2022年6月から、犬や猫を販売業者から購入する際のマイクロチップの装着が義務化されました。
マイクロチップからはさまざまな情報を読み取ることができるため、迷子になったときに早期発見につながるといったメリットがあります。
しかし、マイクロチップは身体の外側ではなく体内に埋入する必要があることから、安全性などに疑問を持たれる方も少なくないのではないでしょうか?
安全性や装着方法、情報の読み込み方など、ペットを守るために改めて確認しておきましょう。
今回は、マイクロチップ装着に関する基本知識や、疑問・不安を解消するための情報をお届けします。
犬と猫のマイクロチップはなぜ義務化されたのか

これまでペットの登録といえば犬に限定されていました。
しかし、2022年に動物愛護法が改正され、犬と猫のマイクロチップの義務化がその中に盛り込まれ、犬・猫ともに登録するように変更となりました。
義務化の背景には、捨て犬や捨て猫の増加があります。
環境省の公表による、令和5年の捨て犬・捨て猫の数は以下のとおりです。
飼い主から | 所有者不明 | |
犬 | 2,010頭 | 17,342頭 |
猫 | 8,578頭 | 16,646頭 |
1年間で4万頭以上の犬や猫が保健所に引き取られており、再び譲渡されるものもいれば、残念ながら殺処分になるものもいます。
こちらの報告年度では、およそ9千頭が殺処分になりました。
参照:環境省|犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況
無責任な飼い主や繁殖業者などによる遺棄が後を絶たないのがペットの飼育における現状です
これらの問題を少しでも解決するために、マイクロチップの装着が義務化されました。
ペットの飼育には、その生涯の面倒をみるという責任が伴うことをよく自覚して、飼育を開始しなければなりません。
具体的な法改正の内容とは?
2022年に改正された動物愛護法の内容について、我々に関係がある具体的な内容は、以下のようなものがあります。
- ①犬や猫などを扱う販売業者にマイクロチップの装着と情報登録を義務化すること
-
装着には期限が設けられています。
犬や猫が生後91日以上の場合:以下のいずれか早い方
- 業者の手元にペットが来た日から30日以内
- 販売・譲渡の日まで
生後90日以内の犬・猫:販売・譲渡の日まで
装着だけでなく、その後の登録にも期日が設けられています。
- チップを装着した日から30日以内
- 販売・譲渡の日まで
上記の条件の、いずれか早い方の期間で、環境大臣による登録を受けることが必要です。
- ②マイクロチップを装着している犬や猫を譲り受けた方は、譲り受けた際に登録内容の変更を義務化すること
-
業者のもとに犬や猫が新たに来た場合や販売・譲渡した場合には、新たに飼い主となった方への登録情報の変更手続きを行わなければなりません。
変更の期間は30日です。
犬や猫が亡くなった際には、登録の変更(抹消)を行います。
- ③マイクロチップを装着している場合にはマイクロチップを鑑札とみなすこと
そのほかにも、都道府県等による所有者(飼い主)への指導・助言(努力義務)や、環境大臣による指定登録機関の指定や立ち入り検査などが含まれます。
スムーズな確認は災害時にも役立つ

マイクロチップの装着のメリットは、遺棄をする飼い主や業者の対策ができることだけではありません。
たとえば、以下のような場面が想定されます。
- 日常生活の中でペットが脱走してしまった場合
- ペットが迷子になってしまった場合
- 災害時、ペットが取り残されたりして飼い主がわからなくなってしまった場合
これらのケースの際に、スムーズな登録情報の確認ができることによって、ペットが早期におうちに帰れる可能性が高まるのです。
実際に、いくつものケースで早期帰宅が報告されています。
取り付けないと罰則はある?
マイクロチップの装着義務について、飼い主については努力義務となっています。
そのため、一般の飼い主に対する罰則は設けられていません。
つまり、装着義務の法改正がされる前から飼育していたペットについて、新たに装着しなければならない、ということはないのです。
しかし、法改正のあとに新たに購入した犬や猫については、販売業者が装着させなければなりません。
この義務を怠った場合は、勧告や命令を受け、最終的に行政によって業者登録を取り消される可能性もあります。
海外でのマイクロチップの使用状況は?

海外では、犬や猫のマイクロチップの装着が随分前から必須となっている国もあります。
その一例がEUです。
EUはペットのマイクロチップの装着を推進しており、2004年7月に義務化されました。
EUは、加盟国間での移動の制限が緩いため、ペットを連れて移動した場合、迷子になったり遺棄されたりした場合に、飼い主や所有者が見つかりにくいケースが少なくありません。
無責任な遺棄や業者による不法な売買を防止するためにも、幅広い範囲での取り組みが必要なのです。
これに付随して、スイスでも2006年にマイクロチップの装着の義務化が施行されています。
今後も、義務化が必須となる国が増える可能性はありそうです。
マイクロチップの安全性や身体への影響

メリットがあるものだとわかっていても、ペットの身体にマイクロチップを埋め込むことに抵抗感がある方は少なくないのではないでしょうか?
ペットの身体への負担・影響や安全性も気になるところですよね。
マイクロチップの形状
マイクロチップは、直径およそ11~12mm、太さはおよそ2.2mmのごく小さなサイズです。
情報を読み取るためのIC(集積回路)は、ガラス製のカプセルに入っています。
電池などは必要なく、半永久的に読み取ることが可能です。
法令では、国際標準化機構(ISO)の規格に適合するもののみが認められています。
マイクロチップの安全性に関する報告
犬にマイクロチップを埋入したあとの安全性についての報告が、1998年に発表されています。
マイクロチップを埋入後、1か月経過したあとの身体への影響やマイクロチップの皮膚下での移動状況を調べたところ、以下のような結果が得られました。
- 身体への影響はほとんど見られなかった
- マイクロチップの皮膚下での移動も見られなかった
- マイクロチップの読み取りに関しても問題なく行うことができた
調査対象は11頭で、その内7頭に、装着した当日、マイクロチップを埋入した部分に軽度の出血や疼痛が確認されましたが、いずれもすぐに消失が確認されています。
出血については、マイクロチップを埋入する際に微小血管を傷つけたものと考えられていて、チップ自体による影響ではないとのことです。
現在に至るまでに、特筆すべき影響が報告されていないことからも、マイクロチップによる身体への影響はほとんどなく、安全性は確立されていると考えてよいでしょう。
参照:J-STAGE|日本獣医師会雑誌|犬の皮下埋め込み型個体識別用マイクロチップの臨床的影響
それでもペットの健康に不安がある場合は
マイクロチップの装着は義務化されてはいますが、例外も認められています。
健康および安全の保持上、支障が生じるおそれがあるやむを得ない事由として、マイクロチップを取り外すことが可能です。
たとえば、マイクロチップを埋入する部分やその周辺に重大な病気がある場合や、MRI撮影を行う予定があり、撮影に支障が生じる場合があげられます。
ただし、該当するやむを得ない事由が消滅した場合には、その後速やかに装着する必要があることを覚えておきましょう。
マイクロチップはいつ・どこで埋め込む?

マイクロチップの埋入は、獣医師もしくは獣医師の指示を受けた愛玩動物看護師が行います。
国家資格を持たない方、例えば販売業者やブリーダーが埋入を行うことはできません。
飼い主が装着を希望される場合は、動物病院で相談するとよいでしょう。
装着を行ったあとは、飼い主の氏名や住所といった情報のデータ登録が必要です。
登録は、日本獣医師会のサイトからか、もしくは郵送で行うことができます。
飼い主が変わった場合や、引っ越しなどによって情報の変更が必要になった際にも、同様の手順で変更が可能です。
なお、手続きには手数料が必要であることも覚えておきましょう。
マイクロチップの埋め込み方と費用
安全面から気になるのが、マイクロチップの埋め込み方ですよね。
マイクロチップは、専用の「インジェクター(注入器)」にチップをセットして、皮下に埋入します。
埋入箇所は、首の後ろが一般的です。
装着に必要な費用は厳密に決められていないため、実施する動物病院に確認が必要ですが、数千円~1万円程度が多いようです。
装着以外に費用がかかるかどうかは、実施してもらう動物病院で確認するとよいでしょう。
ご自身で手続きを行う場合の費用は、以下のとおりです。
オンライン | 郵送 | |
新規登録 | 400円 | 1400円 |
登録の変更 | 400円 | 1400円 |
登録証の再交付 | 300円 | 1300円 |
これらの金額は今後変更される可能性があるため、気になる場合には獣医師会のサイトなどで確認が必要です。
マイクロチップの情報の読み取り方

マイクロチップから登録情報を読み取るには、2段階の手順を踏みます。
1.チップに登録している登録番号を読み込む
これには、専用の機械が必要です。
「リーダー」という機械をかざすことで、登録番号を読み込みます。
2.登録番号を照合する
マイクロチップから得られた登録番号を、データベース内にある登録番号と照合することで、飼い主の情報とつなげます。
マイクロチップは、たくさんの情報を詰め込む構造にはなっていません。
そのため、チップからの情報をもとにして、飼い主情報を調べる必要があるのです。
狂犬病予防注射とマイクロチップ

犬を飼育する上でのもう一つの義務が、狂犬病予防注射です。
狂犬病予防注射は、飼い主は特段の理由がない限り、年に1度行う必要があり、また、その際に発行される鑑札を装着する必要があります。
マイクロチップの特例制度に参加している市町村の場合、マイクロチップを装着した場合には、この鑑札の発行が不要になります。
これは、マイクロチップを鑑札とみなすことができるためです。
鑑札は、首輪に装着が義務付けられているものの、動いているうちに破損したり紛失したりするリスクがあります。
もし紛失した場合には、再交付を受けなければなりません。
そのようなリスクが減ることは、飼い主にとってメリットといえるでしょう。
また、マイクロチップを装着した場合には、従来行う犬を飼育する際に必要な市町村での登録も不要になります。
マイクロチップとGPSの違い

「迷子になったときに、マイクロチップにGPS機能がついていればすぐに居場所を発見できるのでは?」と、考えられる方は多いでしょう。
しかし、現在の規格となっているマイクロチップには、位置情報を読み取るGPSの機能はありません。
可能なのは、登録している番号を読み取ることだけです。
これにはさまざまな理由が考えられます。
- GPSを稼働し続けるには電源が必要
- GPSはマイクロチップに搭載できるほど小型化していない
- 体内に埋入することによる電波の影響 など
いずれにしても、マイクロチップにGPS機能を搭載するには、安全性やコストの面でまだ多くの問題があるのです。
もし、万が一迷子になったときのためにGPSをつけたいと思われるのであれば、GPS付きの首輪やエアタグを装着するとよいでしょう。
GPSやエアタグを装着した首輪は、通常の首輪よりも重量があります。
ペットの負担にならないよう配慮するとともに、普段から慣れさせておくことも大切です。
外出馴れしていない場合や臆病な性格をしている、もともと野生で暮らしていたようなペットには、GPSを装着しておくことで日常の安心感も増すでしょう。
まとめ

ペットにマイクロチップの装着が義務付けられましたが、多くの犬や猫は生涯、その機能を使うことはないかもしれません。
しかし、マイクロチップは、万が一のときの備えとして有効で、実際にチップのおかげで迷子になったけれど無事に家に帰ることができた例がいくつもあります。
いざというときの備えはとても大切です。
マイクロチップは、現在までにペットの体調への懸念は報告されていません。
新しく装着する場合でも、その点については安心できるでしょう。
これから装着を考えている場合は信頼できる獣医師とよく相談して装着し、またペットを新たに購入・譲り受けた場合には、速やかに登録情報の変更を行いましょう。