救急車のサイレンやインターホンなどに反応して、「過剰に吠える」犬がいます。
住宅街やマンションなどで飼育している場合、犬が大きな声で何度も吠えると、「ご近所の迷惑」になってしまいます。犬が吠える原因とは一体何なのでしょうか。
大事な点からご紹介します。そもそも、犬が吠えることを”無駄”と表現するのは人間の都合であり、吠えることは、犬にとっては意味のある行動に違いありません。
犬がなぜ吠えるのかを人間が理解した上で、お互いのためにできることを考えていきましょう。
今回は、犬の無駄吠えや吠え癖について、原因と対策を中心にお話しします。
そもそもなぜ犬は吠えるのか
人間に寄り添って進化してきた犬は、その多くが吠えることを求められてきました。
例えば、牛や羊を追う牧羊犬は、吠えることで誘導し、またオオカミや野犬といった危険が近づいていることを知らせます。
また、狩猟犬は、吠えることで主人に獲物の位置を教えてくれます。
犬が大きな声で吠えるというのは、人間にとっては長い間、とても重要なメリットだったのです。
それでは、現代においてペットとして飼育している犬が吠えるときの心理は、どのようなものがあるのでしょうか。
犬が吠えるときの心理は、いくつかの場合にわけられます。
恐怖や警戒する対象がある場合
恐怖や警戒する対象がある場合は、低い声でうなり、必要以上に近づくと噛みつくことがあります。
また、大きな声で歯をむき出しにしてわめきたてるように吠えているときも、恐怖や警戒によるものです。
留守番中に来客に対して激しく吠えるのは、自分のなわばり、しいては一緒に暮らす家族を守るための行為です。
さみしさや不安がある場合
高い声で鼻を鳴らしたり、キャンキャンと連続して吠える場合は、犬がさみしさや不安を感じているときです。
「ク~ン」と鼻を鳴らし、尻尾を丸めて身体が震えているような場合は、強い恐怖や不安を感じています。
雷や大きな音、自分よりも体の大きな犬に出会ったときなどにこのような鳴き方をします。
痛みがある場合
犬は、基本的には体の不調を隠そうとする動物です。
しかし、強い痛みがある場合には、吠えることで飼い主に助けを求めることがあります。
犬にとって痛みがある場所を触った場合に、「キャン」という高い声で吠えます。
また、高い声で何度も鼻を鳴らし、身体のどこかを気にしているような場合は、痛みや異変があることが多いため、動物病院での診察を受けましょう。
自分の要求を通したい場合
ご飯やおやつが欲しい、遊んでほしい、散歩に行きたいといった自分の要求を通したい場合に、吠えて知らせてくれる犬がいます。
しかし、吠えるたびにこれらの要求に応えると、吠えさえすれば要求を満たしてくれると犬は学習してしまうため、注意が必要です。
また、飼い主に甘えたいような場合にも吠えますが、この場合は小さな声で短く吠えることがほとんどです。
嬉しかったり楽しかったりして、気分が高揚している場合
ほかの犬と出会った時や家族と久々に再会したときなどは、うれしさのあまり余計に吠えることがあります。
このようなときは、尻尾を激しく振り、全身でうれしさをアピールしている場合がほとんどです。
また、雌犬が発情している際、それに反応して雄犬がしつこく吠える場合もあります。
犬が吠えるには、それぞれしっかりとした理由があります。
犬にとって吠えるのは悪いことではないことを理解し、改善につなげていきましょう。
なぜ犬は音に敏感に反応するのか
犬が音に敏感になってしまう理由は、犬が耳が良い生き物であることに由来します。
耳が良いために、犬と人間では、同じ大きさの音でも犬にはその音がより大きな刺激として伝わってしまいます。
耳が良いゆえに、不安や恐怖を感じさせてしまうことにつながるのです。
ここで、犬の聴力がどれくらい優れているのか、具体的に見ていきましょう。
犬の聴力
人間の聴力よりもはるかに高い音を聞き取ることができ、また、遠くからの音も聞き取ることが可能です。
犬が聞き取れる音の距離は、人間の4倍といわれていて、1㎞以上離れた場所からの音も聞き取れるといわれています。
自宅で飼い主の帰りを待つ犬が、遠方から近づいてきた飼い主の車の音を察知することはよく知られていますが、それはこの優れた聴力のおかげなのです。
人間と犬の可聴音域は以下のとおりです。
可聴領域 | |
人間 | 20~20000Hz |
犬 | 40~65000Hz |
人間が一般的な会話で使用する音域は250Hz~4,000Hzの間です。
20,000Hz以上の音は超音波といわれ、人間が聞き取ることはできませんが、犬をはじめとした多くの動物は聞き取ることができるといわれています。
ちなみに、超音波で情報を取得するイルカが出せる音域は7,000〜120,000Hzだそうです。
音に敏感なのはどんな犬?
犬にも、音に敏感な犬とそうでない犬がいます。
音に敏感な犬は、一般的に耳が良い犬です。
犬の耳には立ち耳やたれ耳といった形がありますが、耳の形による聴力の差はないことがわかっています。
しかし、音に敏感とされる犬種があり、飼育する際には注意が必要です。
音に敏感とされている犬種は、以下のとおりです。
- ポメラニアン(牧羊犬由来。警戒心が強い)
- ヨークシャーテリア(猟犬由来。用心深い)
- シェットランド・シープドッグ(牧羊犬。用心深い)
音に敏感ということは、それだけ音に反応しやすいため、十分なしつけが必要になります。
続いて、犬が反応しやすい音にはどのようなものがあるのか、確認していきましょう。
犬が反応しやすい音
犬が反応しやすい音は、いくつかの種類にわけられます。
本能的に反応してしまう音、好んで反応してしまう音、恐怖・不安を感じる音の3種類です。
それぞれどんな音があるのか、みていきましょう。
本能的に反応してしまう音
犬が本能的に反応してしまう音は、以下のようなものがあります。
- ・小型のげっ歯類が立てる音
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これは、小型のげっ歯類を獲物として認識していた名残といわれています。
およそ8,000Hzの音がこれにあたります。
- ・遠吠え
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オオカミがそうであるように、遠方の犬とのコミュニケーションには、遠吠えはかかせないツールでした。
近所の犬が遠吠えをし始めたら、うちの犬もつられて遠吠えを始めてしまった、というのは、まさにこの名残です。
ちなみに、犬がサイレンに反応するのも、サイレンの周波数が遠吠えに似ているからです。
犬が好む音
犬が好む音はいろいろありますが、おもに以下のものがあげられます。
- ・陽気な音、落ち着いた音楽
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意外かもしれませんが、犬は音楽を理解することが可能です。
落ち着いた曲調のピアノやオルゴールなどは、犬をリラックスさせる効果があります。
また、クラシックやジャズなどの激しくない曲調の音楽、陽気な音楽も犬を落ち着かせ、楽しい気分にすることが可能です。
- ・ご褒美をもらえる音
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ごはんやおやつが入った袋のガサガサという音に、犬はよく反応します。
犬は食べることが大好きで、ごはんやおやつが入った袋からする音は、食事という犬にとっての楽しい記憶を呼び起こす音です。
これらの音がすると、犬は寝ていてもパッと飛び起きたり、遠くからじっと目で追っていたりと、期待する気持ちを隠し切れません。
- ・落ち着いた声、飼い主の足音
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犬は、飼い主や一緒に暮らす家族が大好きです。
そのため、飼い主や家族が犬の名前を呼ぶ声やほめてくれる声は、犬にとってとても好ましいものです。
また、家の中の誰かが外出したときには、犬はさみしさを感じ、その人の帰宅をじっと待ちます。
飼い主や家族が帰宅したときの足音は、さみしい気持ちから嬉しい気持ちへと切り替えてくれる合図です。
犬が恐怖・不安を感じる音
犬にとって恐怖や不安を感じる音はたくさんあります。
それぞれ見ていきましょう。
- ・空気が振動するような低く響く音
-
自然界でもっとも恐怖を覚える音といえば、雷ではないでしょうか。
ゴロゴロとうなり、その後ドーン、という大きな、まさに身体の中に響くような低く大きな音は、犬だけでなく生き物であれば誰でも恐怖を覚えます。
雷が鳴ると犬は恐怖や不安で錯乱状態になったり、小さくなって震え、飼い主や家族に寄り添って不安を解消しようとしたりします。
また、雷に近い音が和太鼓です。
和太鼓も、お腹の底に響くような振動が伝わるため、犬にとっては好ましくない音となります。
- ・大音量の音
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犬が苦手な音は、花火や列車が通過するときのような大音量の音です。
夏場のお祭りの花火は、小型犬を連れて出かけられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
人間にとっては楽しめる花火ですが、犬にとっては発達した聴力によって、恐怖・不安の対象となるのです。
突然の花火の音に驚き、パニックになってしまう犬もいますので、花火の音は、犬にとっては不快な音であることを覚えておきましょう。
また、チャイムやインターホンの音も、突然鳴る大きな音の一つです。
それまで静かだった環境に突然大きな音が鳴るので、犬は驚いて吠えてしまうことがあります。
そのようなときは叱らず、犬を落ち着かせてあげることが大切です。
- ・高音の音
-
犬は、人間が聞き取れない周波数が高い音も聞き取ることができます。
しかし、聞き取れることと好む音かどうかはまた別問題です。
金属音やモスキート音といった高い音は、人間同様、犬にとっても不快な音です。
また、小さな子どもの高い声も、苦手な犬は意外と多くいます。
犬が嫌がっているそぶりを見せたら、なるべく近づけないようにしてあげましょう。
- ・不機嫌な声
-
飼い主や家族に叱られるときの声を、犬はしっかりと覚えています。
そのため、不機嫌な声を聞くと、犬は再び叱られると感じ、身構えてしまいます。
犬を吠えさせないようにするのは人間の都合
犬が吠えること自体は、決して悪いことではありません。
犬が音に反応して吠えるときは、その多くが本能からによるものや、恐怖や不安といった不快な感情を由来とすることがわかりました。
しかし、だからといって犬のタイミングで吠えるのを放置しておくと、近所の方に迷惑になったり、飼い主にとってもストレスになったりします。
そうならないために、犬にお願いする気持ちで、犬が吠えるのを人間がコントロールする、吠えさせないようにする方法を身につけることが大切です。
犬を吠えさせないようにする方法
犬を吠えさせないようにするためには、どのような方法があるのでしょうか。
一緒に見ていきましょう。
吠えるスイッチを入れさせない
犬は賢い生き物なので、吠えることによって状況が改善されることを学習すると、吠えること=良いことという認識が生まれます。
よって、吠えても報酬を得られないことを学習させれば、吠えるという行動は減少していくのです。
吠えるスイッチを入れさせないためには、具体的にどのような行動をとるべきなのでしょうか。
無視する
まずは犬が吠えても反応せず、無視することは吠え癖を改善するのに最も有効です。
犬が吠えることによって人間が何かしらの反応を示すことで、犬は拍車をかけて吠えるようになるためです。
人間が反応しないことがわかれば、それは犬にとって無駄な行動となるため、吠えることが少なくなっていきます。
よって、人間にとって根気が必要ではありますが、最も効果的な方法なのです。
指示によって別の行動に切り替える
犬が吠え始めたら、別の指示を与えて行動を切り替えさせましょう。
お座りや待てといった指示を与えることで、犬の思考がそちらの指示に向くためです。
対象とする音に慣れさせる
特定の音に吠えるのであれば、その対象に慣れさせることで、恐怖や不安を少なくすることができます。
例えば、掃除機やドライヤーのような家電は、スイッチを入れない状態であれば犬にとっては何の害もありません。
静かな状態から少しづつ近づけていき、犬にとって害がないことを少しずつ覚えさせていきます。
このときに注意すべきことは、慣れるまで焦らないこと、犬の様子をよく観察し、無理はさせないことです。
焦って近づけすぎると、逆に恐怖や不安をあおる存在となってしまうため、慣らすときにはじっくり時間をかけて慣らしていきましょう。
絶対に安全なテリトリーを作る
犬が恐怖や不安を感じたときに、避難して安全を感じられる場所があることは、とても重要です。
そのため、犬のためのスペースとして、ケージやサークルは室内外であっても用意してあげましょう。
それと同時に、ハウスの指示をしてケージやサークルに入ることができるよう、トレーニングをしておくことも必要です。
自分のテリトリーで待機することができれば、興奮していた気持ちも徐々に落ち着かせることができます。
トレーニングの際にしてはいけないこと
吠え癖を治すためのトレーニングで、してはいけないこと気をつけるべきことをご紹介します。
吠えているときに反応する
犬が吠えているときに人間が反応すると、犬はそれに応じて更に吠えるようになります。
特に、吠えているときにほめたり、優しく接したりすると、吠えることが良いことだと認識されてしまうので、余計に吠えてしまいます。
犬が吠えたときに頭ごなしに叱ることも、じつはよくありません。
これも、犬にとっては吠えたことに対して反応してくれたと勘違いします。
そうすると、余計に吠える原因となってしまうのです。
また、叱られることに対して恐怖を覚え、余計に吠えてしまうことにもつながります。
犬が吠えたときには、人間は反応せず、無視をすることが一番です。
要求吠えに対応する
ご飯やおやつをねだって吠えているときに、根負けして要求にこたえてしまうと、犬は吠えればもらえると学習します。
心苦しくはありますが、こちらも反応せず無視をしましょう。
無理矢理嫌いな音に慣れさせようとする
小さな音や調整が可能な音であれば、日常生活の中で徐々に慣れさせていくことが可能です。
しかし、花火のような大きな音に慣れさせることはやめましょう。
犬にとっては余計にストレスとなり、体調を崩す原因にもなります。
音への許容は個体差があるので、音に慣れさせるときはしっかり犬を観察し、見極めることが大切です。
最後に
犬は、吠えるという特性も人間に利用され、進化してきました。
犬が吠えるのには、れっきとした理由があります。
吠える理由は、本能的なもの、興奮、恐怖などそれぞれありますが、中には一緒に暮らす人間を守ろうとして、不安と闘いながら吠えることももちろんあります。
犬が吠えるという行動を無理に抑え込むのではなく、吠える理由や原因をしっかり把握して、吠える必要がないことを教えていきましょう。
一度ついてしまった吠え癖を治すには、十分な時間が必要です。
しかし、吠えることをコントロールできるようになれば、犬のためにも、人間のためにもなります。
根気強く取り組んでいきましょう。