ブリーダー等から2、3ヵ月子犬を家に迎えるとき、ふやかしてご飯をあげましょうと指導することがほとんどです。フードはいつまでふやかした方がいいのか、どのようにふやかすのか、食べてくれないときはどうしたらいいのかと悩む飼い主は多いのではないでしょうか。
子犬に合ったドッグフードの与え方を理解すれば、子犬の成長を促せ、健康的な身体づくりをサポートする食生活を送ることができます。本記事ではペット栄養管理士がおすすめする、子犬のドッグフードのふやかす期間を解説します。ふやかし方や注意点についても解説するので、内容を確認してみてください。
子犬のドッグフードをふやかすことの重要性は?
子犬のドッグフードをふやかすことは、次の理由で重要です。
- 匂いや温度で嗜好性が上がる
- 未熟な顎や歯への負担を軽減する
- 未熟な消化器官への負担を軽減する
- 同時に水分摂取が行える
それぞれ解説するので、内容を確認してみてください。
匂いや温度で嗜好性が上がる
ドッグフードをふやかすことによって、食いつきをよくすることが可能です。
ふやかす際に温めることで、より匂いが強くなり、体温に近い38度前後の温度で食べさせることができるため、犬にとって美味しいと感じやすい食事になります。
犬は人の3,000∼10,000倍の優れた嗅覚を持っており、食事の美味しさを匂い、温度の順で判断します。狩りをして獲物を捕食する野生動物が好む、腐敗臭のしない、体温が感じられる死後直後の新鮮な食べ物の原理と同じです。
特に生まれてすぐの子犬は、視覚や聴覚と比べ、最も早く嗅覚が反応するため、幼犬期においても食事の匂いは重要になります。
未熟な顎や歯への負担を軽減する
ドッグフードをふやかすことによって、子犬の未熟な顎や歯への負担を軽減することができます。
生まれてすぐの子犬には歯が生えておらず、顎の筋肉も未熟であるため、硬いものを咀嚼することは不可能です。舌を使って舐めるだけで食べられるものや、歯茎でつぶせる程度の硬さにしてあげましょう。食べにくく、硬いものは好まず、食欲を減退してしまう場合もあります。
フードの咀嚼は顎や歯の成長を促すことが期待できるため、成長とともに少しずつ硬い食事への移行が望ましく、生後1∼6ヵ月の適切な時期でふやかしを行うようにしましょう。
未熟な消化器官への負担を軽減する
ドッグフードをふやかすことによって、子犬の未熟な消化器官への負担を軽減することができます。
生後間もない子犬は、消化器官が発達しておらず、腸内環境が整っていないため、食事の未消化を起こしやすい時期です。元気に見える子犬に、嘔吐や下痢が多いのは、フードの量や質が身体に合っていないことが原因になります。
ドライフードをふやかすことによって、かさましされ、1回の食事で満足感を得られやすくなります。少量を数回に分けて与えるようにすると、消化器官への負担を減らすことができ、嘔吐や下痢をしにくくなる点もメリットです。
消化器官への負担度合いは、便を確認するようにしましょう。消化器官が未熟で未消化が起こっている問題以外にも、回虫や鉤虫などの寄生虫の影響や、細菌やウイルス性に感染している場合があります。判断を間違えると命の危険も考えられるので、必ず獣医師に相談し、腸内環境を検査して原因を追及してください。
同時に水分摂取が行える
ドッグフードをふやかすことによって、食事と同時に水分摂取を行うことができます。
子犬の水分必要量は体重や環境の温度によって変化しますが、成犬に比べて体重当たりで多くの水分摂取が必要になります。水のみで摂取するのは難しく、食事と一緒に水分摂取できることが望ましいでしょう。
環境省の「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」によると、子犬に限らず、すべてのライフステージで、犬が積極的に水分摂取できるよう、いつでも新鮮な水が飲める環境にすることを推奨しています。
適量な水分が摂取されているか、脱水状態になっていないかを調べることで可能です。尿が通常よりも濃い色や少ない量の場合や、背中の皮膚をつまんで離し、2秒以内に元の状態に戻らない場合は、脱水症状を起こしている可能性があります。特に生後間もない子犬は進んで水分摂取をすることが難しいので、摂取量を計測し、注意して観察しましょう。
子犬のドッグフードをふやかすのはいつまで?
子犬のドッグフードをふやかす期間は、歯の生え変わりに合わせると良いでしょう。
- 生後すぐは母乳や犬用ミルクで栄養を補給する
- 生後1ヵ月から離乳食の始める
- 永久歯の生え変わりとともにドライフードへ切り替える
それぞれの成長時期に合わせた食事について解説します。
生後すぐは母乳や犬用ミルクで栄養を補給する
生まれてすぐは、母乳や犬用のミルクで栄養を補給します。
生後から乳歯が生え始める生後3∼4週は、ミルクのみで十分な栄養素を摂取することが可能です。犬用の粉ミルクを利用する場合は、子犬用の哺乳器を利用します。免疫機能が成熟していないため、雑菌が繁殖している哺乳器を利用すると、体調を崩しやすくなってしまうため、煮沸消毒を行ない、清潔に保つよう心掛けましょう。
粉ミルクの作り方は使用するメーカーによって溶かす最適温度が異なりますが、50∼70℃程度のお湯でミルクを溶かし、35∼40℃の体温程度に冷ましてから与えるものが一般的です。生後間もない子犬は、低血糖症にならないよう、3時間おきにミルクを与えましょう。
分娩後直後に分泌される初乳には、成熟乳よりエネルギーや栄養濃度の高く、免疫力を高めるIgGという免疫グロブリンが多く含まれます。初乳が分泌できる母犬の場合はできるだけ初乳を与え、子犬に母犬から抗体を受け継がせ、免疫力を高めるようにしてください。
生後1ヵ月から離乳食の始める
ふやかしフードの始まりは乳歯が生え始める生後1ヵ月ごろからです。
離乳食の開始時期である、初期の乳歯の生え始めは、舐める行為を覚えさせる必要があり、ミルクに近い形状のものを少しずつ与えるようにします。固形物を食べることができるまでは、ミルクと併用し、低血糖症にならないよう十分に必要量が摂取できるように注意しましょう。
中・後期の生後2、3ヵ月頃には、1日3∼4回ふやかしフードが最も必要な時期です。食べることに楽しみを覚え、自我を持ち始める時期でもあるので、アイコンタクトをしたり、名前を呼んであげたりと、コミュニケーションを取るための反応が見られるようにもなります。しつけを始める最適な時期でもあるので、ご飯を上手く利用し、愛犬の様子を見ながら社会性を身に付けるしつけを進めると良いでしょう。
初めのうちは食べることが難しく、食欲不振にもなりやすいです。くわえて、ブリーダー等から子犬を迎えるケースが多いタイミングでもあるため、環境の変化でストレスを感じてしまうこともあります。食べることが嫌いにならない工夫が、一生涯の食生活に大きく影響するので、食の楽しみを覚えさせるためにも、愛犬の嗜好への理解が重要になります。
永久歯の生え変わりとともにドライフードへ切り替える
ふやかしフードからドライフードへの移行は、永久歯が生え始める生後3~4ヶ月から少しずつ始めます。
ドライフードにすることで、咀嚼し顎の筋肉を鍛えられ、歯に付着した歯垢を落とすことが可能です。完全に永久歯に生え変わる7ヵ月以降までには、ドライフードに移行できると良いでしょう。
ドライフードの移行の仕方は、少しずつふやかす水分量を減らし硬さを調整して行きます。完全に移行するまでには、ゆっくりと1∼2週間かけて行いましょう。繊細で変化に敏感な子の場合、フードが変わったと感じ、食欲不振になる可能性があるので、注意が必要です。
フードの移行の際は必ず、便の様子を観察してください。下痢や便秘の場合は、消化不良を起こしており、与えているフードが合っていない可能性があります。生後6ヵ月までの成長スピードは一生涯の中で最も速く、より食事の重要度が高く、個体差も大きい時期のため、愛犬に適した食生活を理解しておきましょう。
ドライフードのふやかし方
ドッグフードのふやかし方は、次のポイントを考慮して行います。
- フードの量に合わせて適切な水の量を調整する
- ぬるま湯を使用してふやかす
- ふやかす時間はできるだけ短くする
それぞれ解説するので、内容を確認してみてください。
フードの量に合わせて適切な水の量を調整する
ドライフードをふやかす場合は、まずフードの量に合わせて適切な水の量を調整しましょう。
容器に計量したドッグフードを入れ、浸るくらいの水分量が適切です。水分量が多いと、かさましし過ぎてしまい、摂取量が増えて完食しにくくなったり、水に栄養素が溶けだしてしまいます。ふやかしに使用した水分は捨てずにすべて与えてください。
使用する水は、軟水である水道水を使ってふやかします。硬水のミネラルウォーターは、カルシウムやマグネシウムが多く含まれており、総合栄養食にミネラル成分が足され、栄養過多になり、腎機能に負担がかかる場合があります。
犬に与える水は水道水で十分ですが、地域や環境によって水道水に抵抗のある場合は、ミネラル成分の添加などの化学処理を行っていない、天然水を選択したり、フィルターで浄化した水道水を利用したりし、ミネラル添加のない水を選びましょう。
ぬるま湯を使用してふやかす
ドッグフードをふやかす際は40℃程度のぬるま湯を使用するのがおすすめです。
50℃以上の熱湯でふやかすと、水溶性ビタミンであるビタミンC、ビタミンB群や、水に流れやすいカリウムは破壊され、吸収することができなくなります。
触れることができる程度のぬるま湯でフードふやかし、指やスプーンで押してつぶせる柔らかさになったら完成です。
子犬は舌の皮も薄く、温度が高いと熱く感じやすいため、やけどしないために必ず冷ましてから与えるようにしましょう。温度計を利用し計測することをおすすめしますが、ない場合は、触って少し温かさを感じる程度が適切な温度です。
ふやかす時間はできるだけ短くする
ふやかす時間はできるだけ短くすると良いでしょう。
適温である30∼40℃は、細菌の繁殖が最も進みやすい温度であり、水を含むドライフードは、細菌の好む脂肪成分や湿気のバランスも良いため、酸化、腐敗が進みやすくなります。喫食時間を十分に確保するためにも、できるだけ素早くふやかしを終えることが必要です。
一般的に食中毒菌の増殖速度は20分で2倍になると言われており、ドライフードをふやかす時間は、食べる時間を考慮し、5分から10分で完成するようにします。時短方法として、高温にならないように、数秒ずつ様子を見ながら電子レンジにかけたり、ドライフードを予めミキサーなどで砕いてからふやかすと良いでしょう。
ふやかす際の気を付けるポイント
ドッグフードをふやかす際に気を付けるポイントは次の通りです。
- 食いつきを良くするには水以外でふやかす
- 1日3∼4回の頻回食にする
- 作り置きはせず、20分程度で完食してもらう
それぞれ解説するので、内容を確認してみてください。
食いつきを良くするには水以外でふやかす
食いつきを良くするには、水以外を使ってふやかす方法もおすすめです。
ふやかしてすぐは、温度が高くなることによって匂いが強くなりますが、冷めると少しずつ匂いが落ちてしまいます。食いつきが悪く、食べてくれない場合は、ミルクや、チキンなどの出汁を使った犬用スープを活用し、匂いを強くすると良いでしょう。
使用するミルクは、離乳食前に与えていた粉ミルクや、犬用牛乳を利用します。人用の牛乳には、乳糖(ラクトース)が多く含まれており、犬は分解する消化酵素ラクターゼが少量しか分泌できないため、消化不良により、嘔吐や下痢の原因になるので、使用すべきではありません。
子犬用総合栄養食の場合、水とフードのみで十分な栄養を摂取できるようになっているので、ミルクなどを利用すると栄養過多になってしまうので与える量には注意が必要です。食いつきが悪く栄養不足の可能性がある時のみ利用し、毎食での利用は抑えると良いでしょう。
1日3∼4回の頻回食にする
1日3∼4回に分けて与える頻回食にします。
子犬は消化吸収を行う胃腸の機能が未熟のため、2倍以上にかさましされたふやかしたドッグフードを、一度にたくさんの量を摂取、消化することができません。頻回食にすることによって、十分に栄養摂取ができ、血糖値の増減を軽減し、低血糖症の回避にも繋がります。
1日に必要な量を6∼8時間おきに時間を決めて与えましょう。1度に完食できない場合は、食事の回数を増やし、完食できる量を少量ずつ与えるようにします。
ふやかしたフードは水分が多く含まれており、少量で満腹になるため、食の細い子はすぐに満足してしまいます。毎食完食しないと、1日に必要な栄養を十分に摂取できなくなり、栄養不足や低血糖症を起こしやすくなるため注意が必要です。愛犬が食べられる量を考慮し、与える回数を調整しましょう。
作り置きはせず、20分程度で完食してもらう
ふやかしたドライフードは作り置きはせず、作ってから20分程度で完食してもらうようにします。
犬にとって嗜好性の高い体温と同じ温度は、細菌が最も増殖しやすい温度帯です。ふやかす時間がかかるからと作り置きをしてしまうと、菌の繁殖が進み、お腹を壊したり、便に異常をきたしたりし、子犬の身体に悪影響を及ぼします。
子犬は食べることだけに集中できない子や、食べムラがあり、残してしまう場合もありますが、食べないからと言って置きっぱなしにしてしまうのは良くありません。
特に人気の犬種であるチワワやトイプードルなどの小型犬は、フードの粒のサイズや温度に繊細な場合があり、個体差はあるものの、中・大型犬よりグルメでこだわりのある子が多い特徴があります。時間を決めて食べなくなったら食器を下げるようにし、愛犬の嗜好に合う食いつきが良いものを探してあげましょう。
ウエットフードの活用
ドライフードのみではなく、ウエットフードを上手く活用することもおすすめです。
ウエットフードはふやかす必要もなく、そのまま使えるため、時間がないときや、嗜好性をあげたいとき、便利に活用できます。ドライフードに比べ、穀物などの炭水化物が少なく、肉や魚の動物性たんぱく質の分量が多い傾向があり、嗜好性が高いのも特徴です。
ウエットフードを利用する場合も、必ず子犬用の総合栄養食を選択してください。
1度に食べきれない場合は、蓋をするなど空気に触れないよう密閉し、冷蔵庫で保管し、2日以内に消費します。
消費しきれない分は、少量ずつラップに包み、冷凍保存することで3週間程、保つことができます。
ウエットフードのみの利用は、費用面の負担が大きいことが問題です。また、ドライフードに比べ、同じグラム量あたりに含まれる添加物含有率が高くなります。普段はドライフードをふやかした食事を中心にし、安全、安心を保ちつつ、負担や嗜好を考慮しながらウエットフードを併用するとよいでしょう。
まとめ
本記事では子犬のドッグフードのふやかす期間について解説をしました。子犬の成長にとって最も重要な食生活を送るために、下記の3つの期間に分けて考えることが大切です。
- 生後すぐは母乳や犬用ミルクで栄養を補給する
- 生後1ヵ月からふやかしフードの離乳食の始める
- 永久歯の生え変わりとともにドライフードへ切り替える
ふやかしたドッグフードは子犬以外にも高齢犬や歯の悪い犬、ダイエット目的、病気等の理由で食欲不振の犬にも使用することができます。犬の一生涯を通して、利用する機会があるからこそ、ふやかす方法や注意点は覚えておくと良いでしょう。