近年、鶏のケージ飼いを禁止する動きが世界中で広がっています。
ケージ飼いを避けることは動物福祉の観点から多くの国で支持されていますが、その背景には複雑な経済的、文化的、倫理的な要因が絡んでいます。
本記事では、日本と海外の現状を対比しながら、なぜケージ飼いが問題視されているのか、その背景を探り、わたしたち消費者にどのような行動が求められるかを考察します。
日本では鶏のケージ飼いは禁止ではない
日本では、鶏の飼育方法としてケージ飼いが一般的です。
これは、スペースの効率的利用やコスト削減、鶏同士の喧嘩防止、衛生管理の容易さなどのメリットがあるためです。しかし、具体的な法規制はなく、農場ごとに飼育方法が異なります。
一方で、動物福祉に対する関心の高まりから、一部の農場では平飼いや放し飼いを採用する動きもあります。これにより、鶏のストレスが軽減され、健康状態が改善されるとされています。
消費者の意識向上に伴い、今後の飼育方法にも変化が期待されるでしょう。
日本の鶏の飼育方法
日本においては、鶏の飼育方法としてケージ内での飼育が一般的となっています。ケージ飼いとは、鶏を金網で囲まれた狭いケージに入れて飼育する方法で、効率的に卵を生産できることから広く採用されています。多くの農場では数万羽の鶏が一つの建物内で飼育されているのが現状です。
ケージ飼いのメリット
ケージ飼いの主なメリットは、スペースの節約とコストの削減です。また、鶏同士の喧嘩や傷害を防ぐことができ、糞の処理が容易で衛生管理もしやすいとされています。特に、日本の都市部に近い農場では、土地の制約からケージ飼いが主流です。
日本の法規制
現在、日本には動物福祉に関する法律があるものの、鶏のケージ飼いを禁止する具体的な規制はありません。農林水産省のガイドラインに従って飼育されていますが、その飼育方法は、各農場の裁量に任されています。(参照:Cage egg producers’ perspectives on the adoption of cage-free systems in China, Japan, Indonesia, Malaysia, Philippines, and Thailand|Frontiers)
世界的には鶏のケージ飼いが禁止であるケースが多数
動物福祉の観点から、世界各国で鶏のケージ飼いを禁止する動きが進んでいます。
欧州連合(EU)では、2012年から伝統的なバタリーケージ(※1)の使用が禁止され、オーストリアやドイツでは改良型ケージ(※2)の使用も段階的に廃止されています。
アメリカでもカリフォルニア州やマサチューセッツ州がケージ飼いを禁止し、ニュージーランドやスイスも同様の法規制を導入しています。これらの国々では、鶏が自然な行動を取ることができる環境を提供するため、平飼いや放し飼いが一般的となっています。
背景には消費者の動物福祉への関心の高まりがあり、企業や政府が規制を強化することで鶏の飼育環境が改善されています。
(※1 バタリーケージとは、鶏を狭い個別のケージに入れて飼育する方法。この方法では、鶏は限られたスペースで生活し、主に卵の生産を目的としています。)
(※2 従来のバタリーケージよりも広いスペースを提供し、鶏が自然な行動をしやすいように設計されているケージのこと。たとえば、巣箱や止まり木・砂浴び用の場所が含まれていて、鶏にとっての福祉を向上させることを目的としています。)
欧州における動向
欧州では、動物福祉の観点から鶏のケージ飼いを禁止する国が増えています。EUでは2012年から伝統的なバタリーケージの使用が禁止され、改良型ケージに移行しています。
アメリカの動き
アメリカでも、州ごとに異なるものの、カリフォルニア州やマサチューセッツ州などではケージ飼いを禁止する法律が成立しています。これらの州では、ケージフリーの飼育方法が奨励され、消費者もケージフリーで飼育された鶏の卵を選ぶ傾向が強まっています。(参照:Who’s Got the Bacon and Eggs? Anti-Confinement Laws Will Change the Entire Domestic Pork Industry|Michigan State University)
その他の国々
ニュージーランドやスイスなどでもケージ飼いを禁止する動きが見られます。
ニュージーランドでは、2023年1月にバタリーケージの使用が完全に禁止されましたが、「コロニーケージ」と呼ばれる大きなケージの使用が続いており、動物福祉団体からの批判が続く中、主要スーパーマーケットは2027年までにコロニーケージで飼育された鶏の卵の販売を中止することを約束しています。(参照:Battery Cages|Safe for Animal ・ An end to caged chickens? |SPCA New Zealand)
スイスでは、1981年に施行された動物福祉法により、1992年以降、採卵鶏を飼育する要件に一羽当たり800㎠の敷地面積や止まり木・巣の設置が求められるようになりました。しかし、ケージそのものを禁止する規定はなく、バタリーケージに代わるさまざまな飼育システムが開発されたものの、改良型ケージは動物福祉要件を満たさず、ケージ飼育は現在廃止されています。(参照:海外の状況:各国のケージフリーへの取り組み状況|HOPE for ANIMALS)
なぜ海外では鶏のケージ飼いが禁止になっているのか
なぜ海外では鶏のケージ飼いが禁止になっているのでしょうか。それは、ケージ飼いでは、鶏が狭い空間に閉じ込められ、自由に動けないためストレスが増加し、健康が悪化することが報告されているからです。
自然な行動が制限されることで異常行動が多発し、骨折や羽毛の損傷などの健康面での問題が起こりやすくなります。さらに、過密状態により、鶏同士の喧嘩や感染症のリスクも高まります。
それに対して、平飼いや放し飼いでは、鶏が自然な行動を取れるため、ストレスが軽減し、健康状態が改善されるといわれています。
消費者の動物福祉への意識の高まりも重要な要因で、海外の一部の国ではこれに応じて企業も動物福祉を重視した生産方法に移行しており、結果として鶏の飼育環境が改善されています。
動物福祉の観点からの問題点
ケージ飼いが禁止される主な理由は、動物福祉の視点から見た問題にあります。
鶏は狭いケージの中で自由に動き回ることができず、自然な行動を取ることができません。 鶏たちが詰め込まれている光景を目にし、それを人道的だと感じない人が世界的に増えている傾向があることや、その事実を象徴するように、欧州議会では圧倒的多数で家畜のケージを禁止するイニシアティブの可決があるのも事実です。(参照:海外の状況:各国のケージフリーへの取り組み状況|HOPE for ANIMALS)
鶏のストレスと健康被害
狭いケージ内での生活は、鶏にとって大きなストレス源となります。特に、羽ばたいたり、巣作りをしたりする自然な行動が制限されることが問題です。このような環境では、鶏はしばしば異常行動を示し、骨を折ったり羽毛を損傷するなど、健康上の問題が発生しやすくなります。
日本で鶏のケージ飼いが禁止になる可能性は
日本でも動物福祉への関心が高まっていて、現状では難しいですが、将来的に鶏のケージ飼いが禁止される可能性があるかもしれません。
現在、日本ではケージ飼いが一般的ですが、動物福祉に配慮した平飼いや放し飼いを導入する農場も増えています。消費者の動物福祉への意識の向上により、企業や政策に影響を与える可能性も高まっています。
しかし、全面的なケージ飼いの禁止には課題があるといえます。ケージ飼いは効率的でコスト削減になるため、完全なケージフリー飼育への移行には経済的支援や技術的なサポート、土地の確保や飼育するスタッフの人手が必要です。また、農場のインフラ整備や従業員の教育も重要な課題です。
今後、法規制の強化が見込まれるものの、その実現には時間がかかると予想されます。しかし、消費者が動物福祉に配慮した商品を選ぶことで、鶏の飼育環境が改善される可能性は高まるはずです。
現在の国内の動き
日本でも動物福祉に対する関心が高まっており、ケージ飼いに対する批判の声が徐々に大きくなっています。一部の農場「しばた養鶏(HP:しばた養鶏 | 平飼い鶏の幸せ卵)」では、平飼いや放し飼いを導入する動きも見られます。しかし、全体的にはまだ少数派であり、ケージ飼いが主流です。
政策の変化の可能性
将来的には、日本でもケージ飼いを禁止する法律が導入される可能性があるかもしれません。これは、動物福祉に関する国際的な動向や、消費者の意識の変化が影響を与えるためと考えます。現在のところ、具体的な法改正の動きは見られませんが、今後の展開に注目です。
社会的な意識の変化
日本の消費者の間でも、動物福祉に対する意識が高まりつつあります。特に若い世代は、倫理的な消費を重視する傾向が強くなっており、平飼い卵やオーガニック食品を選ぶことが増えています。このような社会的な意識の変化が、将来的な政策の変更につながる可能性もあります。
鶏を思い消費者にできることは
鶏を思い、わたしたち消費者にできることは一体なんでしょうか?
ひとつは、平飼い卵や放し飼い卵を選ぶことが有効です。
これにより、間接的に、鶏が自然な環境で育つことを支援することができます。また、オーガニック認証(参照:有機食品の検査認証制度|農林水産省)やアニマルウェルフェア認証(参照:AWIO)など、信頼できる認証マーク付きの商品を選ぶことも大切です。
さらに、鶏の飼育方法や動物福祉に関する正しい情報を収集し、理解を深めることで、適切な選択が可能になります。
SNSやコミュニティで情報共有や啓発活動を行うことで、他の消費者にも動物福祉の重要性を伝えることができます。それが結果として、消費者の声が企業や政策に影響を与え、鶏の飼育環境が改善される可能性があるかもしれません。
以下にわたしたち消費者ができる、具体的な行動の例を挙げます。
平飼い卵の購入
消費者として、動物福祉に配慮した選択肢を選ぶことが重要です。平飼い卵は、ケージ飼い卵に比べて鶏にとってより良い環境で生産されています。自然食品店やスーパーのオーガニック食品販売コーナーでこれらの商品を選ぶことで、動物福祉に貢献することができます。
産地や飼育方法の確認
卵を購入する際には、産地や飼育方法を確認することも大切です。ラベルやパッケージには、飼育方法に関する情報が記載されていることが多いので、これを参考にすることでより良い選択ができます。
情報収集と教育
動物福祉に関する知識を深めることも重要です。信頼できる情報源から学び、家族や友人と情報を共有することで、想いが連鎖していき、結果的に社会全体の意識を高めることができます。また、学校教育やメディアを通じて動物福祉の重要性を広めることも有効です。
消費者の声を届ける
消費者としての意見を企業や政府に届けることも重要です。例えば、動物福祉に配慮した商品の提供を求める声を上げることで、企業の方針や政府の政策に影響を与えることができます。他にも署名活動やアンケートへの参加、SNSでの発信などが有効です。消費者の声が大きくなることで、企業も動物福祉に配慮した商品を提供するようになる可能性が高まります。
消費者が知っておくべきポイント
消費者として知っておくべきポイントはいくつかあります。
まずは、卵のラベル表示に注目することです。ラベルには、鶏の飼育方法や産地に関する情報が記載されており、これを理解することで、鶏の福祉的な向上にとって、より良い選択ができます。
例えば、「平飼い」「放し飼い」「オーガニック」などの表示にはそれぞれ異なる意味があり、その基準を理解しておくことが重要です。
ラベル表示の理解
「平飼い」と「放し飼い」の違いは、主に飼育環境と鳥の自由度にあります。平飼いは鶏を屋内の広いスペースで飼育し、自由に動き回ることができる飼育方法ですが、屋外には出られません。一方、放し飼いは鶏が屋外に出られるようにし、自由に動き回れる飼育方法です。鶏は屋内外を自由に行き来し、自然な行動をとることができます。
オーガニック (有機)とは、農薬や化学肥料を使用せず、自然に優しい方法で生産された食品や製品を指します。オーガニックの基準は国や地域によって異なりますが、 動物福祉の観点から考えると、「動物が自然に近い環境でストレスなく育つことを重視した」認証商品と言えます。
認証マークの確認
信頼できる認証マークも消費者として知るべきポイントです。例えば、オーガニック認証やアニマルウェルフェア認証など、第三者機関が認めた基準を満たしている商品は、動物福祉に配慮された飼育環境で生産されています。
これらの認証マークは、消費者が安心して購入できる指標となり、それらの商品を選ぶことで、動物福祉に貢献し、持続可能な農業をサポートする選択ができます。
さいごに
鶏のケージ飼いに関する問題は、動物福祉の観点から世界的に注目を集めています。日本でも、動物福祉に対する関心が高まっており、将来的にケージ飼いが禁止される可能性もあります。
わたしたち消費者にできることは、鶏にとってストレスの少ない飼育方法で生産された製品を選び、動物福祉に関する正確な情報をキャッチし、動物たちの福祉向上に貢献できる方法を考えるなど、意識や行動を変えていくことです。
これは鶏の福祉だけでなく、持続可能な農業や環境保護にもつながる重要な課題です。
わたしたちの選択や声を通じて、企業や政策に影響を与え、動物の福祉の向上に貢献できる未来を期待します。