「フランスでペットの販売が禁止に?」「フランスでペットショップが禁止に?」など、日本ではさまざまな情報が飛び交っていますが、これについてフランス在住の筆者がフランス語の情報を詳しく参照しながら本当のところをお伝えします。
今回の変化は素晴らしいものです。しかし完璧に問題が解決したとは言えません。他ではなかなか語られていない大事なポイントまで踏み込んで解説しますので最後までご覧ください。
1. 動物愛護に関する法律「ペットショップでの犬猫の生体販売禁止」の施行
フランスで、今年2024年の1月から施行された法律には…
- 運転免許は17歳から(以前は18歳)
- 生ゴミのコンポスト化を義務付け
- タバコが平均11ユーロに値上がり
- 電気自動車のレンタルに月100ユーロの補助金
などいろいろあるのですが、その中でも特に動物愛護に関わる団体やみなさんが首を長くして待っていたもの、それは「動物愛護に関する法律」です。数ある条文中、マスメディアで最も取り上げられていたのは、「ペットショップでの犬猫の販売禁止」だと思います。
2. その背景(1)捨てられるペット
この「ペットショップでの犬猫の生体販売禁止」が成立した背景には、捨てられるペットが後を絶たないという現状があります。特に、バカンス前の5月から8月にかけてが悲惨で、昨年保護された犬猫は15,618匹にのぼり、今までの記録を破ってしまいました(年間を通しては41,776匹の保護)。
では「なぜ夏に?」と思われる方もいるかもしれません。バカンスが多いことで知られる、ここフランス。有給休暇は5週間も(!)もらえます。日本人的な感覚で「2週間も休みをとったら、同僚に迷惑がかかるかも」などという考えは微塵もなく、会社によっては「最低でも10日はとってね」と担当部署に言われる始末。
そんなこんなで、夏の数週間、家を空けることも少なくありません。ペットを連れて行けない、ペットを預けるつてがない、ペットシッターに払うお金がない(もしくは、もったいない)という理由で、要するに“邪魔者扱い”のペットたちが飼い主に捨てられてしまうのです。嘘のような話ですが、数字が現実を物語っています。
毎年、夏前には警笛を鳴らすCMがラジオやテレビで流れますが、効果は微々たるもののようです。特に、2020-22年にはコロナウイルスの影響で、家で過ごす時間が多かったため、ペットを飼い始めた人が多数いました。フランスでは厳しい外出制限が敷かれましたが、犬を飼っている人は例外的に「散歩に連れて行く」という口実のもとに外出を許可されたという背景も手伝っています。
3. その背景(2)物価の高騰
ペットを捨てる、見捨てるというと、道ばたに置いてきてしまうような印象がありますが、泣く泣く手放す人たちも存在します。その理由の一つが昨今の物価の高騰です。これ以上はもう世話ができないという飼い主たちが増えていて、あるラジオ局の記事によると、SPA(フランス動物保護協会) にはこのような主旨のメールが頻繁に届くそうです。大手ペットショップのブログでは、一匹の犬にかかる年間費用は最低でも1000ユーロと書かれていて、自分たちの生活がいっぱいいっぱいでは、捻出するのが難しい額になってきます。このようにペットを手放す人々が増える一方、ペットを受け入れる方はそれと同じ理由で減っていて、状況悪化に拍車がかかっているのです。
4. その原因─購入者側 : 衝動買い
こういったことが起こる原因の一つは、ペットの衝動買いにあります。服や靴なんかならまだしもペットの衝動買いって…と思われるでしょうが、これも本当の話です。客の方は、深く考えず購入するため、家にペットを迎え入れてから、世話の大変さを知り、その世話にかかる費用に驚き、はたまた自身の家族構成が変わったり、引っ越しをしてしまったりして飼い続けることが困難になってしまう。さらにはペットの(飼い主にとっての)問題行動があったりして、手に負えなくなってしまうという事態が生じるそうです。その原因の一つとして、ペットショップの存在が指摘されていました。
5. その原因─販売側 : 説明不足
ペットショップ、つまり売る側の問題です。ペットショップで販売される犬猫たちは純粋種がほとんどで、客の需要に応えるために、大量繁殖が行われることもありました。そうすると、血縁が近い親から生まれる子猫や子犬もいて、人間と同じように、心身に問題が出ることも少なくないそうです。さらには、売ることを急ぐあまりに、子猫と子犬は早々と離乳を強いられたり、多くの人間とのコンタクトを早々と求められ、精神的に安定しない子たちが多数いたと考えられています。このような、人間たちのせいで心と体に不調をきたしたペットは家でも人間にうまく順応できず、飼い主になつかず、それに耐えられない人たちが手放すというサイクルができてしまっていたのです。
さらには、ペットショップの方もビジネスですから、売り上げが伸びればもちろん嬉しいわけで、ペットを入手するにあたっての心構えの説明を十分に果たしていなかった、それを行なっていれば避けることができた事例もあったと考えられます。
6. 抜け道+余談 : ペットは家族の一員?
そこで、このような悲しい結末を導かないように、ペットショップでの犬猫の生体販売が禁止となりました。今後は基本的にはブリーダーからか、SPAのような保護団体からしか手にいれることができなくなります。「基本的に」というのがやっかいで、実はペットショップの犬猫を売るビジネスが完全に断たれたわけではありません。フランス政府サイトによりますと…
- 購入者とブリーダーをつなげる
- 店のショーケースではなく、店外に犬猫専用の飼育施設がある
場合は、生体販売が可能だとのことです。
ここで余談ですが、「購入」というフランス語は acheter となるのですが、最近この単語は使われなくなってきていて、お金を出して買っていても adopter =「(養子として)迎え入れる」が使われる傾向にあります。acheter を使うと物を買うような感じがし生々しいし、ペットも家族の一員として扱われているからではないからでしょうか。
7. 他の対策─誓約書への署名
さて話を元に戻しますと、「ペットショップでの犬猫の生体販売の禁止」以外にも、飼い主の衝動買いを抑制するために2022年10月に先駆けて導入されていたものがあります。それが「誓約書への署名」です。この書類は、犬猫だけでなく、うさぎや馬、ろばなどにも適用され、動物を迎え入れる7日前に署名することが義務付けられています。犬の場合は何が書かれているかといいますと以下のとおりです。
8.「誓約書」の内容
- 犬を飼うというのは長期の契約を意味しており、家庭全員の同意があることが前提で、ものの言えない犬が苦しまないようにするべきである
- 犬というのは社交的な動物で、他の犬と触れ合わせたり、年齢や体調に応じて、日常的に運動をさせなければならず、そのためには飼い主に時間の余裕があることが必要である
- 犬の健康には留意し、問題がみつかれば獣医に受診させること。その費用を一部賄うためには、民間の保険に加入することができる経済状況であること
- 飼い主が家を空けなければならない理由がある際は、しかるべき場所に犬を預けること
- 動物を捨てることは犯罪であり、3年の懲役、45000ユーロの罰金を課せられることがありうる。やむを得ない場合は、ブリーダーなどに連絡し、新しい飼い主を探す努力をし、解決策が見つからなければ、保護団体に連絡をとること
などで、最後にサインをするようになっています。
ただこの書類の法的効力というのは、実際にはあまりないようで、署名をしたにもかかわらず、SPAに引き取った動物を返しにきたという人の話がインターネットに出ていました。
9. 今後の課題
これらの政府主導の対策を動物愛護団体は歓迎してはいるものの、手放しで喜んでいるわけではありません。というのも、うさぎをはじめとする、ハムスター、へびなどはペットショップでの売買がまだまだ可能で、新しいタイプの「捨てペット」が増加傾向にあるからです。
さらには、これらの持ち運びができるぐらいの大きさの動物は、犬や猫よりも物のようにぞんざいに扱われることがあり、あるインターネットの記事では、これらのペットがよく保護されるのは、高速道路のパーキングエリアだとか。バカンスに出る途中で捨ててしまうんでしょうか?すべての動物に「ペットショップでの生体販売禁止」を適用するために、SPAやFondation 30 milions d’amis(直訳すると、3000万の友達財団)といった団体はネット上で署名活動を行い、政府に提出することを計画しています。
まとめ
フランスで、完全に捨て犬や捨て猫がいなくなるわけではなさそうですが、少し前進したとも言えるでしょう。まだまだ、ネット上で個人間の犬猫譲渡をうたう掲示は探せば出てくるので、こういう取引を取り締まっていくのも今後の課題になっていくはずです。何はともあれ、この法律の施行が吉と出ることを祈りつつ、今年の夏のバカンス明けの数字に注目したいと思います。