近年、「マルプー」や「チワックス」、「ミヌエット」、「バンビーノ」など、血統種をかけ合わせたミックス犬やミックス猫が人気となっています。
2025年の人気犬種ランキングでは、血統種を抜いて犬・猫共にミックス種が1位を取りました。
ミックス種は、長い歴史を持つ血統種を交配させることで、それまでなかった魅力を引き出すことができた犬や猫です。
しかし、ミックス種は見た目のメリットだけでなく、病気になりやすい・寿命が平均よりも短くなるといった複数のデメリットが現れる可能性もあります。
また、人気のミックス種で儲けようとする悪質なブリーダーも後を絶ちません。
今回は、ミックス種が抱える複数の問題を取り上げることで、あらためてミックス犬・ミックス猫の存在意義について考えていきましょう。
ミックス犬・ミックス猫は何が問題なのか

個性的でキュートなミックス犬・ミックス猫ですが、彼らの多くは人間が計画的に作り出した存在です。
長い年月をかけて特徴が固定された純粋な血統種同士を交配させることで、それらの特徴が混ざり合った子どもが生まれます。
しかし、ミックス種は、血統種にみられるような、品種を安定させることが目的で交配が行われるのではありません。
したがって、同じ種類の親の組み合わせで交配を行っても、生まれてくる子どもの性質は異なる場合があります。
しかし、生き残るために優位な性質ばかりが受け継がれるわけではないため、ミックス種にはさまざまな問題点も生じているのです。
病気になりやすい?
純粋な血統種は、遺伝的にかかりやすい病気があります。
血統種がなりやすい病気の例をごいくつか紹介しましょう。
トイ・プードル | 外耳炎・白内障・心臓弁膜症・糖尿病・椎間板ヘルニア など |
チワワ | 膝蓋骨脱臼・水頭症・角膜炎・皮膚疾患 など |
ミニチュアダックスフント | 椎間板ヘルニア・膝蓋骨脱臼・アレルギー性皮膚炎・白内障 など |
異なる血統をかけ合わせることで、これらの病気のリスクも軽減されるのでは?と考えられる方もいらっしゃるでしょう。
受け継がれる性質によって、その可能性はあります。
両親のよい面をしっかりと受け継ぎ、純粋な血統種よりも健康で丈夫な子どもが生まれることもあるのです。
複数の性質が混ざり合う「雑種」であれば、その可能性はさらに高くなります。
しかし、必ずしもそうではありません。
両親の病気のリスクが優先的に受け継がれることもあるため、結果として病気になりやすい、成長が遅い・異常がみられるといった子どもが生まれる可能性もあるのです。
遺伝性の病気については、原因となる遺伝子が解明されていないものも多いため、リスクを下げるためには、発症リスクの低い血統を交配することや事前に原因となりそうな要因がないかを調べることが重要といえます。
寿命が短い?
寿命は一概にはいえませんが、特に小型犬においてミックス種は純粋な血統種よりも寿命が短いとされています。
ある調査によると、ミックス犬(10kg未満)の平均寿命は14.3歳とのことでした。
小型犬における平均寿命は、同じ報告によると
- トイ・プードル・ミニチュアダックスフント・パピヨン:14~15歳
- チワワ・マルチーズ:13~14歳
となっています。
そこまで大きな差はみられませんし、犬種によってはそれよりも寿命が短いものもみられます。
ミックス種の寿命が短いのではないかと考えられるのは、遺伝的な病気・発育リスクが一つの要因といえるでしょう。
また、一般的に、犬は体型が大きくなるほど寿命が短くなるといわれています。
小型の血統種に身体の大きな血統種をかけ合わせることで、生まれてくる子どもは寿命が短くなる可能性があるのです。
妊娠・出産時の危険も
特に、小型犬の母犬と大型犬の父犬を交配させた場合ですが、生まれてくる子犬が大型犬の性質を強く受け継いだ場合、お腹の中の子供の成長に、母体が耐えられないリスクがあります。
中には、母体に負担がかかりすぎて死亡するケースも過去に発生しているのです。
個性を求めるあまり、犬に負担がかかるような無理は交配は行うべきではないでしょう。
悪徳なブリーダーの増加も問題に
ミックス種にみられる問題は、個体それぞれのものだけではありません。
人気の高いミックス種をお金儲けの道具とみなすブリーダーによる、無計画な繁殖や不衛生な飼育などによる問題もあります。
健康な個体を増やしていくには、単純に血統種を交配するだけでなく、親となる個体の血筋に、遺伝性の病気を持っているものがいないか確認することも重要です。
しかし、ミックス種を専門的に繁殖させるブリーダーの中には、そのような調査を行わずに、無計画に繁殖を繰り返すものがいます。
また、日本には繁殖犬について、犬繁殖法の中で規定があり、環境省によって以下のように定められています。
- 交配できる年齢は6歳まで
- 繁殖犬における生涯の繁殖回数は6回まで
- 出産後12ヶ月が経過しなければ次の繁殖は行ってはならない など
この規制があることによって、繁殖犬が死ぬまで繁殖を繰り返させられるリスクは減少しましたが、繁殖に利用できなくなった犬を遺棄・放置する問題が多発しているのです。
施設のキャパシティ以上の繁殖を実施することで、飼育環境、特に衛生面において問題があるブリーダーも多く存在します。
シャンプーもブラッシングもされていない状態であったり、排泄物が放置されたままだったり、フィラリアなどの感染症対策がなされていないなど、おうちで犬や猫を飼育している方からすれば、考えられない環境での生活を強いられているのです。
これらの悪徳なブリーダーがなかなか減らないのは、ペット業界全体が強いつながりを持っており、
- 政府による規制が反発を受けてなかなか進められないこと
- お金儲けに利用しやすいルートが関係業者の間で確立されていること
などが原因としてあげられます。
購入者の意識改革が大切
ミックス犬やミックス猫は、血統種の両親を持ちながら、血統種にはない独自の特徴を持つのが魅力です。
ほかにはない魅力が、購入者を惹き付けるのもよくわかります。
しかし、そのような要望が増えるほど、不幸な繁殖犬や悪質なブリーダーが増えるのも事実です。
「かわいいから」「ほかにはいない珍しい種類だから」といって購入を進める前に、ミックス犬やミックス猫が生まれてきた背景もよく理解しましょう。
事実を知ることで、購入を踏みとどまり、新しい家族を迎えるにあたって、新たな選択肢を得ることができるはずです。
ミックス種を取り巻く海外での状況

海外では、ミックス犬やミックス猫は、「ハイブリッド犬」「ハイブリッド猫」として人気があり、その歴史も日本より長いのが特徴です。
ただ人気があるだけでなく、無計画な繁殖が問題となっている日本とは異なり、特に欧米ではかなり厳しい規制が設けられています。
たとえば、
- 両親となる個体の遺伝的な疾患の有無の確認
- ブリーダーの教育
- 悪徳なブリーダーの摘発
などが、獣医師やドッグクラブといった関係機関が連携を取りながら実施されています。
繁殖においても、飼育ケージの広さに規定があり、日本の規制よりもはるかに広いスペースで飼育されているのです。
日本では、このような欧米の動物福祉・動物愛護を参考にした法改正が、少しずつ進められています。
しかし、欧米で実施されているスタンダードな基準には、ほど遠いのが現実です。
関係者だけでなく、より多くの方が声を上げることで、これらの問題の改善速度は加速していくでしょう。
ミックス犬・ミックス猫と雑種との違いは?

ミックス犬やミックス猫は、それまでの「雑種」とは異なる品種です。
雑種は、両親もしくは片方の親が純粋な血統を持たない組み合わせで生まれる犬や猫を指します。
それに対してミックス犬・ミックス猫は、両親のいずれもが血統を持つ、純血種同士をかけ合わせた品種です。
ミックス犬やミックス猫を「F1」 や「ハイブリッド犬・猫」、「デザイン犬・猫」「ハーフ犬・猫」などと呼ぶこともあります。
人間が意図的に交配させることで、純血種であるそれぞれの両親の特徴を受け継ぎ、個性的な見た目になります。
生まれてくる小犬や子猫の見た目の確実な予想はできませんが、純血種同士をかけ合わせるため、それぞれの特徴がチャームポイントとして現れやすいのです。
これは、「雑種強勢」という遺伝の特徴が生かされています。
雑種強勢は、植物の品種改良で多く用いられます。
異なる血統の親同士を組み合わせることで、生まれてくる子どもが親よりも優れた特徴を発現させることです。
植物の場合は、
- 成長が早くなる
- 収穫量が増える
- 厚さや寒さ、病害虫への耐性ができる
などのメリットを獲得することができます。
犬や猫で、「血統種よりも雑種の方が病気に強くて丈夫」といわれるのは、この雑種強勢の働きによるものです。
しかし、先に述べたように、雑種強勢は必ずしもみられるわけではありません。
親同士の受け継いでほしくない病気のリスク、飼育に適さない性格などが優先的に受け継がれる場合もあるのです。
むしろ、雑種強勢が強く現れるのは、ミックス種ではなく「雑種」といわれています。
ミックス犬・ミックス猫の作り出し方

ミックス犬やミックス猫の交配はブリーダーが行うことがほとんどです。
異なる血統種の犬や猫を飼育していて、自然にミックス種となる子供が生まれることはありますが、多くのケースではありません。
ミックス犬やミックス猫を作り出すには、両親となる血統種がどのような身体や性格の特徴を持ち、遺伝的にどのような病気が発現しやすいかを把握することが重要です。
これらの理解がないまま、無計画に交配を進めることによって、身体が生まれつき弱かったり、飼育に適さない性質を持って生まれたりしてしまいます。
注意すべきは、これらの性質を理解して交配を行っても、必ずしも望んだとおりの子どもが生まれるとは限らないことです。
遺伝によって、予想していない形質が発現することはもちろんあります。
ミックス犬やミックス猫を作り出す際には、それらのリスクも考慮した上で行う必要があるのです。
ミックス犬・ミックス猫の特徴

1頭1頭が個性的なミックス犬やミックス猫は、血統種や雑種にはない魅力があります。
血統種や雑種と比較したときの特徴をご紹介します。
- 両親の魅力的な部分を多く引き継ぐ
- 血統種に比べて購入価格が安い
- 血統書がつかない
- 成長が予測しにくい
先ほどご紹介した雑種強勢によって、ミックス種は両親の特徴的な形質が現れやすいのが特徴です。
それによって、個性あふれる個体が生まれます。
個性はミックス種の魅力の一つですが、形質が大きく異なる個体を両親に持つ場合、成長とともに訪れる変化が予想できないデメリットもあります。
成長して、「外見が予想とは違った」「大人になっても小さいと思っていたのに大きくなってしまった」「毛色が変わった」と、予想していなかったことが起こる可能性もあるのです。
中には、性格の予測がしにくく、「しつけが難しい」といったケースもあります。
また、ミックス種は基本的に血統書が付きません。
血統書(血統証明書)は、日本では一般社団法人ジャパンケンルクラブによって、両親が同一の純粋な血統種であることが確認された上で発行される証明書です。
ミックス種は、両親がそれぞれ血統種であるといっても、いわゆる「雑種」に分類されます。
そのため、血統書は発行されないのです。
「雑種」であるがゆえに、血統種に比べて販売価格は低くなります。
垂れた耳が特徴のスコティッシュフォールドは、スコティッシュフォールド同士を交配すると、遺伝性疾患が発生しやすいため、別の品種を交配させるのが基本となっています。
アメリカンショートヘアーやブリティッシュショートヘアーなどが交配相手として選ばれますが、生まれた子供の品種はスコティッシュフォールドとして登録されるのです。
どんなミックス犬がいる?人気ランキング

人気ランキングに沿って、ミックス犬の種類をいくつかご紹介します。
- 1位:マルプー
-
<マルチーズ×プードル>
抜け毛が少なく、比較的穏やかな性格で無駄吠えが少ないといわれます。
関節疾患のリスクが高いため、注意が必要です。
- 2位:チワプー
-
<チワワ×プードル>
小型で、毛が抜けにくく毛色のバリエーションが豊富です。
チワワの性格が強いと、臆病になる可能性があります。
- 3位:チワックス
-
<チワワ×ミニチュアダックスフント>
胴長短足のダックスフントの特徴に、チワワのような大きな瞳を持つ個体が多くみられます。
椎間板ヘルニアや膝蓋骨脱臼に注意が必要です。
- 4位:ポメプー
-
<ポメラニアン×チワワ>
ふわふわの毛と、プードルのかわいらしい顔が特徴として多くみられます。
ポメラニアンのよく吠える性質が抑えられると、しつけがしやすくなるでしょう。
好奇心旺盛な個体が多いのが特徴です。
- 5位:ポメチワ
-
<ポメラニアン×チワワ>
ともに毛が長い品種をかけ合わせるため、抜け毛対策は必須です。
性格も、ともに警戒心が強く良く吠える品種同士であるため、しつけをしっかりと行う必要があります。
ほかにも、ゴールデンレトリーバーとプードルを交配した「ゴールデンドゥードル」や、ペキニーズとチワワを交配した「ペキチワ」、ビジョン・フリーゼとトイ・プードルからうまれた「ビジョンプー」など、さまざまなミックス犬が存在します。
ミックス猫の代表的な種類

ミックス猫は、犬ほど多くの種類がみられません。
代表的なミックス猫をご紹介します。
- ミヌエット
-
<マンチカン×ペルシャ>
マンチカンの短い脚と、ペルシャのふわふわの長い毛が特徴です。
- スコティッシュキルト
-
<スコティッシュフォールド×マンチカン>
折れ耳で、胴長短足の特徴があらわれます。
- バンビーノ
-
<スフィンクス×マンチカン>
スフィンクスのような肌質に、短い脚が特徴です。
まとめ

ミックス犬やミックス猫は、その多くが自然発生ではなく、人為的に作られた個体です。
そして、役割や機能性を追求してきた多くの血統種と異なり、人間の好奇心や欲望によってつくられた事実があることも否定できません。
よりかわいらしく、より飼育しやすい個体を作り出したい、手に入れたいという気持ちはわからなくもありません。
しかし、彼らは生き物です。
飼育すると決めたら、欠点も含めて生涯大切に扱うことが、飼い主の役割ではないでしょうか。
また、血統種であってもミックス種、雑種であっても、かけがえのない一つの命です。
すべてが個性を持っています。
目の前の命を大切にすることで、ミックス種の過剰な利用を防ぐことにつながります。
一人ひとりが少しずつ意識を持つことで、ペットとして生まれてくる犬や猫を取り巻く環境を良くしていきましょう。