ラクダといえば、砂漠を象徴する動物です。
広大な砂漠をゆったりとした足取りで、荷物や人を運ぶ姿をイメージされる方も多いでしょう。
ラクダは日本でも飼育されていて、動物園でみたことがある方もいるかもしれませんね。
また、鳥取県の鳥取砂丘では、実際にラクダに乗って散歩することができます。
ラクダは古くから、中東地域をはじめとする場所で重要な移動や運搬、農耕のパートナーとして、人間とともに活動してきました。
しかし今、なんとオーストラリアで外来種問題として取り上げられているのです。
なぜ、もともとその地域に生息していなかったラクダが、オーストラリアで問題になっているのでしょうか。
今回は、オーストラリアにおけるラクダの外来種問題とともに、その魅力的な生態についても探っていきましょう。
増えすぎたラクダがオーストラリアの外来種問題に

ラクダは、アフリカや中東がおもな生息地で、もともとオーストラリアには生息していませんでした。
オーストラリアへは、19世紀にイギリスが移動手段としてラクダを持ち込みました。
車や鉄道が普及していなかった植民地時代に、過酷な状況でも役に立つラクダは、とても優秀な移動手段だったのです。
そこから野生化したものが、現在オーストラリアで生息しています。
過酷な状況で生き延びることができるラクダは、少しずつ数を増やし、今ではオーストラリアに数十万頭〜100万頭はいるとされており、外来種として問題になっているのです。
増えすぎた野生のラクダを駆除するため、多くのラクダが対処されているのが現状です。
なぜラクダがオーストラリアで増加?
砂漠の動物として有名なラクダがオーストラリアで数を増やすことができたのは、おもに以下のような理由があります。
- 故郷と気候が似ている
- 天敵がいない
- 豊富な食糧
- ラクダのタフさ
じつは、温暖で暮らしやすそうな気候に思えるオーストラリアの広い範囲は、およそ37%が砂漠やサバンナで、乾燥地帯が広がっています。
もともと砂漠やサバンナで生息していたラクダにとって、連れてこられた場所は、故郷とあまり変わらない、彼らにとって過ごしやすい場所だったのです。
オーストラリアのもともとの生態として特徴的なのが、大型の肉食動物がいないことがあげられます。
カンガルーやコアラなど、独自の進化を遂げた動物は数多くいるのですが、いずれも草食動物や雑食動物ばかりなのです。
狩られることがないラクダは、どんどん数を増やしていきました。
また、オーストラリアには多くの植物が繁茂しています。
ラクダはほかの動物が食べないようなトゲのある植物でも食べられる動物です。
もともと生息していた草食動物たちとは食生も異なるため、食べものに苦労しませんでした。
加えて、ラクダの少量の水でも長期間生息できる(植物から水分摂取できる)生態や、寿命が25〜40年(長いものは50年ほど) と長いことなども影響して、ラクダはどんどん数を増やしていったのです。
外来種としての影響

増えすぎたラクダは、やがてオーストラリアの生態系や人々の生活に悪影響を与えはじめます。
オーストラリアには複数の砂漠があり、その周辺にラクダは多く生息しています。
オーストラリアの砂漠は広大な砂地というよりも、低木や草が広がるサバンナのような場所がほとんどです。
ラクダは、水がない環境ではほとんど飲まずに生活できますが、そのためにたくさんの蓄えを作るために、植物を食い荒らしてしまうのです。
オーストラリアの家畜と競合することももちろんありました。
さらに、人間が住んでいる場所に侵入して、敷地内の塀や構造物を破壊して水を得ようとすることも少なくないのです。
ラクダは、身体の大きな動物で、体重は400~500kgにもなります。
また、ラクダは、群れで行動する動物です。
大群となって押し寄せるラクダによって、人々の生活の場は大きなダメージを受けることになりました。
環境問題と駆除
大量に増えた野生のラクダによって、オーストラリアでは環境問題も発生しています。
群れとなって一帯の植物を食べてしまうことで、もともとの植生のバランスが崩れ、大量の排泄物によって土壌や水質汚染が引き起こされてしまうのです。
ラクダから排出されるメタンガスも問題となっています。
ラクダの群れが水を大量に飲むことで、水場が枯渇して、人間を含むほかの動物たちにも深刻な影響を与えます。
これらの問題を受け、オーストラリアでは現地の人々によって当たり前のようにラクダの駆除が行われるようになりました。
年間に数百頭を駆除する人もいるようです。
また、政府当局による空からの大規模な頭数調整も行われています。
野生化した馬も同様の問題に
じつは、オーストラリアで同様の獣害をもたらしているのはラクダだけではありません。
野生化した馬やロバ、ヤギなども問題となっています。
オーストラリアには、ラクダや馬、ロバ、ヤギなどのほかにも、人間の都合で連れてこられた動物がいます。
- ウサギやキツネ
-
狩猟の標的にするため
- 猫
-
ネズミを駆除するため
- ブタ
-
家畜として
これらの多くの動物が野生化して、獣害をもたらしていることがオーストラリアでは問題となっているのです。
持続可能な共生に向けた人間とラクダの未来

オーストラリアでは、駆除されるラクダが多数いる一方で、人間がうまく管理して農業に生かしているケースもあります。
ある農場では数百頭のラクダを飼育して、そのミルクを使用した乳製品を製造・販売しています。
ラクダのミルクは牛乳よりも栄養価が高く、ビタミンCや鉄分、ラクトフェリンなどの成分が多く含まれるのが特徴です。
また、脂肪球が小さいことから吸収されやすく、ペット用のミルクとしても注目されています。
日本ではほとんど目にすることはありませんが、パウダー状のミルクはオンラインショップをはじめとする場所で購入可能です。
また、じつはラクダは低カロリーかつ高プロテインの良質な肉として、中東をはじめとする地域で食べられています。
このように、適切な管理をすることで、農産物として利用することはできるのです。
ただし、それにはやはり増えすぎた野生のラクダの数をコントロールすることは必要です。
駆除するだけでなく、家畜化や日本のジビエのように利用できる道を模索することも、今後の対応として求められていくでしょう。
ラクダの砂漠や乾燥した環境に適応した生態とは

過酷な気候の砂漠や乾燥した地域で暮らすことができるラクダは、ほかの動物にはない素晴らしい機能をもっています。
その特殊性は砂漠にすむ人間の生活にも大きな影響を与えています。
「砂漠の船」とも呼ばれるラクダの生態をご紹介しましょう。
見た目の構造
ラクダといえば、背中のコブに長い首、スラッと伸びた足に長いまつ毛が特徴です。
ラクダの長い足は、灼熱の地面からなるべく身体を遠ざけるために進化したといわれています。
また、足が長いことで歩幅が広くなり、効率的に移動することが可能です。
ラクダの足の裏は蹄ではなく、肉球に覆われています。
分厚い肉球のおかげで、昼間の灼熱の砂の上もほとんど熱さを感じず歩くことができるのです。
そして、蹄ではなく肉球に覆われることで表面積が広くなり、不安定な砂の上でも安定して歩くことができます。
歩くときは右前足・右後ろ足を一緒に出す「側対歩」で歩きます。
これは省エネで、長い足がぶつかるのを避けられる歩き方です。
ラクダは足が長いため、地面から水を飲んだり草を食べたりするために頭を下にさげなければなりません。
そのため、ラクダの首は長くなりました。
また、首が長いことで高い樹木も食べやすくなります。
草食動物にとって、首の長さはエサを効率的に食べるためにとても役に立つのです。
また、高い位置から周囲を見渡せるため、外敵の発見もしやすくなります。
コブの役割
ラクダの象徴ともいえるコブは、骨格や筋肉ではなく、柔らかな脂肪でできています。
このコブに栄養が蓄えることで、数ヶ月はなにも食べなくても生きていくことが可能です。
そして、なにも食べないでいるとコブはだんだんとしぼみ、力なく倒れていきます。
しかし、一度倒れたコブも再び栄養を取り込むことで元通りになるのです。
自然界では食べものがなく絶食せざるを得ない状況は当たり前にありますが、動物園で飼われているラクダも、数ヶ月食事を取らないことがあることが報告されています。
顔の構造

ラクダの顔といえば、ふさふさの長いまつ毛が特徴です。
つけまつ毛をつけたような長くカールしたまつ毛は、砂漠の砂や塵から目を守るのに役立っています。
ラクダのまつ毛は、上下2層になって生えており、長さは平均して4~5cmもあります。
また、まぶたと瞳の間には瞬膜というもうひとつのまぶたがあり、これもまた、瞳を守るのに役立っているのです。
また、鼻の穴をぴったりくっつけて閉じられることや、耳にびっしりと生えた細かい毛も、砂漠の砂や塵が入ってこないようにすることができます。
激しい砂嵐から顔を守れるように、ラクダは進化してきたのです。
楕円形の赤血球
ラクダの砂漠で生きることに特化した特徴は、身体の外側だけではありません。
なんと、血液中で酸素を運ぶ役割を持つ赤血球も、一般的な動物たちとは異なる形をしているのです。
人間をはじめとする動物の赤血球は、中央部分が凹んだ円盤のような形をしています。
しかし、ラクダは楕円形をしており、たくさん水分を摂取して体内で急激な浸透圧の変化が起きた場合にも破裂しない形になっています。
反対に、脱水状態にあっても、細い血管の中をスムーズに流れることができるのです。
ラクダは15分ほどの間に、100~200Lほどの水分を一度に飲むことが可能です。
食性

ラクダは草食動物ですが、生息地とする砂漠には、選り好みできるほどの植物は生えていません。
乾燥に強い、とてもみずみずしいとはいえない植物ばかりです。
ラクダは、サボテンをはじめとするトゲのある植物や硬い枝、葉っぱなど、ほかの草食動物が食べない植物も食べることができます。
そのため、歯は鋭く、強靭な顎をしています。
口の中には乳頭状突起というたくさんの硬いヒダがあり、傷がつきにくいように粘膜も分厚くなっているのです。
そして、牛のように食べたものを反芻することで、効率よく栄養を吸収しています。
体温
ラクダの平均体温は37℃くらいですが、体温が上がっても41℃くらいまではほとんど汗をかきません。
また、水分が少ない場合には、34℃くらいまで体温を下げることもできます。
日中は気温に合わせて体温を高くすることで熱を蓄えます。
そして、気温が下がる夜に熱を放出して、汗として出ていく身体の水分の発散を抑えているのです。
こんなところでも生きられる?ラクダの多様な生息環境

ラクダは、アフリカや中東の砂漠地帯だけでなく、インドや中央アジア・東アジアにも生息しています。
ラクダは、コブの数によって大きく2種類にわけることが可能です。
暑く乾燥した地域に生息するヒトコブラクダと、寒冷地に生息するフタコブラクダがいます。
ラクダが生息している主な地域をご紹介します。
エジプト
多くの方が、エジプトの砂漠をゆったりと歩くラクダをイメージするでしょう。
エジプトでは野生のラクダはおらず、すべて家畜として飼育されています。
エジプトでみられるラクダは、ヒトコブラクダです。
農業だけでなく荷物の運搬や、観光として、人間を乗せてピラミッドの周辺を歩くような仕事をしています。
インド
インドで生息するラクダもヒトコブラクダです。
約80%がタール砂漠のあるラージャスターン州に生息しており、エジプトのように農業や観光業に使役されています。
また、インドではパキスタンの国境にラクダ部隊が配置されていて、軍用としても使役されているのが特徴です。
パトロールや軍事化における砂漠の移動手段として重要な戦力となっています。
中央アジア・東アジア
中央アジアや東アジアに生息するラクダは、フタコブラクダです。
フタコブラクダはヒトコブラクダよりも頑丈な身体をもち、脚が短めです。
寒冷地に耐えうる長く厚い毛をもっており、夏と冬で毛量が大きく変わります。
野生のフタコブラクダは1000頭に満たないとされており、絶滅危惧種に指定されています。
数の減少の原因は、
- 人間の乱獲
- 家畜のフタコブラクダとの水場やエサ場の競合
- 家畜種との交雑による遺伝子汚染 など
です。
フタコブラクダは野生のものよりも家畜の方が身体が大きく、野生のものは80万年以上前に分岐したとされており、遺伝子上で大きな違いがあります。
ラクダの飼育環境とアニマルウェルフェア

ラクダの飼育環境においては、元々が重労働になりがちな使役であり、無理な労働を強いることから保護する動きが活発化しています。
問題となっているのは、観光客を乗せるラクダが十分な休息や水分などを与えられないままに使役されていることや、過剰な積載、鼻にロープを通して引っ張ることなどがあげられます。
特に、観光業における使役については、現地の動物保護団体からの告発も行われているのです。
これらの動きを受けて、サウジアラビアでは、政府が取引時の保護を強化する全国的ラクダ貿易規則を承認しています。
また、マイクロチップの導入や予防接種履歴を管理するためのラクダパスポートも利用されています。
ラクダにおいても少しずつ、動物福祉の考えが浸透しはじめているのです。
ただし、ラクダの飼育環境の改善には、何よりも飼育者や使役者の意識改革が欠かせません。
そのためには、少しずつでも呼び掛けをしていくしかないのです。
まとめ
砂漠の過酷な環境で生き延びてきたラクダは、私たち人類の発展にも欠かせない動物でした。
ラクダがいなければ、シルクロードを通じたアジアとヨーロッパの交流は、もっとずっと後世にはじまったかもしれません。
また、ラクダは、乾燥帯をはじめとする生物がたくさん住めない状況においても生息できることで、植物の繁栄にも一役買っていたのです。
ラクダが移動することで、糞に混ざった食物の種が運ばれて、植生が豊かになります。
植生が豊かになれば、エサとして求めるほかの動物がやってくることになり、そこから循環が生まれるのです。
過酷な環境に適応したラクダは、多くの動植物の循環にとって必要不可欠な生き物だといえるでしょう。
しかし、その能力ゆえに人間に利用され、数が増えたからと駆除されるのは、身勝手過ぎるというものです。
お互いを尊重し、ときにはコントロールしながら、それぞれにとって適切な生き方ができる方法を模索せねばなりません。
ラクダの平均寿命は25~30年、長いものだと40~50年生きるものもいます。
そして、3~4年周期で1頭を出産します。
これは、数が増えるのに決して多いペースとはいえないため、長期的にみれば群れの数をコントロールできないことはないはずです。
短絡的に駆除に走るのではなく、長い目で野生のラクダの数を減らす取り組みが必要です。
人間のせいで野生化したラクダについて、当事者である私たちがしっかりと向き合っていかなければなりません。
そのためにも、遠く離れた地の問題と思わず、情報発信をはじめとするような、できることを一人一人が行っていきましょう。


