ツキノワグマに関する第一弾の記事(【2025年大量出没】なぜ?増えるクマ被害の現状とその原因)では、ツキノワグマの生態や近年の大量出没に至った原因などを掘り下げてみました。
人間にとっても脅威であるクマと、これから共存していくことは可能なのでしょうか。
今回はクマが人を襲うのはどんな時なのか、またどうしたら根本的な解決に至るのかを考えていきたいと思います。
なお、クマと表記する場合、特に断りがない限りツキノワグマを指すものとします。
クマは人を襲うのか

第一弾の記事で述べたように、クマの体の機能は肉食動物ですが狩りを積極的にする動物であるとは言えず、基本的に植物・果実・堅果類・昆虫を主食とします。
「熊が人を襲うとき」という本の中で、著者である米田一彦氏は”クマはむやみやたらに人を襲う動物ではありません。”と何度も強調しています。
しかし何らかの原因で気が立っている状態のクマ、例えばお腹がすいている、発情期、興奮しやすい成長段階の仔グマ、またその母グマなどに出会うと襲ってくることがあるようです。
近年はクマの出没数の増加に伴い人身被害数も増加しています。

人身被害件数と被害人数は増減を繰り返しており、全体的にはピークを更新し続けていることが分かります。
また、ツキノワグマ被害による死亡者人数は毎年度0〜4人を推移していましたが、令和7年度に関しては4月から2月までの11ヶ月間で11人もの死亡者が出てしまいました。

去年、なぜあんなにクマについて世間で騒がれていたかよく分かるはずです。
日本の鳥獣被害といえば農作物被害がほとんどで、人身被害に至る原因の鳥獣はクマくらいなものです。
各都道府県にある野生鳥獣に関する部署では、いくら鳥獣対策を行い農作物被害を抑えられたとしても、クマによる人身被害が出てしまえばその他の功績が水の泡になってしまうといいます。
クマに襲われないために

どんなにクマが好きな人間でも、クマに襲われて命を落とすなんてことはまっぴらごめんのはずです。
どうすればクマに襲われずに済むのでしょうか。
山には音が鳴るものを持っていく
クマの研究者や野生動物写真家でもない限りクマに会いたくて山に行くことはないと思いますが、クマがいるかも知れないと分かっていながら山に出かける人は沢山いますよね。
山登りが趣味の私も、山に行かずには居られない人のひとりです。
しかし、クマに出会うかもしれないと分かっていながら山に入るには、襲われないための対策を講じる責任が伴います。
まず、山に入るのであればクマが怖がるような大きな音を立てながら行動する、ということは基本中の基本です。
例えば熊鈴やラジオの使用、二人以上で話しながら行動するなどです。
先ほどの表を見るとわかるように、ツキノワグマによる被害件数と被害人数はほとんど同じ数となっています。
ここから、被害者の多くは単独でクマに出会っていることが伺えます。
反対に、複数人でいるときに被害に合う確率はぐんと下がっているということが言えるでしょう。
クマの居そうな場所、特に下を向いて黙々と作業をするような山菜採り、きのこ狩りなどへはなるべく一人では行かないということを覚えておきましょう。
クマに出会ってしまった時の対策
山に入らなければクマには出会わないとは言い切れない時代になってしまいました。
運悪くクマに出会ってしまったら…そんなことは想像したくないものですが、出くわした状況によって対応はかなり違ってきます。
いくつかの書籍やネットの記事を読むと、概ね以下のような対応が良いとされていました。
①クマがこちらに気づいていない場合
…木や電柱の陰に隠れ、木に化けると視力が良くないクマは気づかない事が多く、そのままやり過ごすのが吉。
②クマがこちらに気づいた場合
…クマの方を見ながら背を向けずゆっくり後ずさりする。その先に木や電柱があれば影に隠れるともう居なくなったと思いそのまま立ち去ることが多い。走って逃げる、荷物を置いて逃げることはNG。
③クマが威嚇してきた場合
…熊スプレーを持っている場合は使用する。持っているものをなんでも振り回し、体を大きく見せる。どんなクマでも共食いされる危険性のある体の大きい雄グマが最も怖いため、大きな雄グマになりきる。
④クマが攻撃してきた場合
…熊スプレーを持っている場合は使用する。反撃をして撃退できた例もあれば、より一層興奮し攻撃性が高まった例もある。人間の体は腹側に重要な臓器が集まっているため、首をガードしてうつ伏せになり死んだふりをしたほうが重症化をふせぐ(うつぶせ首ガード法)。
クマは頭を狙って襲ってくる例が多く、頭を守ろうとして手などを負傷したり、また頭に近い顔や上半身に怪我を負います。
そのため体の上部を守る事が大切です。
また、米田一彦氏は熊スプレーは最強の武器、と述べていて、クマが出そうな場所に行く際には必携です。
2025年の大量出没が起こる前までは、熊スプレーといえば、SABRE(セイバー)という海外ブランドのフロンティアーズマンマックスベアスプレーというものが有名な商品でした。
しかし、近年熊スプレーの需要が増加するにつれて、日本製のものやその他のブランド製品にも注目が集まっています。
どの熊スプレーにも共通している主な成分はトウガラシ由来のカプサイシンです。
クマの目や鼻、口などの粘膜に強い激痛を与えることでクマをひるませ、逃げる時間を確保することができます。
様々な製品が開発されていますが、熊スプレーを選ぶ際にはカプサイシンの濃度や噴射継続時間、噴射距離、有効使用期限などを確認して購入しましょう。
また、信頼に値する製品であるかの認証として、アメリカのEPA(環境保護庁)認証品や、日本のJSDPA(日本護身用品協会)認証品であるかを確認すると良いでしょう。
いざ使うとなると慌ててしまうと思いますが、熊スプレーの使用は一度きりなのでクマとの距離や風向きを確認して使用するように覚えておくと良いでしょう。
また、東北地方や北陸地方では常時携帯しておくべきなのかもしれませんが、その他の地方では念のため持っておくと言っても、やはり使用頻度は少ないものです。
山に行くときなどに気軽に携帯するためにも、熊スプレーのレンタルサービスがありますのでぜひチェックしてみてください。
参考:【2026年】クマ撃退スプレーのおすすめランキング9選。日本製・海外製の購入できる商品を徹底比較
クマと共存するために

ツキノワグマと人間はおなじ日本に生きる者同士です。
そんなクマと共存するためには何が必要なのでしょうか。
個体数の管理
第一弾の記事で触れたように、ツキノワグマの正確な個体数は分かっていません。
正確な個体数がわからない中でクマを管理するのはかなり難しいことですが、実際に人身被害が出てしまっている以上、どうにかしないといけません。
クマは鳥獣保護法(鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律)により「有害捕獲」や「管理捕獲」という名目のもとでその数が調整されています。
ツキノワグマの許可捕獲数と、捕獲されたなかでも捕殺された頭数と非捕殺だった頭数をグラフにすると以下のようになります。

令和7年度のツキノワグマの捕獲数は全国で12,214頭で、そのうち12,097頭が捕殺されました。
ツキノワグマの出没数や人身被害件数が多くなっている近年になるにつれて、ツキノワグマの捕獲数も上がっています。
ただ、日本で捕殺されているツキノワグマの頭数がとても多いことに驚かれた方も多いのではないでしょうか。
ツキノワグマの正確な生息数が分かっていないのに、ただでさえ絶滅危惧種に指定されているのにこんなにも捕殺したら絶滅してしまう、と考える方が居るのもこの統計を見ると頷けます。
クマの個体数の把握が難しいと言っても、各都道府県に配置されているクマ類に関する専門知識を有する職員が不足していることも原因として考えられます。
令和6年度の調査によると、被害が多かった秋田県や岩手県では、クマ類の専門職員の数はそれぞれたった1名です。
その他の東北地方は0名〜1名で、ツキノワグマの出没が多い富山県、福井県では3名でした。
他の都道府県を視野に入れてみると、兵庫県が16名と飛び抜けて多いことが分かります。
兵庫県には日本熊森協会という自然保護団体があり、設立当初、兵庫県のツキノワグマが絶滅してしまうという危機感からツキノワグマの保護の重要性を訴えてきました。
また、公的機関である兵庫県森林動物研究センターも設置されており、早くからツキノワグマに着眼し、専門的な知識を有する人材育成に貢献していたのではないでしょうか。
そのため、兵庫県ではより精密な個体数の管理や生息状況を把握することができているといいます。
参考:クマの頭数管理、兵庫の手法に注目 放獣個体を追跡調査、保護と駆除見極め 絶滅リスク回避
現在兵庫県の施策を見習うべきだとの声が上がっているため、今後は他都道府県にもより多数のクマの専門家を配置したり、さらに精密な調査が行われるようになることを願います。
被害を起こしたクマの駆除
クマはとても頭が良いようで、一度起きたことをずっと覚えているようです。
山の中に入ったにせよ、市街地で出くわしたにせよ、一度人間を襲い成功体験を得たクマは人間は襲うことができると学習してしまいます。
今までにも同一クマによる人的被害は多数報告されています。
それに、人里に降りてきたクマは普段と違う環境に興奮し、また山に食べ物が無くお腹が空いている場合が多いため危険です。
残念ながらそういった個体は駆除すべきでしょう。
2025年の大量出没に際しては自衛隊の出動の是非について騒がれました。
ただ自衛隊の出動に関しては様々な法的しがらみがあり、直接駆除をするわけではなく駆除を補助することのみに限られます。
また、市街地に出没したクマは従来の鳥獣保護法の枠組みの中では捕獲が難しかったので、緊急銃猟制度というものが制定されました。
緊急猟銃制度とは人の日常生活圏にクマ・イノシシが出没した際、安全確保等の条件の下で、市町村が委託等した者による銃猟を可能とする主旨のものです。
2025年10月15日に初めての発砲がなされて以来、2026年2月19日まで発砲まで至った件数は58件ありました。
その内訳としてはツキノワグマが54件、ヒグマが1件、イノシシが3件です。
ツキノワグマに対して緊急銃猟を行った都道府県を多い順に並べると以下のようになります。
参考:緊急銃猟の実施状況
| 都道府県名 | 件数 |
| 山形県 | 16 |
| 新潟県 | 12 |
| 秋田県 | 10 |
| 富山県 | 7 |
| 岩手県 | 4 |
| 福井県 | 3 |
| 宮城県(順不同) | 2 |
| 福島県(順不同) | 2 |
| 群馬県(順不同) | 2 |
| 石川県 | 1 |
市街地で銃を使用することを認める緊急猟銃制度の策定に当たっては、銃の誤射や目標の動物を通り抜けて後ろにいる人に当たってしまうことが懸念され、二の足を踏んでいました。
しかし、厳格な管理体制のもと発砲が行われているため、現在までにそのような事故は起っていません。
これらの駆除方法については今後さらなる議論がなされるところではあると思います。
やむなく駆除したクマはジビエとして活用できればとても良いでしょう。
私は以前から日本の畜産業界の動物福祉上の問題、また食肉のフードロスについて言及した記事を書いていますが、牛や豚、鶏たちがフードロスによって命を無駄にされることに対しては何も言わないのに、野生動物を駆除することに反対意見が多くあることに関しては疑問を抱いています。
どちらも無駄にせず、活用する努力が必要だと思います。
クマの他地域への放獣・保護
市街地に出没したクマは必ずしも全て駆除するべきということではありません。
しかし、捕獲されたツキノワグマの中で捕殺されたあと非捕殺に至ったものは、以前は10%ほどいたようですが、2025年度では1%にも満ちませんでした。
やはり一度捕獲したクマを放獣するハードルはかなり高いようです。
放獣に関しては、その判断は専門家が行うということや、放獣対象、放獣地の選び方、注意すべきことなどいくつかの決まった方針があります。
特に放獣対象としない個体については、環境省によって以下のような取り決めがなされています。
- 人身被害をおこした個体
- 放獣後再被害を起こした個体
- 放獣しても生存困難と判断される若齢個体や負傷した個体
また、放獣する際には学習放獣と言って、熊スプレーを吹きかけたり犬に追わせたりなどして、人里に降りてくると怖い思いをすると学習させることが推奨されています。
ただ、放獣については以下のように様々な問題点も指摘されています。
- 再出没し、農作物や人身被害をもたらすおそれがあるクマを放獣することへの地域住民の反対(合意形成困難)
- 放獣地の確保と地権者の合意取り付けが困難
- 放獣しても元の出没近くへの回帰率が高い
- 麻酔薬の取扱をふくめ作業を実施する専門家の確保が困難
- 捕殺処分と学習放獣の判断基準が明確でない
- 個体の移動はクマ地域個体群に動物社会的あるいは遺伝的攪乱をもたらすおそれがある
このような問題点の指摘から、近年はより一層放獣されるクマが減っているのかもしれません。
捕獲したあと動物園で飼育すれば良いのでは、とも考えられますが、クマは20数年生きる動物であり、その食料の確保、世話をする人件費、場所の確保は容易ではありません。
クマと生活圏を分ける
様々な鳥獣による農作物や人的被害が発生する原因と共通していますが、やはり以前にも増してクマの生息場所と人間の生活圏は重なっており、緩衝地帯がなくなっていることがクマの大量出没の大きな原因を占めます。
その重要性はイノシシの記事などで述べた通りですが、やはり高齢化で猟師がいない集落ではクマは殺気を感じなくなり、人の生活圏を荒らし襲うといいます。
秋田県では、クマが恐れるよう市町村と調整して人の生活圏とクマの生息域の間に管理強化ゾーンを設けることにしたようです。
根本的な解決策として

クマの大量出没に至る原因については先に述べた通りですが、根本的な解決に必要となるのはやはり山の餌資源の回復ではないでしょうか。
クマの主な食料となるどんぐりは、個体数の増加問題が指摘されているシカやイノシシにとっても重要な食料源です。
地球温暖化などの影響によりシカやイノシシの生息域が北上し、北陸地方や東北地方にまで分布域を拡大させていることが、クマの食糧不足に拍車をかけている可能性があります。
このようにクマにとって重要などんぐりの絶対量が少なくなっているうえに、奪い合う動物の個体も増加している現状において、先に述べた山の餌資源の回復というのはどうすれば実現するのでしょうか。
そのひとつの手段が、木々の多様性を回復させることです。
高度経済成長期に造林された針葉樹林は殆どが手を付けられず荒廃した状況のままで、ずっと問題視されています。
しかしこのような針葉樹林でも、60%ほどの木を刈り取る強度の間伐を施すと広葉樹の種が飛散し、自然に混交林化すると言います。
もちろん周りに広葉樹がないと種も飛んでこないので、そういった場所には遺伝子汚染に気をつけながら種子散布や植樹する必要があるとのことですが、強度間伐を施し、新しく植物が生育するスペースを空けてあげるだけで森は回復するのです。
植物の多様化は、実は木材の生産においてもメリットがあります。
様々な樹種があると土壌の栄養分である無機塩類が無駄なく使われ、葉の増加に伴い光合成量が増えることによって短期間で大きく太い木に成長することが確認されています。
樹種の増加が木材の生産効率にも良い影響をもたらすとはとても驚くべきことではないでしょうか。
植物の多様性が増すと、その葉や樹の実を食べる昆虫が増え、さらに動物も増え、生物の多様性の増加にも繋がります。
今回、この記事を調べるに当たって参考にしたもののひとつに「スギと広葉樹の混交林」という本がありますが、その中で著者は以下のように述べています。
”夏はヤマザクラ、ウワミズザクラ、カスミザクラ、シウリザクラ、ヤマグワが果実を提供する。秋になれば待ちに待った堅果類が実り始める、しかしブナやミズナラなどは豊凶の変動が激しい、しかしトチノキはほぼ2年に1回は豊作、クリはほぼ毎年堅果が実る。さらに多様な樹種があれば、毎年何かしらが豊作となる樹種があるだろう。数年前にあったブナもミズナラもトチノキも凶作だったときには、クマが栗の実を食べたあとと、栗の実が消化されたフンがあった。このように混交林化した森があればクマを山に留めておくことができるかもしれない。”
引用:清和研二著,スギと広葉樹の混交林 蘇る生態系サービス,農文協
人間の消費活動を最優先にし自然の多様性を無視し続けた結果のしわ寄せが、今、クマの大量出没問題となって現れているのでしょう。
最後に

重ねてになりますが、先程紹介したスギと広葉樹の混交林という著書の中には以下の文章もあります。
”しかし、デントコーンや柿の味を覚えたクマはやはり、”足ることを知らない”。その時は、怖い思いをさせればよい。それでも出てくるようなら撃って”喰う”しかないだろう。そうしているうちに出てこなくなるだろう。それには、やはりクマのエサとなる木々を元どおり山に戻しておく必要がある。われわれは、日本の森林の41%、1020万haもの森を針葉樹人工林に変えた。もともとは野生動物の棲み処だった場所で、エサを取り上げてしまったのである。広葉樹を混ぜることによって少しだけの食料を戻すことは人間としての最低限の義務である。同じ星に生きる生き物としての仁義でもある。”
引用:清和研二著,スギと広葉樹の混交林 蘇る生態系サービス,農文協
今までにイノシシやシカ、外来種の増加に関する記事を執筆してきましたが、クマに関する問題はそのどれにも似て非なるものであると感じます。
その違和感は何なのか分からずにいましたが、ふと、気づいたことがあります。
クマは人と同等もしくはそれ以上の力を持つ存在で、ときには恐怖を駆り立て、しかしときには生態系の一部として、一つの命として守らなければならないという拮抗した感情が、クマを特別な存在にしているような気がするのです。
実際のところクマという動物はどんな生き物なのか、よく分かっていない人がほとんどだと思います。
私もそのうちの一人ですが、様々なことを調べるにつれてクマの一生がどんなものか、どんな一年を過ごしているのか、また近年クマたちに降り掛かっている異常な出来事がどんなものなのかということが、少しだけクマ目線で考えられるようになった気がします。
クマに関する感情的な意見の殆どは、その対象物のことをよく知らないという不安感から来ている事が多いように感じます。
何事にもよく言われることですが、正しく知り正しく恐れる事によって、新たな解決策や、道筋が見出されるのでしょう。
クマの生態はまだ分かっていないことも多く断言できる事は少ないですが、これからの日本社会にずっと付き纏うであろうクマに関する問題に対して、この記事が少しでも貢献できたら良いなと思います。


