猫が毛玉を吐くのは生理的な現象であり、猫自身が何度か嗚咽し吐きだします。苦しそうに見えますが、この過程は自然なことなので心配する必要はありません。ただし、猫が吐く姿は人と違い、嗚咽から始まるため、何とも苦しそうに見えてしまいます。
猫が、1度吐いて毛玉除去できればよいのですが、何度試しても毛玉を吐けない場合、猫の苦しそうな姿を見ていると心配で、手助けをしてあげたいと思うのは当然のことです。
このようなときには、どのような行動をするべきか、またどのような対処方法があるのかを説明します。さらに、毛玉が吐けない原因や、獣医師に診せるタイミングについても詳しく説明します。
最後に、毛玉を軽減するための予防方法もお伝えします。猫が毛玉を吐くことは生理的な現象であると理解しつつ、日頃から毛玉ケア予防をおこなうことが大切です。
猫が毛玉を吐けないときの対処方法
心を鬼にして見守る!
猫が毛玉を吐けないで、何度も嗚咽し苦しそうにもがいていると、何か手を差し伸べたくなりますが、心を鬼にして猫を見守りましょう。
その間、獣医師に説明できるよう、何回吐いたかなどの様子を時系列にまとめておきましょう。
- 何時頃から吐き始めたか
- 何回吐いたか
- 何を吐いたか
- その間どんな様子か
- その他、気づいたことをまとめておく
マッサージ
人が吐いているとき、背中やお腹をさすることが一般的ですが、猫の体の構造上、飼い主さんの介入は逆効果であり、悪化させてしまう可能性があります。特に毛玉が大きく消化器官に詰まっている場合、マッサージをおこなうことで、のどに詰まらせてしまうことも考えられます。
猫が吐くときは、後ろ足でお腹を支え、横隔膜や腹圧を使って体全体で嗚咽します。カッコンカッコンという音が嗚咽です。この時に、猫を持ちあげたり、背中をさすったりすると、吐くタイミングを崩し、誤嚥障害を引き起こす可能性があります。元々猫には、異物や不快なものを排除するために、葉っぱを食べて胃を刺激し吐くという本能が備わっています。
毛玉を吐いた後や、猫が元気なときには、胸からお腹へ上から下へとさするように優しくマッサージをします。次に、脇腹を時計回りにさすります。マッサージは、毛玉予防対策として普段からおこなうことをおすすめします。
毛玉を吐いた後
上手に吐けた後も注意が必要です。吐いた後すぐに水や食事をあげないでください!
毛玉の場合、吐いた後はケロッとしていることが多いですが、毛玉がたくさん出た場合、胃や腸が傷ついている可能性もあります。吐いた後すぐに水を飲むことで再度嘔吐し、傷ついた胃や腸の炎症が悪化する可能性があります。嘔吐後は、2時間以上経過したのち、少量のお水をあげて様子を見ましょう。
獣医師に診せるタイミング
このような時は、早急に動物病院へ行きましょう。ご心配であれば、動物病院に問い合わせご相談ください。忙しいから迷惑と考える飼い主さんもいますが、飼い主さんの不安の解消も動物病院の仕事です。
- 何度吐いても何も出てこない、吐けなくて苦しそうにしている
- 1時間たっても動かずグッタリしている
- 元気や食欲もなく、水も飲まない
- 元気がなく、何日も便秘をしている
- お腹を触ると嫌がったり怒ったりする
気持ちが不安になりますが、焦らず行動しましょう。猫は信頼している人の表情を読み取ります。飼い主さんが不安な顔をしていると、猫もネガティブな感情を抱きます。猫が落ち着いている状態でいると、スムーズに診察させてくれて治療も早く終わります。
嘔吐物(毛玉や他)がある場合、必ず獣医師に見せてください。
猫が嘔吐しても毛玉を吐けない原因
毛玉から毛球症になるしくみ
猫が毛づくろいに費やす時間は、1日の30~50%と言われるほど、猫にとって重要な行動です。体を清潔に保つだけでなく、体温調節やストレス解消、血行促進など多岐にわたります。
猫の舌はザラザラしており、掃除のほうきの役割を果たし、の舌突起はフックのように後ろ向きになっているため、抜け毛や汚れをからめとります。その結果、抜け毛はそのまま飲み込まれ、消化器官を通過して便と一緒に排出されます。
コーネル大学獣医学部の小動物医学准教授であるリチャード・ゴールドスタイン氏(DVM)によると
【毛髪の主な構造成分であるケラチンと呼ばれる丈夫で不溶性のタンパク質物質は消化されにくい】
コーネル猫健康センター
このようなことから、猫の毛量や毛の長さ換毛期などにより抜け毛の量が増えることで、抜け毛が絡まりあい消化器官に溜まり毛玉となります。
毛球症になると、何度吐いても毛玉は出ません。便として排出されない毛玉は、食道や小腸で溜まり大きく丸くなり、消化管を閉塞させてしまいます。長年溜まった毛玉が硬くなり、石のように石灰化してしまうこともあります。
上記の【獣医師に診せるタイミング】で紹介したような、食欲の低下や何度も吐くなどの症状がでてきます。これらの症状がある場合、長期間毛玉が蓄積されており、かなり深刻な状態です。飲み薬で排出できなければ、開腹手術が必要になることがあります。
毛球症になる前に、動物病院にて1年に1回は消化器官の検査を受けることをおすすめします。
毛玉を吐く頻度
猫が毛玉を吐くのは、月に数回であれば生理的な現象の範囲内です。時々、「毛玉を全くはかないけど大丈夫かな?」と動物病院に質問をいただくのですが、吐いたり嗚咽したりしていなければ、便と一緒に排出されていすので問題ありません。抜け毛が少なく毛玉を吐かない猫もいます。
しかし、長毛猫や換毛期の時期は、毛玉を吐く頻度が多くなり、週に1~2回ほど吐きます。また、神経質な性格の猫やストレスを感じた時は、過剰に毛づくろいをする傾向があります。動物病院に行った後は、猫が必死に毛づくろいをすることがありますが、これは、一時的な緊張やストレスによるものであり、興奮した状態で抜け毛が多くなっていることが原因です。
毛玉を吐きやすい猫
メインクーンやノルウェージャンフォレストキャットなど長毛種の猫は、たとえ抜け毛が少なくても毛が細く長いので、毛玉ができやすく吐きやすいです。また、短毛種のダブルコートの毛をもつ猫は抜け毛が多くなります。【温度対策のために2種類の毛が生えており、換毛期に入れ替わる】
雑種猫
個体差が大きく成長してみなければわかりません。子猫の時と成猫になってからの毛質の変化もあり、1歳過ぎると毛色も毛量も変わることがあります。この変化は、雑種の猫の成長の楽しみの一つです。
筆者の猫は短毛種ですが、抜け毛が多く痒いために常に毛づくろいをしています。毛玉を吐く頻度は、週に2回ほど吐いており、さらに便秘にもなります。一方、もう1匹の短毛種の猫は、ほとんど抜けず、毛玉は月に1回吐くだけです。
上手く吐けないのは、別の原因
毛玉が詰まるのは、お腹だけではない
くしゃみ:口と鼻は繋がっているため、鼻腔に毛玉がつまり、慢性鼻炎になるケースがあります。
便秘:毛玉が多すぎて便に絡みつき、水分を奪われ石のような固い便になります。ヤギのような便をしている場合、ほぐしてみると毛がたくさん絡まっています。
毛玉ではなく、他の病気の可能性
吐こうとして吐けない症状は、毛玉が原因だけではなく、胃腸炎や異物の誤飲誤食の可能性もあります。血がまじっている液体や、赤色の吐物を吐く場合、消化器官に傷や炎症、異物がある可能性がありますので、すぐに獣医師に診てもらうことが重要です。
何度も吐くことが症状の病気は、他にも考えられるため、正しい診断は獣医師でなければ判断がつきせん。
- 喘息
- 呼吸器疾患
- 心臓疾患
- 胃捻転
- 腎不全
- 糖尿病
- 甲状腺機能亢進症
など多岐にわたります。
毛玉の軽減対策をして、吐き戻しを少なくしよう
ブラッシング
毛玉の軽減対策に最適な方法は、抜け毛を取り除き毛玉を作らせない事です。定期的にブラッシングをおこなえば、抜け毛や毛玉を吐く頻度もグッと軽減できます。皮膚トラブルの軽減にもつながります。
毛玉ケア専用フードやサプリメントをあげる
食物繊維が豊富な毛玉ケアフードに切り替えましょう。食物繊維が消化器官にとどまっている抜け毛を絡めとり、消化管の動きを助け便として排出されます。多くのメーカーが毛玉ケアに特化したフードを提供しており、味にうるさい猫のためチキン味や魚味など多種多様にあります。
毛玉ケアサプリメントには「ラキサトーン」というチューブ状のものがあります。キャットフードのうえに添えてもいいですし、そのままおやつのようになめさせることもできます。動物病院はもちろん、インターネットで購入できます。
猫の好みに合った毛玉ケアフードを見つけてあげてください。
猫草や野菜をあげる
猫草は、お花屋さんやスーパーでも見かけられるようになりました。種からも育てられる猫草もあり、育てておけば猫が毛玉を吐きたいときに、いつでも食べられます。ここで注意です。生えたばかりの猫草は柔らかいのですが、成長し日にちが経つと葉が硬くなります。硬くなった葉は食道や胃を傷つけやすく、時々胃腸炎を引き起こす猫もいますので、与えすぎには気を付けてください。
野菜は、レタスやキャベツをあげることをおすすめします。レタスは生のままあげられ、水分が多いので便秘予防に効果的です。キャベツには抗酸化作用がありますが、ビタミンが壊れないように軽く茹でてあげてください。ただし、キャベツとレタスには尿路結石を引き起こすシュウ酸が含まれているため、毎日はあげないでください。
猫草や野菜は、毎日ではなく週2回程度あげるようにしてください。
亜麻仁油をあげる
亜麻仁油は、猫が飲み込んだ毛玉を排便するのを助けるのに役立ちます。さらに、亜麻仁油にはオメガ3脂肪酸(EPAやDHAなど、サバなどの魚に多く含まれる成分)が豊富に含まれており、関節、腎臓、アレルギー、認知症などの予防効果があります。
ただし、注意が必要なのは、亜麻仁油の酸化です。酸化した油は消化器官に逆効果をもたらす可能性があるため、開封後は飼い主自身も同じ油を使用し、新鮮なものを与えるようにしてください。
ストレスの軽減
猫は警戒心が強く神経質な性質を持っているため、ちょっとした環境変化でもストレスを感じます。このストレスを和らげるため、猫は毛づくろいを行います。しかし、ストレス要因が環境に常にある場合、過剰な毛づくろいや毛を引っ張ってむしり取るため、毛が薄くなり10円ハゲをつくるなどの健康問題が生じることもあります。時々、健康なのにお腹の毛が全くない猫がいますが、常にストレスを感じ、お腹の毛を必要以上に舐めてハゲてしまっているのです。
ストレスを軽減するためには、適切な対策が必要です。例えば、おもちゃや爪とぎの場所を増やすことでも、猫のストレスを和らげることができます。また、猫が何に対してストレスを感じているのかをよく観察し、ストレスの原因を取り除くことが重要です。
飼い主さんから名前を呼ばれたり、話しかけられたりすると、猫はそっけない態度をとるかもしれませんが、内心はとても嬉しくストレス軽減になっています。飼い主さんが嬉しいときの表情を覚え、猫は同じように幸せを感じます。
4.2 情動の読み取り
(Galvan and Vonk. 2016)「猫は人の感情と表情を読み取ることができるのか」飼い主が幸せな表情をしている時のみ,ポジ ティブな行動(耳を前に立てる,横たわるなどリ ラックスした体勢を見せる)が増加。ネコはヒトの表情を一般化して認識しているのではなく,「“飼い主”がこの顔をしている時はいいことがある」ということを日々学習しているのかもしれない
4.4 音声からの社会的認知
(Takagi et al.2022)ネコは日常生活の中で,家 族が誰にどのような名前で話しかけているのかを 観察し,学習していると考えられる。ネコは飼い主のことが視覚的に見 えていなくても聴覚的にその存在を定位している ことがわかった。ネコは音声情報から,同居家族の声の識別や声や顔のクロスモーダルな認識,名前の理解,および空間的な位置の把握など多くの社会的情報を得ていることがわかってきた。
ネコの認知研究の最新動向と今後の展望
まとめ
猫が毛玉を吐けないときの対処方法は、まず飼い主が冷静になり、猫を見守ることが重要です。猫が苦しそうにしていても、猫が毛玉を吐くための生理的現象であり、心配する必要はありません。また、猫をマッサージすることは逆効果であり、背中やお腹を触らずに見守ります。
猫が毛玉を吐く頻度や、吐く内容には個体差があり、ストレスや環境変化も影響します。適切なケアやストレス軽減のための対策を行うことが、猫の健康維持に役立ちます。
毛玉を吐いた後は、すぐに水や食事を与えないようにし、時間をおいて様子を見てからあげるようにしてください。
もし猫が何度も吐き続けても吐けない、元気がなく食欲もない場合は、早急に獣医師の診察を受けるべきです。吐く症状が毛玉以外の病気の可能性もあるため、専門家の正しい診断と処置が必要です。
毛球症や毛玉を作らないようにするには、定期的なブラッシングを頑張ってください。ブラッシングは、猫とのコミュニケーションの一つで強い信頼を作ることもできます。また、ブラシで体に刺激を与えることで、猫の血液循環を良くし代謝をあげ健康を保ちます。
猫が健康な生活を送るためには、適切な毛玉ケア対策とストレスのない環境をつくることが重要です。ストレスが原因で過剰な毛づくろいをする猫は、毛球症のリスクも高まります。