく、寒さのストレスを感じやすい特徴があります。
身体を温められるように、ドッグフードを35∼37℃程度の体温に近い温度に温めて与えると良いでしょう。
手作りフードを与える場合は、身体を温める作用がある温熱性の食材の活用がおすすめです。
主なたんぱく源になる、鶏肉、牛肉、羊肉などの肉類や、アジ、マグロ、サケ、サバ、イワシなどの魚は、温熱性の食材であり、生姜を加えたスープと一緒に煮込んで与えると、水に溶けだした栄養素も一緒に摂取できます。
トイプードルやミニチュア・ピンシャーなど、毛の生え変わりがないシングルコートの犬の場合、保温機能を持つアンダーコートの毛がないため、体温調整が苦手で寒さに弱い傾向があります。
南国原産のチワワやアフガンハウンド、小型犬、短頭種も寒さがストレスになるので、20℃程度の室温で過ごしやすい環境作りをしましょう。
まとめ
本記事では食が細く、体重が増えない犬のためにできることを紹介しました。食が細い原因は、犬種や環境の違いによる場合が多く、愛犬が適正体重や体型の場合は、深く悩むことではありません。
それでも、美味しそうにドライフードを食べている姿が見たいと願う飼い主は多いでしょう。愛犬の食への興味をひくために、一緒に遊ぶ時間を増やし、コミュニケーションを取ることが重要です。
季節や環境のストレスがかからない工夫や、美味しそうに感じる香りや温度の調整で、愛犬が食事を楽しめるようにしてあげましょう。