動物が人間にもたらす癒しの効果は、科学的にも立証されています。
その効果を生かして生まれたのが、アニマルセラピーです。
アニマルテラピーは、犬をはじめとする動物たちの癒しの効果によって、ストレスを軽減したり、人の社会性を改善したりします。
たとえば、地域在住高齢者に対して介護予防を目的として乗馬療法プログラムを提供したり、介護施設や病院で犬と触れ合うことで、心身の健康につなげたりといった活動です。
日本では、「NPO法人日本アニマルセラピー協会」や「公益社団法人日本動物病院協会 ヒトと動物のふれあい活動」が中心となって、アニマルセラピーを推進しています。
実際の活動を、詳しくみていきましょう。
日本のアニマルセラピーの実際

日本では、1970年代に乗馬療法を取り入れたことがアニマルセラピーの始まりだといわれています。
それから少しずつアニマルセラピーが普及していき、現在では子どもから大人まで、さまざまな目的に合わせたアニマルセラピーが実施されているのです。
アニマルセラピーは大きく、以下の三つにわけられます。
- 動物介在療法
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認知症の回復やリハビリテーションに動物の力を借りる療法です。
身体の機能だけでなく、精神的・社会的機能の回復も含まれます。
具体的には、乗馬療法やセラピー動物の飼育があげられますが、日本ではまだ数が少ない療法です。
- 動物介在活動
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レクリエーション活動を中心としてセラピー動物に触れることで、癒しやリラックス効果を得ることができます。
高齢者施設や病院でのふれあいなどは、ここに含まれます。
- 動物介在教育
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動物と触れ合うことで、命の大切さや触れ合い方を学ぶ機会を提供する活動です。
学校に動物を連れて行き、実際に触ったりレクチャーを受けたりします。
動物介在教育を教育プログラムの一環とする学校も増えています。
日本で活躍するアニマルセラピーの動物

まずは、日本でどのような動物がアニマルセラピーで活躍しているか、一緒にみていきましょう。
犬
アニマルセラピーの代表と言える動物です。
犬は、愛情豊かで我慢強いことやしつけがしやすいことから、アニマルセラピーに適しています。
例えば、病院やリハビリ施設で回復のために努力している人たちを励ましたり、触れ合うことで癒しやリラックス効果を提供するのが、犬によるアニマルセラピーの効果です。
また、施設を訪問して対象者に触れてもらうだけでなく、セラピードッグのお世話をすること自体も、アニマルセラピーに役立っています。
セラピードッグのお世話を通じて、社会復帰の一助としているのです。
猫
犬だけでなく猫もセラピーで活躍しています。
猫は、身体が柔らかくふわふわしていて、その感触が人々に癒しを与えます。
猫に触れ合うことで、ストレスを感じたときに分泌されるコルチゾールというホルモンを抑えることがわかっており、血圧を安定させる効果があります。
長期的に猫に触れることで、脳疾患や心疾患のリスクを減らすことにつながります。
また、猫のゴロゴロと喉を鳴らす音にも、癒しの効果があります。
猫の喉を鳴らす音の周波数が、人のストレスを減らしたり、免疫機能の向上に役立つといわれています。
また、ゴロゴロとのどを鳴らしているのは、猫自身もリラックスして幸せを感じているときです。
そのため、猫にとっても人同様の効果があるとされています。
猫の場合は、個体によって臆病だったりストレスを感じやすかったりします。
どの子でもセラピーに向いているわけではなく、おとなしく甘えん坊の性格の子が向いており、品種ではラグドールやアメリカンショートヘア、ノルウェージャンフォレストキャットなどです。
馬
日本で初めて導入されたアニマルセラピーが、馬によるものです。
直接触れ合うだけでなく、乗馬の動きを活用することで、リハビリテーションによる身体的機能の改善も期待できます。
海外では、病院や施設の中に馬が入り、お部屋を訪問して人々と触れ合う機会がありますが、日本では乗馬療法がメインです。
乗馬療法で期待される身体機能の改善・回復は、以下のものがあります。
- 体幹が鍛えらえることによる姿勢の改善
- 腰痛や関節痛の軽減
- 下肢筋力低下の予防
- 骨盤底筋群を鍛えることによる女性の尿失禁の予防
- ヒップアップ
乗馬療法では、下半身を中心とした筋肉が鍛えられるため、それに伴う効果が多くみられるのが特徴です。
また、馬は体温が高く、触れているだけでも温かさを感じます。
癒しの効果だけでなく、自分よりも大きな動物に触れたりお世話をしたりすることで、達成感や自信につながるのも馬によるセラピー効果です。
乗馬療法は、多くの乗馬クラブで導入されています。
うさぎやモルモット、小鳥など
小さくて触りやすいという点から、うさぎやモルモット、小鳥などもアニマルセラピーに向いている動物です。
ただし、いずれも臆病で、驚いて噛んでしまうこともまれにあるので、扱いには十分に注意しなければなりません。
これらの動物は、医療機関のセラピーではなく、家庭で飼育することで効果を感じやすいのが特徴です。
引きこもりや不登校のお子さんがいらっしゃるご家庭や、小さなお子さんの情操教育にも適しています。

イルカ
群れで生活するイルカは、共感能力が高く、さらに超音波で人間の体調まで感じ取ることができるとされています。
イルカと触れ合うことによって、精神疾患が改善したり、コミュニケーション能力が向上したりといった効果が見込まれているのです。
海外ではこんな動物も
海外では、意外な動物がアニマルセラピーで活躍しています。
- 猿
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知能が高いために扱いが難しそうな猿ですが、アメリカやフランス、ベルギーではセラピーに利用されています。
フサオマキザルが多く活用されています。
- 牛
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オランダで始まった取り組みで、身体が大きく体温の高い牛とのハグが癒しの効果があるとして、アメリカやスイスの農場などにも広まっています。
人間と触れ合う牛にとってもリラックス効果があることも報告されていますが、牛はコンパニオンアニマルとしての歴史が浅いため、扱いには注意が必要です。
介護施設で期待される心理的効果

介護施設では、アニマルセラピーによってどのような心理的効果が期待されているのでしょうか。
介護施設では、癒しの効果だけでなく、動物と触れ合うことを目的とした積極性や、動物に心を開くことにより、人間にも心を開きやすくなること、そして生きる意欲がわくといった効果が期待されます。
- ・積極性が向上する
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動物と触れ合いたいと思うことで、横になっている体勢から身体を起こしてみる、屋内から屋外へ出かけてみる、いつもより歩いてみるといった意欲が生まれます。
積極性が生まれることで、結果として身体の健康にもつながるのです。
- ・心を開きやすくなる
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施設の環境になかなかなじめず、心を閉ざしがちになっている方でも、動物と触れ合うことで徐々に心を開いていきます。
動物との触れ合いをきっかけに周囲の人々と会話が弾み、コミュニケーションの機会が増えます。
- ・生きる意欲がわく
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動物と触れ合うことで、温かさを感じて気持ちが前向きになったり、お世話をすることで責任感が生まれたり、愛情が生まれることで、生きる意欲へとつながります。
一度のふれあいではなく、定期的に何度も動物と触れ合うことで、効果はより大きくなります。
身体が思うように動かないと日々の目標を見失いがちになりますが、動物たちと再び会うという目的が、明日への糧になるのです。
また、何度も繰り返し触れ合うことで、孤独感も和らぎます。
動物と触れ合うことがきっかけで、心理的効果がその人の明るい未来へとつながることは、とても大事なことです。
発達障害にも期待されるアニマルセラピー

アニマルセラピーによって動物たちと触れ合うことで、幸せホルモンである「エンドルフィン」や「オキシトシン」、「セロトニン」、「ドーパミン」などの分泌が促進されます。
- エンドルフィン:痛みの鎮静、安定感をもたらします。
- オキシトシン:癒しや安心感、幸福感をもたらすホルモンです。
- セロトニン:イライラやストレスを抑制します。
- ドーパミン:はポジティブな気持ちにしてくれるホルモンです。
また、ストレスホルモンである「コルチゾール」の分泌が抑制されることもわかっています。
これらの効果によって癒しやリラックスした気持ちがもたらされるのです。
発達障害を持つ方々は、そうでない方々とくらべると、ストレスを感じやすい傾向があります。
動物たちと触れ合うことで、これらのホルモンの作用を受け、不安やストレスが和らぎ、リラックスできるのです。
そして、リラックスするだけでなく、「一緒に遊びたい、お世話をしたい」という気持ちがわいてきて、運動機能の向上や何かをやってみようという気持ちを引き起こします。
発達障害があるお子さんのおうちでペットを飼育している場合に、以下のような改善がみられた報告があります。
自閉症のお子さんでは自己主張を中心としたソーシャルスキルが、また、注意欠陥多動性障害(ADHD)をもつお子さんでは、その傾向が和らいだというものです。
動物たちとの触れ合いは、私たちの想像以上の効果をもたらしてくれます。
参照:J-STAGE|日本義歯装具学会誌|アニマルセラピーで、人と犬がともに健康で幸せに生きる社会に
アニマルセラピーを導入している施設

日本でアニマルセラピーを導入している施設をご紹介します。
1.公益社団法人日本動物病院協会
まず一つ目は、公益社団法人日本動物病院協会で、「人と動物のふれあい活動」の実施を行っている施設です。
同協会のホームページで、実施している施設が紹介されています。
同協会で発表されている施設は、北海道から九州まで、全国に約160施設です。
ちなみにこの活動は1986年5月に始まり、2024年3月末時点で、2万3千回以上の訪問回数を誇ります。
登録すればボランティアとして参加することも可能とのことで、興味がある方は問い合わせてみるといいでしょう。
2.NPO法人日本アニマルセラピー協会
二つ目は、NPO法人日本アニマルセラピー協会が活動している施設です。
こちらは、ホームページから過去の施設の訪問実績をみることができます。
同協会は、平成19年の設立以来、8万人以上の方を対象に活動されています。
上記二つの協会以外にも、各地で活動されている法人や協会があり、そちらのホームページの活動実績から、どのような施設に訪問されているのかを知ることが可能です。
お住まいの都道府県から検索してみてはいかがでしょうか。
身近なところで導入されているかもしれません。
動物と同居できる介護施設も出現

動物と同居できる介護施設も、近年は出現しています。
それまでは、高齢を理由にペットを飼うことをあきらめたり、施設に入居して動物との触れ合いをあきらめざるを得ないことも多くありました。
しかし、近年のアニマルセラピーの効果の実証や高齢になってもペットと過ごしたいという需要の高まりによって、ペットと同居可能な施設が現れたのです。
ペットと過ごすことによって、介護リスクの減少や血圧・心拍数の低下、延命効果が報告されています。
ペットとともに、健康で長生きできる生活を目指しましょう。
下記のサイトから、全国のペットと入居できる介護施設を探すことができます。
また、ペットとして飼うには不安があるという方には、施設犬や施設猫が暮らしている介護施設も選択肢の一つです。
施設犬や施設猫の場合は、基本的なお世話は施設の方がしてくれるので、何かあったときにも安心です。
数はまだ少ないですが、アニマルセラピーの効果が期待される今、施設の数はこれから増えるのではないかと思われます。
まとめ
動物たちは、私たちが思っている以上に多くの目に見えないものを与えてくれます。
アニマルセラピーが普及することは、私たち人間にとって、動物たちの存在意義をより明確にしてくれるのです。
人間も、人間に関わる動物たちも、お互いに尊重し合い幸せになれる社会は、以前よりも身近なところまでやってきています。
ペットではなく伴侶動物として、家畜ではなく私たちを生かしてくれる存在として、アニマルセラピーが普及することで、お互いが暮らしやすい社会へと変化していくことでしょう。