タヌキといえば、日本人にとって親しみ深い、なじみの動物ですよね。
丸いフォルムにおっとりとした、かわいらしい存在として、昔話にも数多く登場します。
今でも、緑が多い地域に行けば比較的遭遇率が高く、身近な動物として愛されています。
ただし、農家にとっては農作物を荒らすこともあるため、必ずしも「かわいい」とは認識されないかもしれません。
タヌキの仲間はアジアを中心に広く分布していますが、じつは、日本のタヌキは日本の固有種である可能性が高いことが最近わかってきました。
海外では珍しさから、人気が高い動物の一つでもあるのです。
また、海外ではタヌキの存在を知らない方も多く、空想上の動物としてしか認識されていないこともあります。
では、日本に住む私たちは、どれくらいタヌキのことを知っているでしょうか?
今回は、日本で昔から愛されてきた動物「タヌキ」について、生態や信仰など、幅広くみていきましょう。
タヌキはなぜ日本にしかいない?

タヌキの仲間自体は、日本だけでなくアジア各国やロシアにかけて確認されています。
日本でみられるタヌキは「ホンドタヌキ」と「エゾタヌキ」の2種類で、これらは日本の固有種である可能性が高いと考えられています。
これら2種の生息域は文字通り、ホンドタヌキは九州から東北にかけて、エゾタヌキは北海道です。
2015年、帯広畜産大学から、もともといわれていたDNAの違いだけでなく、頭蓋骨の大きさからも日本のタヌキと大陸のタヌキに違いがみられることを発表しました。
これにより、日本のタヌキは日本の固有種であることの科学的な根拠をより強くしたといえます。
なぜ、日本のタヌキは日本の固有種となったのでしょうか?
その原因と考えられているのは、今から約260万年前にあった氷河期の、大陸と日本の分断です。
タヌキの祖先は約500万年前には日本だけでなくヨーロッパまで、広く生息していたことがわかっています。
それまで陸続きだった日本と大陸は、氷河期に分断され、その結果、日本のタヌキは取り残される形となり、独自の進化を遂げたと考えらえているのです。
タヌキの分布は拡大している

環境省生物多様センターでは、人間と生活圏が被るタヌキ・キツネ・アナグマについて、
2018~2021年度にかけて、生息分布調査を行っています。
過去には、1970年代と2000年代に同様の調査が実施されましたが、継続的には行われておらず、全国的な生息分布の把握は久々となりました。
調査は4年にかけて行われましたが、調査対象は2010~2021年と10年にわたります。
その結果、次のようなことが分かりました。
- 生息数自体は減少が確認された
- タヌキについては51,325件の生息情報が得られた
- 沖縄県以外で生息が確認された
- 屋久島や奥尻島では生息が確認された
- 伊豆・小笠原諸島(東京都)、トカラ列島・奄美諸島(鹿児島県)では生息が確認されなかった
- 北海道の一部や本州の高山地帯では生息が確認されなかった
- 前回の調査と比較して、東京都、千葉県、神奈川県、愛知県、大阪府で分布が広がっている
意外?住宅地でも見られるタヌキ
興味深いのは、東京や愛知、大阪といった大都市圏で生息分布が広がっていることです。
タヌキといえば、里山で生活しているイメージが強いのではないでしょうか。
しかし、実際は公園や河川敷、緑地といった街中を生活の場としている個体もおり、夜間にゴミをあさる姿も確認されています。
もともと雑食性であることから、人間のそばであれば餌に困ることはないのかもしれません。
タヌキの生息数減少・分布拡大は外来侵入生物の影響?

タヌキの生息域を奪っている動物が、アライグマです。
アライグマはもともと日本にはおらず、1970年代頃のペットブームで輸入が増え、逃げる・逃がす行為によって野生化したものが数を増やし、2005年に「特定外来生物」に指定されました。
タヌキの生息域を奪うだけでなく、農作物や家畜へも被害が出ています。
タヌキとアライグマは競合関係にある
タヌキとアライグマは食性が似ており、ほとんど同じものを食べるだけでなく、生息環境もかぶっています。
タヌキとアライグマを比較すると、アライグマのほうが身体が大きく、力も強く、縄張り争いをした際にはアライグマが勝ってしまうのです。
その結果、タヌキはアライグマが生活しづらい都市部へと追いやられたのかもしれません。
参照:平成28年度タカラ・ハーモニストファンド研究助成報告|外来種アライグマと在来種タヌキの競合関係解明に関する研究
タヌキをペットとして飼育することはできる?

野生のタヌキを捕まえてペットとして飼育することはできません。
野生のタヌキは「鳥獣保護法」によって、飼育が禁止されている動物です。
そもそも、野生の生き物なので人間になつくことは少なく、犬のようにしつけることも難しいでしょう。
また、野生のタヌキは病気を持っていることも多く、なるべく触れないことが望ましいといえます。
すでに犬や猫などのペットを飼育されている場合はなおさらです。
タヌキは飼育することは法的にも野生の性質から見ても難しいのですが、病気やけがなどを負っている場合に、一時的に保護することは認められています。
交通事故で負傷していたり、弱って動けなくなっていたりするタヌキを見つけたら、まずは獣医に診察してもらいましょう。
そのときには、かまれたり引っかかれたりしないよう注意が必要です。
タヌキは「疥癬」という、ヒゼンダニによって引き起こされる病気を持っていることが多く、こちらにも気を付けなければなりません。
疥癬はほかの動物に移ることもあり、ひどいかゆみや皮膚の赤み(アレルギー反応)、脱毛などを引き起こします。
タヌキをはじめとする野生動物は、疥癬によって衰弱していくことも珍しくありません。
毛が抜けて皮膚がボロボロになっているタヌキは、疥癬にかかっていると考え、手で直接触れないよう、どうしても触れなければならない場合は手袋やタオルなどを使用しましょう。
基本的に、野生動物であれば衰弱していても人が介入することは本来避けるべきといえます。
弱っているからといって、餌を与えるのも極力避けるべきです。
これは、人間から得られる食べ物に依存するようになることで、ほかの望ましくない結果につながることもあるためです。
けがや病気で保護したあと、事情があって自然に返すことが難しい場合は、許可を得ることでタヌキの生涯飼育を行うことができます。
例えば、けがの後遺症や病気によって、野生での生活が困難とされる場合です。
生涯飼育許可は、所属する自治体で得ることができます。
おっとりしている?タヌキの生態

タヌキといえば、ほかの動物に比べておっとりした、どこかまぬけな面がある動物として表現されることが多いです。
実際には、タヌキはどのような性格で、どのような暮らしをしているのでしょうか。
タヌキの特徴をみていきましょう。
タヌキの身体的特徴
タヌキの大きさは、頭から胴体までは50~60cm、ふさふさのしっぽは約15cm、体重は3~5kgと、じつはとても小柄です。
目の周囲の黒いアイパッチが特徴で、犬やキツネと比べると足が短く、ずんぐりむっくりの体形をしています。
毛色は灰色から茶褐色のベースに黒や白い毛が混ざります。
足先や尻尾の先も黒いのが特徴です。
タヌキとよく似た動物にアナグマやアライグマがいますが、顔や尻尾の模様から、これらを区別することができます。
タヌキは目の周りだけが黒く、尻尾には縞などは入っていません。
タヌキと同じくらい、もしくはそれ以上に成長する大きさのアナグマは、目元の黒い模様が額から鼻先にかけて2本入ります。
顔の形は、タヌキの丸顔と比べるとスマートな細長いのが特徴です。
タヌキの天敵であるアライグマは、顔の模様は似ていますが、タヌキよりも黒い範囲が広く、尻尾全体に横縞が入ります。
タヌキとアライグマを見分けるには、尻尾を確認するとよいでしょう。
集団生活するタヌキ

タヌキは、単独もしくは家族単位の集団生活を営む動物です。
縄張りは持たないため、同じエリアに複数のタヌキの集団が生活していることもあることから、タヌキは元来温厚な性格なのかもしれませんね。
タヌキは、山の奥深くから人間が暮らす里山、街中まで、幅広い範囲で生息しています。
暗い穴のような場所をねぐらとしますが、自分で穴を掘ることはなく、ほかの動物が作った穴や自然にできた洞穴などを利用するのが特徴です。
両親が育児に参加
タヌキは自然界では珍しい、両親ともに育児に参加する動物です。
一夫一妻制で、メスが子供たちに授乳をはじめとする世話を行い、オスはメスに餌を運んでくるだけでなく、巣の周りを監視することで敵から子供たちを守ります。
強い動物とは言い切れないタヌキが生き残っていくためには、夫婦での協力が欠かせないのでしょう。
タヌキがいる証拠!タメ糞
タヌキは、一か所に糞をする「タメ糞」がみられる動物です。
特定の1頭だけでなく、複数の個体が同じ場所に糞をすることも一般的にみられ、タメ糞はかなりの大きさになることもあります。
タメ糞は、複数の個体が共同利用することで、タヌキ同士の連絡手段として使用されていると考えられています。
タヌキの食性(歯の特徴)
タヌキは雑食性で、小動物をはじめ、昆虫や木の実、野菜なども食べる動物です。
その特徴は、歯にも現れています。
タヌキの歯を調べた結果、犬歯は肉食動物ほど鋭くなく、どちらかといえば太短い形をしていることがわかっています。
通常、肉食動物の臼歯は肉を切り裂くために鋭くとがっていますが、タヌキの場合はこれらの歯もそこまで発達していません。
このように、歯の形からも、タヌキの食性が明らかになっているのです。
おとなしく、ほかの動物ほど争いを好まないタヌキは、食性に幅を持たせることで生き延びてきたのかもしれません。
参照:J-STAGE|エゾタヌキの歯数および歯根の変化について
タヌキに会える動物園

いくら日本に住んでいても、野生のタヌキにはそうそうお目にかかれません。
しかし、日本にはタヌキを飼育・展示している動物園がたくさんあります。
国内では、40以上の動物園でタヌキに会うことができるため、休日に足を運んでみるのもよいでしょう。
注目したいのは、三重県にある大内山動物園です。
ここでは、珍しい白いタヌキ「アルビノタヌキ」を展示しています。
全身真っ白で、目は薄い青色をしたタヌキです。
海外では、タヌキを展示している動物園はあまりありません。
じつは、日本のタヌキは、海外の方にとっては日本のパンダのような存在なのです。
シンガポール動物園では、タヌキが展示されていますが、来園したときには記念式典が開かれ、動物にしてみればVIP待遇といえる「冷暖房完備」の部屋にいます。
また、2013年にいしかわ動物園とシンガポール動物園が交換したのが、タヌキと世界三大珍獣の「コビトカバ」というのも驚きです。
日本人にとって身近で昔話にも登場するタヌキ

日本で生まれ育った人であれば、タヌキを知らない人はほとんどいないでしょう。
実際に見たことはないけれど、タヌキの存在を知っている方は多いはずです。
私たちは、幼いころからタヌキを知っています。
タヌキは、昔話や童話などにもたくさん登場する動物です。
たとえば、
- かちかち山
- タヌキの糸車
- 分福茶釜
などがあります。
そのほかにも、「証城寺の狸囃子」をはじめとする童謡や、日本で出版されている絵本の多くにも、タヌキは登場します。
それほど、日本人にとってはなじみが深い動物なのです。
里山での暮らしが中心であった昔の人々にとって、タヌキは農作物を荒らす害獣であったとともに、その見た目や性格から、どこか憎めないかわいらしい動物だったに違いありません。
生活の中でみられるタヌキ
タヌキは、生活の中でもキャラクターとして目にすることが多い動物でしょう。
たとえば、飲食店や商店などの玄関先で迎えてくれる信楽焼のタヌキがあります。
じつはこれは縁起物で、「他を抜く」ことから、ほかの店よりも繁盛するようにという意味が込められています。
家に置く場合は、家庭円満という意味もあるようです。
信楽焼のタヌキは、江戸時代の後期から作られるようになりました。
現代のように縁起物として広まったのは、明治時代からといいます。
タヌキをまつる神社
動物信仰では、稲荷神社にみられる狐や、蛇神社で祀られる蛇などが有名ですね。
じつはタヌキも信仰されていて、特に四国ではタヌキを祀った寺社が多くみられます。
弘法大師が四国から狐を追い出したとの逸話が残っており、その結果、四国では狐ではなくタヌキを広く信仰するようになったのだそうです。
四国には、四国三大狸の伝説があります。
- 金長狸(徳島県)
- 隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)狸(愛媛県)
- 屋島の禿狸(太三郎狸)(香川県)
それぞれ、強い力を持ち、各地でさまざまな逸話が残されています。
四国では、タヌキの御朱印がいただける寺社が複数あるため、興味のある方は訪問してみましょう。
日本三大狸は、以下のとおりです。
- 団三郎狸(新潟県)
- 芝右衛門狸(兵庫県)
- 太三郎狸(香川県)
各地に残るタヌキの逸話は、どれもユーモアで、特に子供は興味を持ちやすいものばかりです。
一緒にどのようなタヌキの逸話があるか探すことも、きっと楽しいはずですよ。
まとめ

日本ではなじみ深いタヌキが、じつは海外ではとても珍しい動物だということを、多くの日本人は知らないかもしれません。
いつまでもこの愛らしい動物を守りたいものです。
コロンとした丸いフォルムで、家族思いの動物がタヌキです。
タヌキが日本の里山でいつまでも穏やかに暮らせるのは、動物たち全体にとっても理想的な形なのかもしれません。
人間のそばで暮らさざるを得ないタヌキが増えないよう、それまでの環境を維持することは、私たち人間の重要な役割に違いありません。
また、タヌキは日本独自の動物であることが、確立するまであと一歩です。
近い将来、研究の成果によってその日が来るのも楽しみですね。


