ミツバチは、小さいながらも各地で植物の受粉を手伝う役目を担う重要な蜂です。
世界では9種類のミツバチが確認されており、日本には、ニホンミツバチという固有の種類がいます。
ニホンミツバチから取れる蜂蜜は濃厚な味わいで、一般的な蜂蜜よりもコクがあり、希少価値の高いものとして人気があります。
しかし、ニホンミツバチは外来種であるセイヨウミツバチの数に押されたり、環境の変化に対応できなかったりして、数が減っている可能性が示唆されているのです。
また、ニホンミツバチは塊になって引っ越しをする習性がありますが、その際に誤って駆除されてしまうこともあります。
今回は、ニホンミツバチが数を減らしている原因や、独特の生態についてご紹介します。
在来種のニホンミツバチは減少している?

日本の養蜂を支えてきたのが、在来種のニホンミツバチです。
日本での養蜂の歴史は古く、645年の飛鳥時代に奈良で行われた記録が残っています。
しかし、近年ではさまざまな影響によって、ニホンミツバチの数が減少している可能性が報告されているのです。
ニホンミツバチの減少の原因は、直接的・間接的なものをあわせて、以下のようなものがあげられます。
- セイヨウミツバチの影響
- 農薬の使用
- 寄生虫やウイルスの影響
- 気候の変化
- 生息地の減少
- 天敵のスズメバチの影響 など
かつては日本の養蜂を支えていたニホンミツバチですが、今では外来種のセイヨウミツバチが主流となっています。
これは、セイヨウミツバチがニホンミツバチとくらべて管理がしやすく、蜂蜜を大量に入手しやすいという理由によるものです。
セイヨウミツバチは、明治時代に日本に入ってきて、今では国内で生産される蜂蜜の99%以上を担っています。
ニホンミツバチとセイヨウミツバチは直接的には競合していませんが、生産効率の違いから、結果的に産業としてはニホンミツバチを排除してしまっている可能性は否定できません。
ニホンミツバチとセイヨウミツバチとの交雑による問題

ニホンミツバチとセイヨウミツバチが交雑することも問題となっています。
ニホンミツバチとセイヨウミツバチは別々の種であるため、交雑してハイブリッドの子どもが生まれることはありません。
問題は、交雑することで本来受精するはずの卵が無精卵で産卵され、働き蜂が生まれてこないことです。
ミツバチは、無精卵の場合はオスの蜂が、受精卵の場合はメスである働き蜂が生まれます。
働き蜂がいないと、巣の機能を維持することができません。
野生のニホンミツバチと、家畜化されているセイヨウミツバチは、本来であれば住み分けがしっかりとできているため、交雑することはありません。
しかし、セイヨウミツバチの一部が野生化することでニホンミツバチと交雑することがあるのです。
人間による環境の変化も減少の原因
在来種であるニホンミツバチの減少の原因には、人間による環境の変化も大きく関係しています。
例えば、もともとミツバチが生活していた場所を土地開発することで住みかを追いやったり、農薬を使用することでミツバチの身体に異常を与えて、活動できなくなったりさせてしまうのです。
ネオニコチノイド系の農薬は昆虫の神経系を麻痺させる殺虫剤で、もちろんミツバチにも影響があります。
この農薬を取り込んだミツバチは方向感覚が狂ったり、学習機能が衰えたりして、群れを正常に維持することができなくなってしまうのです。
女王蜂や幼虫を巣に残したまま、働き蜂がいなくなってしまう「蜂群崩壊症候群」が、欧州では2000年代から問題となっています。
ネオニコチノイド系の農薬は、昆虫に与える影響が大きいことから、海外では使用が制限されているところもあります。
EUでは2013年、ネオニコチノイド系の農薬の一部において、厳しく制限・禁止する動きが広がりました。
しかし、日本においては全面禁止には至っておらず、注意喚起のラベルを貼ることや、行政機関と養蜂家が密に連絡をとるといった対策にとどまっています。
参照:環境省|農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組(Q&A)(2016.11月改定)
日本の猛暑もミツバチ減少の要因

近年の日本における夏の気温の上昇も、ミツバチが適切に巣を維持できる温度を超えており、数が増えない要因となっています。
成虫は気温が高くても40℃程度であれば生命維持はできますが、幼虫はそうはいきません。
暑さのせいで死んでしまうことがあります。
ミツバチは気温が上昇すると、水を運んだり、巣箱の外から風を送ったりします。
これらの方法によって、巣の中の温度を下げることが可能です。
近年の40℃を超えるような暑さが続くと、ミツバチは、蜜を集めるよりも巣内の温度を維持することに集中するようになります。
しかし、従来の方法では対処しきれず、巣の存続が不可能になってしまうのです。
外来種であるダニの影響
2010年、ニホンミツバチにアカリンダニという、気管に寄生するダニが発見されました。
このダニは欧米を中心に確認されており、もともとセイヨウミツバチに寄生しています。
そして、セイヨウミツバチはアカリンダニによる影響が大きくないとされているのです。
ニホンミツバチの方がセイヨウミツバチよりもアカリンダニに寄生されやすく、重篤な被害になりやすいことがわかっています。
アカリンダニは肉眼で確認できない小さなダニです。
寄生されることで呼吸困難に陥り、飛べなくなったり、体温調節ができなくなります。
アカリンダニによる被害は、今後拡大する恐れがあり、注意を促されているのです。
ニホンミツバチとセイヨウミツバチとの違い

ニホンミツバチとセイヨウミツバチの飼育や採取された蜂蜜における大きな違いとして、以下のようなものがあげられます。
- 飼育方法
- 性格
- 蜂蜜の量や味
それぞれ詳しくみていきましょう。
飼育方法
飼育において、より手間がかからないのがセイヨウミツバチです。
セイヨウミツバチの飼育は、より家畜化されたものといえます。
人間が管理する巣箱で蜜を集めることができますが、定期的な管理はかかせません。
セイヨウミツバチは半径3km程度の範囲から、特定の花の蜜を集めるのが特徴です。
それに対してニホンミツバチは、住みかやまわりの環境が気に入らないと引っ越しをする特性があります。
これを「逃去」といいます。
手がかからず、初心者でも取り組みやすいのはニホンミツバチの方ですが、ある日突然群れごといなくなってしまう可能性があるのです。
ニホンミツバチは1km~2km程度の範囲しか、蜜を集めに行きません。
蜜を集める花がなければ、自分たちで勝手に引っ越しをしてしまうのです。
性格
ニホンミツバチとセイヨウミツバチは、性格にも違いがあります。
ニホンミツバチは野生のミツバチであることから、危険を察知しやすいよう、臆病で自ら人間を襲うことはほとんどない温厚な性格です。
ただし、環境の変化に敏感で、これがニホンミツバチの引っ越しにつながります。
また、突然の変化に驚きやすく、例えば急に巣箱を開けると、パニックになって大群で暗い方へと集まることもあります。
これに対してセイヨウミツバチは、落ち着いた性格ではありますが、攻撃性がやや高いのが特徴です。
危険が迫ったときには、ニホンミツバチのように逃げたりパニックになったりするのではなく、巣を守ろうとして人間に攻撃してくることがあります。
人間にとって、巣箱から逃げ出さず、管理しやすいように改良されてきたのがセイヨウミツバチなのです。
蜂蜜の量や味

蜂蜜を採集できる量は、セイヨウミツバチが圧倒的に上です。
セイヨウミツバチのひとつの巣箱から集められる蜂蜜の量は年間30~50kgにもなり、これはニホンミツバチから採集できる量の3~5倍といわれています。
また、一年に2回以上蜂蜜を採集することができます。
セイヨウミツバチが養蜂において圧倒的なシェアを誇る理由がここにあるのです。
セイヨウミツバチから採れる蜂蜜は、単独の種類の花から集められ、蜂蜜ごとに異なる風味を味わうことができます。
例えば、アカシアやレンゲ、ソバ、ミカンなどの花から集められます。
セイヨウミツバチから採れる蜂蜜の特徴の例は、以下のとおりです。
| アカシア | レンゲ | ミカン | ソバ |
| クセがなくスッキリした上品な味で「蜂蜜の女王」と呼ばれる | まろやかな甘みでふんわりとした香り | 柑橘特有のさっぱりした風味と後味 | 濃厚な味と強い独特の香り |
ニホンミツバチから採集できる蜂蜜の特徴として、野山から集められた何種類もの花から集められたことによる、深いコクと豊かな味わいがあげられます。
場合によっては数百種類の花から集められるニホンミツバチの蜂蜜は、「百花蜜」や「和蜜」と呼ばれ、生産量が少ないことから幻の蜂蜜といわれています。
そのため、一般市場に出回ることもまれです。
生産量の少なさは、ニホンミツバチの管理の難しさだけでなく、年に一回(もしくは二回)しか蜂蜜を集めることができないためです。
ニホンミツバチとセイヨウミツバチの巣箱の違い

巣箱の造りにも、それぞれのミツバチの特性を生かした形態が採用されています。
それぞれの違いをご説明しましょう。
ニホンミツバチは、上から下へと巣を作っていくため、巣箱は昔ながらの「重箱式」と呼ばれるものを使用します。
重箱式の巣箱には、巣箱によくみられるような枠がありません。
重箱式巣箱は、人間が途中で手を加えず、ミツバチが自由に巣を作ることが可能です。
そっと見守りながら蜂蜜を採集するのに適しています。
それに対してセイヨウミツバチの巣箱は、たくさんの巣枠がならぶ「ラ式巣箱」です。
人間があらかじめ巣の基礎となるシートを枠にセットすることで、その上にミツバチが、巣を作っていきます。
ラ式巣箱は、蜂蜜を採るときも容易に集めることが可能です。
ニホンミツバチとセイヨウミツバチの見分け方

ニホンミツバチとセイヨウミツバチは、見た目で見分けることができます。
ニホンミツバチは体長12~13mm、セイヨウミツバチは一回り大きく13~14mmですが、大きさから瞬時に判断するのは難しいかもしれません。
これら2種は、身体の色から違いを判断することができます。
ニホンミツバチはおなかの白に近い黄色と黒の縞模様が特徴的で、全体的に黒っぽい色をしています。
それに対してセイヨウミツバチは、よくイラストで見るようなオレンジと黒の縞模様です。
また、体型からも判別することが可能です。
ニホンミツバチは全体的にほっそりしていてシャープな印象を受けますが、セイヨウミツバチはふっくらとした体型をしています。
ニホンミツバチの生態

在来種であるニホンミツバチの生態をご説明しましょう。
ニホンミツバチは、ほかの蜂と同じようにコロニーを作って活動します。
1つのコロニーを統率するのは女王蜂です。
その下に働き蜂や、交尾のみを役割とする雄蜂がいます。
雄蜂は繁殖期の春から夏にかけてしか出現しません。
コロニーは数千~2万匹程度の蜂で構成され、蜂の数が増えすぎたり、女王蜂が2匹存在する場合などには、分蜂といって新たなコロニーの引っ越しが起こります。
コロニーの蜂の数は、セイヨウミツバチの約2万~4万匹よりも少ないのが特徴です。
ニホンミツバチの一年
野外で暮らすニホンミツバチは、春から夏にかけてが繁殖期です。
女王蜂は毎日1000個程度の卵を産み、産まれた幼虫は働き蜂がせっせと世話をします。
梅雨時や猛暑となる夏はミツバチにとって厳しい季節で、少ない花々から蜜を集めます。
秋は、越冬するために蜜を蓄える季節です。
ニホンミツバチは冬眠することなく、ひっそりと冬を越します。
そして、暖かくなってくると、また産卵・育児が再開されるのです。
女王蜂の寿命は2~3年、働き蜂の寿命は約1ヶ月です。
働き蜂は若いころは巣の中で育児の手伝いや掃除、巣作りや蜂蜜作りを行い、日齢を重ねると外で蜜を集めます。
ニホンミツバチとスズメバチの戦い
ニホンミツバチの天敵の1つがスズメバチです。
スズメバチは、ニホンミツバチの幼虫やサナギを自分たちの子どもの栄養にしたり、成虫まで食べたりしてしまいます。
ニホンミツバチは、長きにわたりスズメバチと対峙してきました。
スズメバチの襲撃が数匹の場合は、「熱殺蜂球」によってスズメバチを蒸し殺します。
これは、1匹のスズメバチに対して数百匹のニホンミツバチが群がり、胸部の筋肉を震わせることで熱を発生させます。
その結果、ニホンミツバチが囲んだ部分の温度が46℃程度まで上昇し、スズメバチを殺すことが可能です。
この方法は、スズメバチと対峙してきたニホンミツバチ独自の戦法です。
しかし、熱殺蜂球はニホンミツバチへの負担も大きく、寿命が縮んでしまうことが報告されています。
ほかにも、
- スズメバチの付近にいるミツバチは噛み殺されてしまう可能性がある
- スズメバチの数が多いと対処できない
といったデメリットがあります。
スズメバチがたくさん集まってしまった場合には、ニホンミツバチは巣を捨てて逃げるしか、生き残る方法がありません。
ニホンミツバチの蜂球をみつけても駆除しないで!

ニホンミツバチは、女王蜂の分蜂(巣別れ)やスズメバチの襲撃による逃去、巣の周辺との環境が合わなくなることによる移動、人工的な巣の移動などによって、引っ越しすることがあります。
引越しの際は、数千~1万匹程度のニホンミツバチが集まって移動するのです。
このときにみられるミツバチの塊を「蜂球」といいます。
新たな巣を見つける偵察蜂が戻ってくるまで、塊になって木陰や柱、生け垣の裏などで集団で待機する様子が確認されます。
かなりの数のニホンミツバチが集まっているため、その見た目に恐怖を覚える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、このときのミツバチは食糧となる蜜を抱えてじっとしており、こちらからアクションを起こさない限りは大人しく、安全です。
蜂球自体も数十分~数時間のうちに移動することがほとんどです。
ニホンミツバチの蜂球をみつけたら、通報や駆除などは行わず、温かく見守ってあげましょう。
また、ニホンミツバチの養蜂家に連絡する手段は有効です。
ニホンミツバチを捕獲して、養蜂へとつなげることができます。
まとめ
小さなミツバチが自然界で担う役割は大きく、彼らがいないと今ある自然環境は維持できないといわれています。
ミツバチが蜜を集めることで受粉が促され、多くの植物が繁栄することができるのです。
また、農作物の受粉にも一役かっており、ミツバチがいることで私たちは豊かな食生活を維持することができています。
なかには、ミツバチがいなくなった場合には4年で人類が滅びるという説もあるほどです。
日本では養蜂のほとんどがセイヨウミツバチに頼っていますが、多くの花の蜜を集めるニホンミツバチも、環境維持においては重要な存在です。
その役割から、環境指標としてもニホンミツバチを利用することができます。
人間だけでなく自然界にとっても欠かせないニホンミツバチを、正しい知識をもって見守っていきましょう。


