1970年代にスタートした日本のアニマルセラピーは徐々に浸透し、今では全国各地の病院や施設で実施されています。
また、セラピーを行ってくれる動物も、セラピー導入当初の馬だけでなく、犬や猫、小動物と幅広い種類の動物による効果が実証され、導入されています。
では、セラピーのお手伝いをするアニマルセラピストの実際は、日本ではどうなっているのでしょうか。
今回は、日本におけるアニマルセラピストの従事人数や仕事内容、アニマルセラピストの資格取得の方法などをご紹介します。
アニマルセラピストにご興味のある方は必見の内容です。
日本のアニマルセラピストの実際
欧米に比べ日本のアニマルセラピーは歴史が浅く、セラピー内容は欧米よりも限られています。
欧米では、アニマルセラピーは公的に認められている治療法です。
そのため、アニマルセラピーを実施している病院や施設の数も多いのです。
しかし、日本ではアニマルセラピーはまだまだ浸透している最中であるため、実施している施設は日本全国にあるものの、数は限られています。
日本のアニマルセラピーの現状については、下記の記事をご覧ください。
【心理効果も簡単にわかる】アニマルセラピーの今を解説 | Animal Compassion
アニマルセラピストはどれくらいいる?
日本には、アニマルセラピストはどれくらいいるのでしょうか。
アニマルセラピストの総数は明確にされていませんが、日本アニマルセラピスト協会によると、2018年の段階で所属されているアニマルセラピスト資格取得者は約1000名とのことです。
現在は、専門学校やオンライン講座の実施などで、資格取得者はさらに増えていると思われます。
じつは、日本のアニマルセラピストの資格は国家資格ではありません。
そのため、アニマルセラピストとして働いている方の多くが、ボランティアや非正規雇用の方だったりします。
看護師や理学療法士、介護福祉士として従事している方がほとんどで、医療や介護の仕事をメインにしながら、アニマルセラピストの資格を役立てている方が多いのが、日本の現状です。
日本でアニマルセラピストを本業として働くには、アニマルセラピーのさらなる浸透が必須といえるでしょう。
アニマルセラピストの仕事内容
アニマルセラピストの仕事内容は、セラピーを行う動物と協力し、対象者の精神的・肉体的ケアのお手伝いをすることです。
アニマルセラピーには、レクリエーション活動が中心の動物介在活動、リハビリやトレーニングが中心の動物介在療法、学校や幼稚園などで実施する動物介在教育の三種類があります。
アニマルセラピストの主なお仕事は、動物介在活動のお手伝いです。
動物介在活動では、病院や介護施設などで動物と触れ合ったりレクリエーションを交えたりして、楽しんだり、ストレスを軽減したりします。
アニマルセラピーを受けられる方は、お元気な方ばかりではありません。
病気が原因で塞ぎ込んでいたり、発達障害や自閉症などで周りの人とのコミュニケーションが取りにくい場合もあります。
そのような方々を、セラピー動物と協力しながらサポートし、元気を取り戻してもらったり、コミュニケーションを取りやすい環境を整えていきます。
アニマルセラピストのお仕事は、ただ動物が好きなだけではなく、困っている人をサポートしたいという気持ちと、共感力や洞察力が必要になる仕事なのです。
アニマルセラピストになるには
アニマルセラピストの講座を受講し、試験に合格すればアニマルセラピストとして働くことが可能です。
アニマルセラピストの講座を開講している団体をご紹介します。
日本アニマルセラピー協会
日本アニマルセラピー協会では、アニマルセラピストの資格を初級・中級・上級の三種類に分類し、初級から受講することができます。
初級では、動物介在活動のために必要な知識を身に着けることが可能です。
中級では、動物介在教育に必要な知識を、上級では、動物介在療法を行うため、医師や病院、患者さんをつなぐための知識を身に着けることができます。
日本アニマルセラピー協会でアニマルセラピストをめざす場合は、オンライン受講コースとと通信制コースから選ぶことができ、ライフスタイルに合わせた受講が可能です。
また、同協会では、アニマルセラピストの資格を取得したあと、愛犬をセラピードッグとして認定するための試験に挑戦することもできます。
セラピー犬認定試験に合格して登録されると、セラピードッグとして活躍することができ、
愛犬とともにアニマルセラピーに携わることができるのです。
一般社団法人アニマルセラピーこころサポート協会
一般社団法人アニマルセラピーこころサポート協会では、動物介在セラピストとして、アニマルセラピストの資格講座を受講することができます。
動物介在セラピストは2級と1級があり、協会が主催するセラピー活動に参加するには、両方の受講が必要です。
動物介在セラピスト2級の内容は、アニマルセラピーの内容や効果、生体管理の方法などを中心に学習します。
アニマルセラピーについて詳しく知りたいという方にもおすすめの検定です。
動物介在セラピスト1級の内容は、実際に活躍するセラピー犬と一緒に研修を受け、現場で活躍できるための資格を取得します。
1級の研修には、ご自身の愛犬と一緒に参加することも可能です。
こちらの協会が主催している検定は、ほかの検定や講座と比較して費用が掛からないため、アニマルセラピーについて学習してみたい、興味があるという方におすすめです。
教育機関
専門学校や大学などでアニマルセラピーについて専攻することでも、アニマルセラピストとしての仕事を目指せます。
日本でアニマルセラピストを目指せる専門学校・大学は、全国に約50校あります。
学校に通ってアニマルセラピストをめざす場合は、対象とする動物がご自身の希望するセラピー動物であるかどうか、確認してから受験しましょう。
アニマルセラピストを目指す専門学校の多くは、ドッグセラピーを中心としたカリキュラムです。
また、中にはトリマーやトレーナーの専門課程で学習する内容の一環として、アニマルセラピーの知識を履修する場合もあります。
アニマルセラピーを本来の目的とされている場合は、専門性がずれてしまうことがあるため、注意が必要です。
専門学校でアニマルセラピストをめざす場合には、学校案内をしっかりと読んで、対象動物だけでなく学習内容も確認してから応募しましょう。
大学では、心理学やアニマルサイエンス、動物心理学といった分野で、アニマルセラピーについて専門的に学習することが可能です。
ホースセラピーの場合
馬をセラピー動物としてリハビリや作業療法に取り組む場合には、アニマルセラピストの資格を取るよりも、ホースセラピーの資格を取ることをおすすめします。
ホースセラピストの資格は民間資格であり、それぞれの運営団体の基準に従ってカリキュラムや資格認定が行われます。
2024年パリオリンピックでの総合馬術団体で、日本代表チームが92年ぶりに銅メダルを獲得しました。
これを機に乗馬に注目が集まり、ホースセラピーの需要も増えるかもしれません。
アニマルベジテイションカレッジ
日本では、千葉県にある馬の専門学校「アニマルベジテイションカレッジ」が、ホースセラピーの資格を取れる代表的な学校です。
アニマルベジテイションカレッジは小学3年生から通うことができる馬の専門学校で、年間100日以上講習に通い、1年で基礎課程、2年次以上からは厩務員や騎手、アニマルセラピーといった専門課程を学習します。
学業と仕事を両立しながら通うことも可能です。
大学など
そのほかにも、大学でホースセラピーを専門に学習することで、牧場や乗馬クラブでホースセラピーに取り組むといった方法もあります。
馬は穏やかな草食動物といっても、身体がとても大きな動物で、力も強い生き物です。
専門的な知識がないまま扱うと、ケガや事故につながります。
そのため、まずは馬のことをよく知り、馬の行動をある程度コントロールできるようになることが必要です。
利用者の方に、馬によってケガをさせないよう注意を払えるようになることが大事です。
ホースセラピーを謳っている乗馬クラブや施設の多くには専門家がいるため、専門家の指導を受けながら、利用者の方に馬と親しんでもらい、ご自身の経験につなげることができます。
アニマルセラピーを事業として行う場合
アニマルセラピーをご自身で事業として行う場合には、「第一種動物取扱業」の登録が必要となります。
第一種動物取扱業とは、動物の販売や貸し出し、訓練など、営利目的で動物を利用する場合には、事業所ごとに都道府県知事もしくは政令指定都市の長から登録を受けることが必要です。
ペットシッターや出張訓練をするような、実際に動物を飼育していない場合にも、この登録は必要になります。
第一種動物取扱業では、自治体によって守るべき事項が取り決められています。
守るべき事項として定められているのは、以下のような項目です。
- 飼養施設の構造や規模
- 飼養施設の維持管理方法
- 動物の管理方法
- 表札の掲示や動物管理責任者の配置など
また、問題があると判断された場合の立ち入り検査の実施や基準を守らなかった場合の罰則も設けられています。
アニマルセラピストの今後の需要は?
日本は、欧米諸国に比べるとアニマルセラピーの歴史も浅く、そこまで浸透していません。
アニマルセラピーが浸透するには時間はかかるかもしれませんが、需要の増加自体は期待できます。
というのも、アニマルセラピーの効果は徐々に立証されてきており、病院や介護施設、学校といった場での活用場面が増えているからです。
アニマルセラピストの資格が民間資格から公的資格になれば、もっと需要が増える可能性もあります。
ちなみに、数年前に愛玩動物看護師が民間資格から国家資格になりました。
愛玩動物看護師が国家資格になった背景には、ペットブームがあります。
ペットブームで愛玩動物を飼育される方が増えると、動物病院に受診される患者数も当然増加します。
動物病院で診療にあたる獣医師は国家資格でしたが、獣医師を補佐する看護士はそうではありませんでした。
誰でも動物看護士になれる、ということは、裏を返せば知識や技術が未熟な場合でも現場に立つことができてしまうということです。
愛玩動物看護師を国家資格とすることで、知識や技能の最低ラインを定め、技能水準を確保することと、愛玩動物看護師の業務を明確化することができたのです。
アニマルセラピストの需要増にはアニマルセラピーの浸透が必須
愛玩動物看護師のように、アニマルセラピーがもっと認知されて需要が増えると、アニマルセラピストの需要も当然増加します。
そうすると、セラピーの質やセラピストの技能水準も一定レベル以上のものが求められるようになってきます。
アニマルセラピーが浸透することで、アニマルセラピストの需要も必然的に増えてくるのです。
高齢化社会で需要は増える可能性大
日本でアニマルセラピーの需要が増えると考えられている理由の一つは、高齢化です。
高齢化が進むと、多くの高齢者が老人ホームといった介護施設で生活されるようになります。
介護施設では衣食住が保証されますが、それだけでは、身体は徐々に衰えていきます。
慣れ親しんだ家を離れて、家族とも別れて暮らすことでコミュニケーションが希薄になり、認知症になるリスクも高くなります。
健康的に長生きするには、適度な刺激や前向きになる要素が必要です。
アニマルセラピーで動物と触れ合うことで、あたたかさを感じてリラックスしたり、楽しいといった感情が生まれたり、前向きな気持ちになれます。
また、セラピーによって施設にいるスタッフや利用者の方、セラピストといった周囲の人とコミュニケーションを取れるため、人間関係が改善される例もあるのです。
動物と触れ合うことによるリラックス効果や、認知症をはじめとする疾患のリスクを減少させる効果は科学的に立証されています。
これらの実績によって、介護施設でのアニマルセラピーの需要は、今後も増加するでしょう。
また、それまで飼育していた動物と一緒に暮らせる介護施設も徐々に増えてきています。
まとめ
アニマルセラピーが普及することで、私たち人間が暮らしやすくなるだけでなく動物たちの暮らしを改善することにもつながります。
セラピー動物の活躍の場が増えることで、動物たちにとって暮らしやすい環境が整い、それまでなかった役割を与えられることで、動物の権利も確立されていくのです。
日本ではまだまだ発展途上のアニマルセラピーは、今まで活動されてきた多くのセラピスト・セラピー動物によって支えられてきました。
現代のように広く認知されていなかったころは、物珍しい目で見られることもあったかもしれません。
しかし、今日まで積み上げてこられた実績によって、アニマルセラピーのこれからの発展の礎が作られたといえます。
アニマルセラピーを支えるアニマルセラピストも、これからどんどん認知されていくことで、高齢者を中心とした必要とされる人々に、なくてはならない存在になるでしょう。